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話題の異色ご当地アニメ『Turkey!』、ポニーキャニオンが地域活性化に取り組む想い 自治体は“アーティスト”なのである

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TVアニメ『Turkey!』より

『鬼滅』や『コナン』『チェンソーマン』といった強いシリーズの裏で、2025年、密かに話題となっていたアニメが『Turkey!』(日本テレビ系)だ。

『新幹線大爆破』、1位キープの圧倒的快進撃

 ポニーキャニオンと、タツノコプロのアニメ制作レーベル・BAKKEN RECORDによるオリジナル原作で、長野県千曲市を舞台にした、ボウリング部女子高生5人の物語。爽やか青春系かと思いきや、戦国時代へタイムスリップするという斜め上のトンチキ展開に困惑と興奮の声が噴出しながらも、“ダークホース”枠として一気に注目度を上げた。

 オリジナルだからこその自由度ともいえるが、そもそも音楽・映像事業のイメージが強いポニーキャニオンが、なぜご当地アニメを扱うのか。ポニーキャニオン経営企画部シニアゼネラルディレクター・村多正俊氏に、地域活性化に取り組む思いを聞いた。

イベントで元気になる街を見てきた

 音楽制作ディレクター/プロデューサーとして、長年プロモーションに携わってきた村多氏の答えは明快だ。

「僕の担当は“現場系”のアーティストが多く、あちこちで開催されるイベントやフェスに帯同していたんです。その際、空き時間にアーケード街を歩いて、八百屋さんとか魚屋さんとかを見るのが好きでした。そのエリアにしかないものがあるから」(村多氏、以下同)

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村多氏と生﨑氏

 少しでも時間があれば会場の外を歩き、見て、触れて、地域の空気を吸ってきた村多氏は、2000年代前半ごろから街並みの変化を感じるようになったという。特定の場所ではなく「いわゆる地方が、どこも静かになってきた」(村多氏)。

「商店街が、総じてシャッター街化しているんです。当時は『平成の大合併』として、市町村合併がトレンド。すると郊外に大きなショッピングセンターができて人の流れが変わり、個人店がどんどん潰れていく。そういうことがいろんなところで起きていました」

 ただし一見ゴーストタウンのようになった場所でも、音楽フェスなどのイベントを開催すれば人が集まる景色も、村多氏は目の当たりにした。

「フェス3日間で万を超える人が全国各地から集まり、その自治体1年分に相当するほどの経済効果を生む。そういった事例を何度も見てきたことで、もしかしたら自分が持っているノウハウやネットワークが、地方の盛り上げに何か役立つかもしれない、と思ったんです」

 作品のロケ地や舞台になる街、登場人物にゆかりのある街などは観光誘客ができるメリットがある。代表的なのはNHKの朝ドラ、大河ドラマだろう。

 それが昨今は、アニメや漫画が地域経済に大きく貢献する。内閣府も、コンテンツを起点とすることで経済波及効果を見込む「コンテンツと地方創生の好循環プラン」を推進、2033年までに約200か所のコンテンツ地方創生拠点を選定すると鼻息が荒い。実際、2024年にはアニメ映画『名探偵コナン100万ドルの五稜星(みちしるべ)』で舞台となった北海道函館市には観光客が押し寄せ、同市内で103億1000万円の消費行動につながったという試算もある。

パッケージビジネスの終焉というタイミング

 音楽を通じた地域との交流を続けていた村多氏が、事業として地方活性化に乗り出したのは2015年のことだ。当時の音楽業界は、いわゆるパッケージビジネスが危機に瀕していた時期でもあった。CDやDVDが売れなくなっていたのだ。

「パッケージ依存型ビジネスからの脱却が喫緊の課題で、弊社も方向転換を迫られていました。そうしたなか当時の社長で現顧問の吉村が、自分たちの持つノウハウを活かして、新たな事業を立ち上げるように全社に号令をかけたんです。20ほどのプロジェクトが一斉に立ち上がり、地域活性化事業もそのひとつでした。2年間プロジェクトとして取り組み、一定の成果をもって2017年に事業部門のセクション(後述・エリアアライアンス部)としてローンチ。初年度の売上は約8000万円で、2020年には国の事業も行い、売り上げも事業レンジも右肩上がりでした」

 ただし“成果”といっても、大きな利益を生み出すことばかりが目的ではない、と村多氏は言う。

「本来コンテンツビジネスは、ブレイクさえすれば、1が10万の利益を生み、はては1億にだってなり得る可能性を秘めているもの。『お金を儲ける』という意味では、地域活性化事業は人を投入すればするほど、収益を拡大できる確度は高まるかもしれませんが、うちの会社のダイナミズム(ビジョンを達成するための原動力)にフィットするわけではありません。

 僕らがやっているのは、着実にレンガを積み上げていくような仕事です。(地域ビジネスに)参入した業界他社もありましたが、みな撤退していきましたね。自社の売れているIPやコンテンツを“当てはめる”やり方が、根付かなかったということかなと思っています」

「共創」にこだわりたい

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TVアニメ『Turkey!』より

 その後2017年に「エンターテインメントで地域を、ニッポンを元気に!」をコンセプトとして、地域活性化事業専門セクション「エリアライアンス部」を本格始動させた。「エンタメコンテンツ×地方自治体」を専門に扱う部署は、エンタメ業界で初。前例のない取り組みだったが、村多氏はゼロから仲間作りと勉強を続け、さまざまな自治体のコンペに参加しながら地道に実績を増やしていった。

