ヤンキー恋リア、ネトフリ『ラヴ上等』 オッサンでもハマる人続出! キラキラABEMAと異なる「独自路線」のヒミツ

Netflixが送るヤンキー同士の恋愛リアリティ番組『ラヴ上等』(2025)が話題だ。12月9日に第1話〜第4話までが公開されると、国内ランキングで初登場1位、海外ランキング(非英語シリーズ)でも8位を獲得。12月23日配信の第8話〜最終10話でフィナーレを迎えてからも、国内で首位をキープしている。
元暴走族総長、元ヤクザ、少年院出身者など、社会からはみ出した男女11人のヤンキーが、14日間の共同生活の中で真実の愛を見つけていくというコンセプト。これまで、35歳以上の男女限定の『あいの里』(2023〜)や、男性同士の『ボーイフレンド』(2024〜)など、多様な人たちの繊細な恋愛模様を映し出してきたネトフリらしいといえばネトフリらしい、「そこに目をつけたか!」という新しい視点での生々しいぶつかり合いは、男性陣にも支持を得る。
「恋リア」ジャンルを開拓したABEMA
配信時代、そこ「恋愛リアリティ」ジャンルの人気を確固たるものにしたのはABEMAだ。Amazonプライムビデオで『バチェラー・ジャパン』が配信された2017年、現役高校生たちが主役の『今日、好きになりました。』(2017〜)をスタートし、“テレビよりもスマホ”世代である10代を虜にした。その後は、高校生が遠距離恋愛をする『恋する週末ホームステイ』、恋をしない“嘘つき“オオカミが潜む『オオカミくんには騙されない』をはじめ、禁断の“公認”浮気生活をさせる『隣の恋は青く見える』、愛か金か、究極の選択を迫る『ラブキャッチャージャパン』など、数々の恋リア番組を世に放ち、シリーズ化させている。
作品のラインナップを俯瞰すると、キラキラのなかに、恋愛における“鉄板”の悩みを浮かび上がらせるテーマが工夫されているABEMA。並べればネトフリの恋リアと特色が異なることは明らかで、ひとくちに恋愛リアリティといえど、両社の戦略の違いは何か。
ABEMAの立ち上げにも携わったテレビプロデューサー・鎮目博道氏に見解を求めた。
ABEMAは“自分ごと”路線
ABEMAは、IT企業として日本のインターネット界を牽引してきたサイバーエージェントが運営する配信プラットフォームだ。
同社は、創業以来レンタルブログサービス「アメーバブログ」や仮想空間アバターサービス「アメーバピグ」のように、個人が気軽に参加・発信できるネットサービスを成功させてきた、鎮目氏曰く「“自分ごと”の企画が得意な会社」。恋愛番組においても“自分ごと”の視点になってもらえるように、ターゲットを明確に絞った企画を立てるのが特徴だという。
「もともとサイバーエージェントは社員が若く、若者向けのサービスを得意としてきて、ABEMAの恋リアも制作現場の中心は20代の女性たち。“若者に刺さる”かどうかが番組作りのベースにあり、恋リアも“自分ならどうするか”を考えさせる。あるいは、“自分もこんな恋がしてみたい”と、ちょっと憧れるぐらいのレベル感を狙う。“自分の話”だと錯覚させ、自分ごととして、夢中になってもらう番組づくりに長けているんですよね」(鎮目氏、以下同)
前出『今日好き』は、現役高校生たちによる“等身大感”がウリだ。高校生ならではの瑞々しく甘酸っぱい恋愛模様は同年代の視聴者の共感を呼び、開始10年目を迎える2026年にはシーズン76を数える人気シリーズとなっている。
“話題性”を狙うこともセット
そんなABEMAの恋リアは、「学校やSNSで話題にしてもらう」までがセットだという。
「絞った界隈で盛り上がり、かつなるべく長くバズらせることを視野にいれて企画を立てるのがABEMA。アプリはコメント投稿型に設計されていますし、公式SNSも本編未公開のショート動画を投稿するなど、番組を盛り上げる施策に積極的です。
