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セ・リーグとパ・リーグを制した福岡ソフトバンクホークスと阪神タイガースに「黄金期」は訪れるのか?

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よくよく考えてみればロサンゼルス・ドジャースにも勝利している阪神タイガース。(写真:Getty Imagesより)

 黄金期を語るとき、まず定義を誤ると議論がズレる。黄金期とは、戦力がたまたま噛み合った一年の頂点ではない。毎年、勝ち方がほぼ同じ形で再現される状態……。これが黄金期だ。

 プロ野球において「強いチーム」と「黄金期を築くチーム」には明確な違いがある。それは、単年の爆発力ではなく、「勝利の再現性」がいかに担保されているかという点だ。

 2010年代からパ・リーグの盟主である福岡ソフトバンクホークスと、セ・リーグで強固な基盤を築きつつある阪神タイガース。両球団は、長期的な常勝軍団を築くための条件をクリアしつつあるように見える。

 今回は、守備・投手力や、チーム編成の観点から、両チームの「黄金期到来」の可能性について考察していきたい。

短期決戦の「王者復権」と挑戦者の「矜持」

センターライン守備と投手力を活かした見えない失点の排除

 ソフトバンクと阪神が黄金期に入る条件は、すでに見えている。黄金期の始点は、だいたい守備から始まる。特にセンターライン(捕手・二遊間・中堅)が固いチームは、投手がストライクゾーンで勝負しやすい。四球を恐れず、逃げず、球数が減る。結果として先発が長く投げ、ブルペンが整い、シーズンの後半まで体力が残る。

 また、内野手の送球エラーが少ないことは、データに表れにくい「投手へのストレス軽減」に直結する。イージーなゴロを確実にアウトにし、タフな打球でも暴投しない。この守備の完結力こそが、シーズンを通して無駄な失点を防ぐ最大の要因となっている。

 この守備の中でも勝率に直結するのが、併殺と内野送球の安定だ。併殺が取れると、失点の芽が一気に消える。送球が乱れないと、投手は「打たせて取る」を選べる。

 黄金期のチームは、守備で“ファインプレーを増やす”のではなく、ミスと余計な一塁到達を減らす。ここに徹底的に投資する。

 そして、その守備が最大効率を発揮するのが盤石な投手陣だ。エースの存在よりも重要なのは、2〜4番手が試合を壊さないこと。勝ちパターンの役割がブレないこと。左右やタイプの違いで相手打線に「いつも同じ攻略」を許さないこと。

 投手が整備されるほど、野手は一点を守れば勝てる逆算で動ける。逆に言えば、黄金期は打線の破壊力よりも、守備と投手で点の価値を上げることで始まる。

 投手力については、両チームとも12球団屈指の選手層の厚さを誇るが、注目すべきはその「運用サイクルの健全さ」だ。また、投手は毎試合最低限の形を作れると盤石になる。

 さらに重要なのは、盤石さが“今年だけ”ではない。黄金期の投手陣は、単にエースがいるだけでは成立しない。

 黄金期が短命に終わるチームは、特定の投手に依存しすぎて勤続疲労による崩壊を招くことが多い。しかし、ソフトバンクと阪神は、先発投手の枚数を確保しつつ、リリーフ陣の登板過多をマネジメントできている。

 ソフトバンクは、圧倒的なファームの組織から次々と活きのいい投手が供給され、一軍レベルにある投手が余るほどの層を維持している。

 阪神は、質の高い直球を持つ投手をスカウティングや育成で獲得し、勝利の方程式を複数パターン組めるほどのブルペン陣を構築。

 この投手の代わりがいる状態こそが、選手の負担を軽減し、中長期的な強さを支えるバックボーンであり、連敗ストッパーや接戦をモノにする原動力となる。

中長期的な視点の若手から中堅の理想的な野手のサイクル

 チーム編成において最も難しいのが新陳代謝だ。しかし、両チームは若手が中堅となり、チームの核として定着するサイクルが確立されつつある。

 主力選手が30代後半ばかりになればチームは老朽化するが、ソフトバンクと阪神は20代中盤〜後半の選手が主力を担っている。体力的なピークを迎えつつあり、かつ経験値も蓄積されている脂の乗った状態だ。

 ドラフト戦略と育成システムが機能し、生え抜きの若手がスムーズにレギュラーポジションを奪取する。この循環が止まらない限り、向こう数年間、チーム力が劇的に低下するリスクは極めて低いと言えるだろう。

 また、黄金期が短命に終わるチームには共通点がある。主力が同時にピークアウトしたとき、次がいない。つまり「循環」が止まる。

 ここで効いてくるのが、ユーティリティプレイヤーの存在と起用の一貫性である。シーズンの戦いは、理想のベストメンバーを並べ続ける競技ではない。疲労、故障、相性、守備固め、代走……。必ずズレが生まれる。

 ユーティリティが機能すると、監督の采配は「当たった・外れた」ではなくなる。終盤に守る布陣、1点を取りに行く布陣、左腕の日の打順、休養日に落とさない守備配置。勝ち方のテンプレートが増え、試合運びが安定する。

 黄金期は、実はここで差がつく。スターの数ではなく、勝つための選択肢の数で差がつく。そのため、内外野を守れる選手や、複数の打順に適応できる選手がいることで、首脳陣は柔軟な采配が可能になる。

 ソフトバンクや阪神は、この「スペア」のレベルが他球団のレギュラークラスであるケースが多い。これにより、シーズンを通じた「戦力の平準化」が可能となり、夏場の失速を防ぐことができるのだ。

 黄金期のチームは、そのズレを“行き当たりばったり”で埋めない。用途別の戦力として控えを設計し、起用をルーティン化する。

 終盤に守る布陣、1点を取りに行く布陣、左腕の日の打順、休養日に落とさない守備配置。勝ち方のテンプレートが増え、試合運びが安定する。

 黄金期は、実はここで差がつく。スターの数ではなく、勝つための選択肢の数で差がつく。

 そして打線は切れ目がないことが条件になる。上位だけが強い打線は、相手がそこだけ避ければ止まる。

 両チームとも、下位打線であっても簡単にはアウトにならない。選球眼が良く、粘り、チャンスメイクができる相手投手には息つく暇がない。

 また、野手全体の走塁意識やベースランニングの技術が高いため、単打でも一つ先の塁を狙う姿勢が徹底されている。

 相手バッテリーからすれば、「どこからでも点が取れる」「ミスをすればつけ込まれる」というプレッシャーが常に掛かる状態であり、これがボディブローのように効いてくる。

 下位が出塁し、上位に回り、得点の形が複数ある打線は、相手に休憩時間を与えない。長打一本に依存せず、出塁・走塁・進塁で一点を取り切れる……。この野手力が、年間の勝率を押し上げるのだ。

 黄金期に必要な材料は、両球団とも揃いつつある。黄金期を実現するのは材料の豪華さではない。守備と投手で下振れを消し、循環と起用で再現性を作り、コンディションと編成で壊れにくくする。その結果、どのぐらい継続できるかがポイントになる。

 そして黄金期の本質は、派手な勝利ではなく、地味な継続だ。強い日ではなく、普通の日に勝てる。その積み上げが、最終的に「黄金」と呼ばれる時間を生むのだ。

阪神タイガースは、なぜここまで強いのか

(文=ゴジキ)

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ゴジキ

野球著作家・評論家。これまでに『巨人軍解体新書』(光文社新書)や『戦略で読む高校野球』(集英社新書)、『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!、プレジデントオンラインなどメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。

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ゴジキ
最終更新:2025/12/25 22:00