『名探偵コナン エピソード“ONE” 』 江戸川 コナンも手が出せないアニメ業界のからくり

2026年1月で放送30周年を迎えたTVアニメ『名探偵コナン』(日本テレビ系)。1997年からは劇場アニメ化もされ、GWの映画館を大いに賑わせています。シリーズ28作目となる『名探偵コナン 隻眼の残像』(2025年)は興収146.7億円を稼ぐなど、東宝のドル箱シリーズとなっています。
宮﨑駿監督の後継者がいないスタジオジブリや『果てしなきスカーレット』(2025年)が派手にコケた細田守監督のスタジオ地図に比べ、トムス・エンタテインメント制作の『名探偵コナン』は東宝や日本テレビにとっては優等生中の優等生です。毎年のように100億円の興収をもたらしてくれるわけですから。
洋画離れが目立つ日本映画界において、邦画アニメの覇者と言ってもいいんじゃないでしょうか。キャラデザインには、好き嫌いがあるところですが。
1月16日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、2016年にTVアニメ20周年記念として制作された『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』を再放送します。この機会に、なぜ『名探偵コナン』は30年経っても人気シリーズのままでいられるのかという謎に迫ってみたいと思います。
デート中も変人ぶりを披露する、かなり痛い推理マニア
劇場版『名探偵コナン』では、高校生の工藤新一の体が縮み、江戸川コナンを名乗る経緯が毎回のようにダイジェストで語られています。今回の『名探偵コナン エピソード“ONE” 』はその経緯が描かれたTVアニメ版の第1話をスペシャルバージョンにしたものです。ザ・ハイロウズが歌う初代主題歌「胸がドキドキ」が懐かしいですね。
今まで『名探偵コナン』をスルーしていた人たちには、メインキャラクターたちの関係性がよく分かるので、入門編として最適な作品でしょう。ますますファン層の拡大を狙う日本テレビの野心を感じさせる編成です。
今回、主人公となっているのは小学生探偵の江戸川コナン(CV:高山みなみ)ではなく、小さくなる前の高校生の工藤新一(CV:山口勝平)です。ガールフレンドの毛利蘭(CV:山﨑和佳奈)とのラブラブな様子がたっぷりと描かれています。
蘭は新一に誘われ、人気のアミューズメントパークでのデートを楽しんでいたのですが、視聴者は新一の挙動の怪しさに目が行ってしまいます。蘭と一緒なのに、新一は見も知らない若い女性の手をいきなり握って「あなた、体操部ですね?」などと自分の推理力を自慢します。探偵という職業に憧れる人間は、かなりおかしな人種であることを新一は始まりのエピソードからアピールしています。
蘭は交際する相手を考え直したほうがよかったのではないでしょうか。
冤罪事件を招きかねない新一の見込み捜査
新一の怪しいものを探らずにはいられない習性が、さまざまな怪事件を呼び寄せてしまうようです。新一と蘭が乗ったジェットコースターですが、乗り終えたコースターには首なし死体があるではありませんか。コースターの運行中に首が吹っ飛んだというショッキングな事件です。
新一は持ち前の洞察力で、被害者の首にピアノ線を巻き、コースターの推進力で首を切断した殺人事件であると断定します。さらには警察や被害者の友人たちの前で、真犯人を言い当ててみせます。新一の推理のすごさよりも、首なし死体を間近で見ても平然としている新一と蘭の精神力のほうに驚きを覚えます。
単なるミステリーマニアの新一の推理がもし間違いだったら、相手にトラウマ級の傷を与えてしまう大問題ですよ。冤罪事件の多くは検察側の見込み捜査の誤り、初動捜査のミスから生じているので、警察も高校生の言動に振り回されずに、現場検証とコースター搭乗者たちの身元をしっかりと調べてほしいものです。
外見で人を判断する「ルッキスト」の危うさ
殺人コースターに、偶然にも乗り合わせていたのが黒ずくめの組織のジン(CV:堀之紀)とウォッカ(CV:立木文彦)でした。
ジンたちが人相からして怪しいと睨んだ新一は、彼らの後を追いかけます。人を外見で判断する新一は、「ルッキスト」と呼ばれかねない危うさがあります。そして、その危うさがゆえに黒ずくめ組織からの逆襲に遭うのでした。ジンによって気絶させられた新一は、黒ずくめの組織が開発した毒薬を飲まされてしまいます。
一命こそ取り留めた新一ですが、体が縮んでしまいます。ここに子どもの体に、大人の頭脳を持つ名探偵・江戸川コナンが誕生するのでした。
しかし、事件発生から30年が経っても、まさか元の体に戻ることができないとは江戸川コナンも、原作者の青山剛昌氏も想像できなかったのではないでしょうか。