内容面でも、ゲーム性を組み込んだり、あえてウソを交える、バトルさせるといった企画をぶち込んだりと視聴者をヒヤヒヤ、ハラハラさせることが得意。どうやったら視聴者が語りたくなるかを分かっているのは、ウェブビジネスを主軸にする会社の強みでしょう」
例えば『ガールオアレディ』(2023〜)は、結婚願望を持つ20代女性の“ガール”4人と、30代女性の“レディ”4人の婚活バトル。結婚に対する理想と現実が、キャリア問題を交えながら浮き彫りになるさまは、まさに「自分ならどうするか」という問いを突きつけ、コメント欄では毎回議論が白熱する。
地上波のような「毎週1話ずつ」という配信スタイルにも、話題を長く続かせる狙いがある。同時に、広告戦略との兼ね合いもあるという。
「ABEMAの『誰でも放送後1週間は見逃し視聴無料』というビジネスモデルでは、収入源としてスポンサー広告が重要です。その際、視聴層が若年層だとハッキリしていれば、『ティーン向けの広告を出すならABEMA』だと営業しやすい。 “狭い層”を“確実に”刺しにいく。広く浅くではなく、特定の層がきっちり見てくれればいい空間作りをしているわけです」
“ドラマ性”+“没入感”重視のNetflix
ABEMAが「自分ごと」路線だとしたら、ネトフリは広く普遍的なテーマを扱う「ドラマ性」重視。フィクション色が強いという意味ではなく、多様な属性の人たちの生き様を覗かせるという意味での“ドラマ”だ。鎮目氏は「ターゲットを狭めるか、広げるか、という点で基本コンセプトが真逆」と分析する。
「ネトフリのような外資系配信は、いろんな価値観や文化背景があるバラバラな人たちを対象に、本質的な部分で感動させる方向性が根底にある。さらに数話まとめて配信することで没入感を呼び、“ドラマ”としての世界観を大事にする。“自分ごと”かどうかは関係なく、“見てみたい”と思わせる企画は属性を超えて視聴者を惹きつけますよね」
『ラヴ上等』にみるNetflixの戦略
『ラヴ上等』は、まさにその典型例だろう。「恋敵とタイマン」というキャッチコピーに惹かれ、『ラヴ上等』にすっかりハマっているという鎮目氏は、「本物のヤンキーが皆見ているかっていうと、そんなことないでしょ(笑)」と、“自分ごと”を狙っていないことを指摘する。事実、マヂカルラブリーの野田クリスタルも、妻の影響で『ラヴ上等』を見始めたら、その面白さに釘付けになったことを12月19日放送のラジオ『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)で明かしていた。普段まるで恋リアなど見そうにないような層が、虜になる魅力がそこにあるのだ。
「『ヤンキー同士の恋バナ』って、(多くの人には)“他人ごと”過ぎて、どんなものか興味が湧くじゃないですか。なかなか見られないものを見てみたい欲求がくすぐられるし、ヤンキーを使っているから絵面が派手なのも非日常感がある(笑)。
作り手は『見たことないものを見せますぜ』というスタンスで、実際めちゃくちゃオラついてるんだけど、嘘のないまっすぐさがあるなかで、生きるうえで何を大切にするか、と核心をつく部分が、心を揺さぶってきます」
“自分ごと”ではない層に対してアプローチする仕掛けは、主題歌にも施されている。
「出演者は20代だけど、主題歌は1990年代のJ-POPシーンを席巻したglobeの『Love again』(1998)というのも味わい深いんですよ。『ヤンキー』という単語もちょっと“昔”感がありますしね。その意味で、出演者より上の世代は謎の親近感や懐かしさを覚えるし、同世代も『ポリシーのある生き方ってかっこいいな』というリスペクトが湧いたり、新鮮に驚いたりできる。対象を絞らず、誰が見ても学びがある番組になっている点が、ネトフリ流ヒットの法則だと思います」
こと恋愛においては十人十色の考え方があるように、配信の恋愛リアリティ番組も多種多様。さまざまな形で、人生の楽しみ方や生き方を考えさせてくれる。
(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)