 村多氏は、「エンタメ業界で、国や自治体と直接やり取りし、地方活性化案件を実施までできるのはうちの会社だけだと思う」と胸を張る。エンタメ的な見地から、自治体ごと、プロジェクトごとのソリューションを提供する。

「人気コンテンツにあやかる」のではなく、あくまでも現地に立った課題解決を提案するのが強みで、2018年〜2021年の「道後温泉REBORNプロジェクト」(愛媛県)では、築125年を迎えた道後温泉本館の保存修理工事に際して、手塚治虫の代表作『火の鳥』とコラボレーションしたプロジェクトを実施。本館でのプロジェクションマッピング上映や、ウォールアートパネルを展示したほか、手塚プロダクション制作による道後温泉を舞台にしたオリジナルアニメーションを制作した。

 その他女子高生6人がアカペラに挑む青春ストーリー『うたごえはミルフィーユ』で東京都町田市と連携し、2022年から音楽プロジェクトを始動。不眠症の高校生男女が天文学部の活動を通じて交流を深めるマンガ『君は放課後インソムニア』は石川県七尾市と協力し、アニメ化と実写映画化(いずれも2023)を盛り上げた。繰り返しになるが、同社が心をくだくのは「利益、IPありき」ではなく「共創」という観点だ。

自治体は“アーティスト”なのである

 数多アーティストの発掘から育成・マネジメント、さらにイベントやグッズの展開までワンストップで手がけるポニーキャニオンだが、自治体のPRにおいて勝手が違う部分はないのかと訊くと、村多氏は「一緒ですよ」とあっさり言う。どういうことか。

「だって自治体はアーティストだもん。自治体というアーティストを、僕らのノウハウで育てて売り出すという意味で、私は携わってきた音楽プロデューサーの手法と考え方が同じなんです。音楽でいえば、新人のアーティストがどんなスペックや個性を持っているのか、何ができて、何が強みなのかを丁寧に理解したうえで向き合うわけですね。自治体でも同じ。その街の魅力をきちんと把握して、どのような可能性があるのかを踏まえて、向き合っていく。シングルを出して、これがこうだったら次はこういう方向でと試行錯誤する。自治体と何か施策をしてみて、魅力をより磨き上げてゆく。アーティストごとに色があって、そのアーティストをどうやって売るか。僕らのノウハウで育てて売り出すという意味で、私が長らく音楽業界でやっていたことと本当に同じなんです」

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TVアニメ『Turkey!』より

 アニメ放送が“メジャーデビュー”だとしたら、デビュー前のプロモーションとして街のあちこちに顔を出し、名前を売る。まさに『Turkey!』がやってきたことだ。村多氏は、「“外からの視点”だからこそ、果たせる役割がある」と言葉に力を込める。

「アーティストは、案外自分で売りだと思っている部分ではないところに、ブレイク要素があるものです。自治体でも、地元の人こそ土地の魅力に気付いていないことはよくあります。(『Turkey!』の舞台となった)千曲市は観光・歴史的な資源が豊富ですが、中にいるとそれが“当たり前”すぎて、ピンと来ない。でも、外から見ればそれがどれほど貴重か、よくわかります。東京に住んでいる人だって、意外とスカイツリーに行ったことがなかったりしますしね(笑)」

 もっとも、難しさもある。

「シティプロモーションや観光事業は、数字で測れる定量的な要素よりも、主観、感覚論である定性的な要素が強く、すぐに目に見える効果がわかりづらい。まず自治体職員は上長(課長クラス)にそれを理解してもらえないと、“こんなはずでは”といったことが起こりやすくなります。裏を返すと、地域の活性化で成功しているのは、上長に理解があるところが多いですね。選択と集中、その自治体のもつ強みに絞ったプロジェクトに集中できる自治体は強いと思います」

 千曲市がまさにその好例だった。小川市長が陣頭指揮し、予算編成から率先してアニメ制作を後押しした。多くの大人たちが関わり、ついに昨年“デビュー”を果たした『Turkey!』は、今年も地元を盛り上げる。

「TV放送は終了しましたが、現在も聖地巡礼マップやスタンプラリーといった周遊系の企画は進んでいます。『Turkey!』や千曲市、あるいはその両方のファンになってくれた人たちが楽しめるような企画をいくつか行っていく予定です」

「エンタメには、行動変容を起こすパワーがある」という村多氏の原動力となるのは、エンタメに触れた人たちが、より深くその地域と関わる“交流人口”に繋がってくれたら、という想いだ。全国1700を超える市町村という“アーティスト”が、それぞれの個性で一人でも多くのファンをつくる取り組みを、ポニーキャニオンは今後も続けていく。

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村多氏と生﨑氏

TVアニメ『Turkey!』
2025年7月から9月まで日本テレビ、BS日テレ、テレビ信州で放送

原案:BAKKEN RECORD、ポニーキャニオン
監督:工藤進
脚本:蛭田直美
キャラクターデザイン・総作画監督:武川愛里
メインアニメーター:那花優統
色彩設計:のぼりはるこ
美術監督:田尻健一
撮影監督:小西庸平
CGディレクター:堀本夏生
編集:及川雪江
音楽:林ゆうき
音楽制作:ポニーキャニオン
プロデューサー:木下哲哉、北林俊哉
アニメーションプロデューサー:大松裕
制作:BAKKEN RECORD
(C)BAKKEN RECORD・PONY CANYON INC. /「Turkey!」製作委員会
※「BAKKEN RECORD」は(株)タツノコプロのレーベル名、登録商標です。

『Turkey!』公式HP:https://turkey-project.com/
『Turkey!』公式Twitter:https://twitter.com/Turkey_PJ

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(取材・構成=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/02/01 14:00