蘭は殺人事件のあったデートの帰りに新一と別れ、それからずっと新一との再会を願い続けている状態です。あまりに不憫すぎませんか。
横溝正史が生み出した日本を代表する名探偵・金田一耕助は殺人事件が起きてから「しまった。間に合わなかったか」と現れるのがお約束となっていました。殺人事件を未然に防げない金田一耕助も、黒ずくめの組織を追い詰めることができずにいる江戸川コナンも、名探偵と呼んでいいのかという疑問が残ります。
劇場版『名探偵コナン』がメガヒットを連発する理由
劇場版『名探偵コナン』はずっと安定した人気を誇ってきたわけですが、さらに近年になって興収100億円前後のメガヒットを連発するようになったことは、映画業界でも「謎」扱いされています。
公安警察の安室透をフィーチャリングした『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016年)から人気が再加速しています。観客の嗜好性の変化に、敏感に対応したことが成功の要因でしょう。
この10年間で、観客の劇場映画の楽しみ方は大きく変わっています。よく言われているのは、映画館は面白い映画に出会う場から、自分のお気に入りのキャラを応援する「推し活」の場に変わったということです。安室透、赤井秀一といったイケメンキャラが活躍するようになった『名探偵コナン』は、善悪交えてさまざまなキャラクターが登場する『鬼滅の刃』と同様に、ファンにとっては推しがいのある作品なわけです。
幼いころからアニメを観て育った若い世代は、ハリウッドスターよりもアニメキャラのほうに親近感を抱くようです。
日本の実写映画がたどり着くことができなかった世界
最近の劇場版『名探偵コナン』はミステリー、アクション、ラブコメといった娯楽映画の要素をバランスよく配するようになっています。よく練られている人気シリーズですが、逆に言えば日本の実写映画がたどり着くことができなかった世界を、アニメーションとして実現してみせたものだと思うんですよね。
制作予算の乏しい日本映画では、劇場アニメ『名探偵コナン』で描かれるようなド派手なカーアクションや爆破シーンの撮影は容易ではありません。実在するアミューズメントパークを使っての首なし殺人事件をロケ撮影することもまず不可能でしょう。
ハリウッドに比べて見劣りしていた日本の実写映画のチープさに早々に見切りをつけた世代を、『名探偵コナン』は丁重にもてなしているように感じます。また、ヒットが続くと監督は「作家性」という名のエゴを盛り込みたがりますが、『名探偵コナン』にはそれはありません。
シネコン全盛の時代となり、『名探偵コナン』を上回る実写の人気シリーズは、映画界から生まれていないことは確かです。強いて言えば、やはり人気コミックを原作にした『るろうに剣心』『キングダム』か、トム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル』くらいでしょうか。
世界を席巻する日本の高品質アニメのシビアな内情
制作会社のトムス・エンタテインメントは、2023年4月に従業員の基本給を30%アップするというニュースを発信しました。『名探偵コナン』の好調ぶりが伝わってきます。
でも、給料がアップしたのはトムスのような大手スタジオの社員だけというのが実情でしょう。実際の制作現場を支えている下請けの零細スタジオやフリーランスのアニメーターたちは今も厳しい生活を強いられています。
2025年12月24日には、公正取引委員会がアニメ業界の問題にメスを入れ、聞き取り調査を行なった結果を公表しています。最近の日本のアニメ作品は作画のクオリティーが非常に高くなっていますが、制作日数が延長されても下働きのアニメーターたちの報酬はそのままだそうです。ギャラ交渉しようとすると、仕事が回されなくなる恐れがあるので、文句を言えないとのこと。作画担当者の半数は、赤字生活を送っていることも明かされています。製作委員会とキャラクターの版権を握る大手制作会社にしか収益が還元されないことも問題視されています。
世界を席巻している日本のハイクオリティーなアニメ作品は、業界の底辺を支えるアニメーターたちが泣き寝入りすることで成り立っているわけです。
公正取引委員会が調べた他にも、アニメ業界は制作会社の脱税問題や海外への原画やセル画の流出など、さまざまな事件が起きています。歪んだ収益構造が事件の背景にあるのではないでしょうか。
日本を代表するアニメ界の名探偵には、アニメ業界で起きているダークサイドの問題にもぜひ斬り込んでほしいなと思う今日このごろです。
文=映画ゾンビ・バブ
