ポイズン風味たっぷりの奇妙なミュージカル 脳内天国『チャーリーとチョコレート工場』

総勢165人のウンパルンパが歌い踊るミュージカルシーンは、一度観ると決して忘れることができません。純度の高いチョコレートの食べ過ぎでトリップしたような感覚が味わえる映画といえば、ティム・バートン監督の『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)です。
バートン監督の盟友であるジョニー・デップが主演した『チャーリーとチョコレート工場』(以下『チャリチョコ』)は、世界的な大ヒット作となり、日本でも興収53.5億円を記録しています。また、『チャリチョコ』公開後には、マスメディアが各地の工場を取り上げた「大人の工場見学」ブームが起きています。
バレンタインデーシーズンということもあり、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では2月6日(金)に『チャリチョコ』、2月13日(金)には地上波初となる『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(2023年)をオンエアします。
浮世の憂さを忘れ、テレビの前でウンパルンパと一緒に踊ってみるのはどうでしょうか。
制作費220億円を投じたティム・バートンの脳内天国
原作は英国の作家ロワルド・ダールが1964年に発表した児童文学『チョコレート工場の秘密』です。ロアルド・ダールは『南から来た男』などの奇妙な味わいの短編小説で知られており、ダークな世界を描くのが大好きなティム・バートン監督にぴったりの題材です。
バートン監督とジョニー・デップは『シザーハンズ』(1990年)、『エド・ウッド』(1994年)、『スリーピー・ホロウ』(1999年)に続いて、4度目となるタッグ作。デップはディズニー映画『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』(2003年)が大ヒットし、人気が最高潮に達していました。ワーナー・ブラザーズも彼を主演に起用することに大賛成だったそうです。
マイノリティー側の変わり者を主人公にした映画を撮り続けてきたバートン監督は、『チャリチョコ』では自由な創作を任せられるようになりました。制作費220億円を使って、バートン監督の脳内天国が見事に映像化されています。
トラウマになること間違いなしの工場見学
工場見学に参加する子どもたちは、本当に胸くそ悪いガキどもです。唯一の例外は、ビンボー一家に生まれ育ったチャーリー(フレディ・ハイモア)だけ。
家族想いの優しい少年・チャーリーは、なけなしのお金で買ったウォンカ製チョコレートに金色のチケットが入っていたことから、天才的なチョコレート職人であり、ウォンカ社のオーナーでもあるウィリー・ウォンカ(ジョニー・デップ)が案内する工場見学に参加します。かつてチョコレート工場で働いていたジョージおじいちゃん(デイビッド・ケリー)も一緒です。
4人の胸くそ悪い子どもたちと一緒に工場見学するチャーリーは、世にも奇妙な世界を体験します。チャーリーも含め、子どもたちは一生もののトラウマになることは間違いないでしょう。
脳内麻薬が分泌される禁断のミュージカルシーン
工場見学中にクソガキたちは、一人ずつ退場するはめになりますが、その際に工場で働くウンパルンパ(ディープ・ロイ)たちによるミュージカルが繰り広げられます。
極彩色の工場内で、ウンパルンパたちはクソガキの退場を喜び、祝い、歌い踊ります。ダニー・エルフマンの音楽に合わせ、脳内麻薬がドバドバと分泌される瞬間です。
子どもたちはわがままで、礼儀を知らずな上に、親が金持ちなだけで威張り散らす、一種のモンスターです。そんな問題行動を起こすモンスターチャイルドたちが次々とお仕置きされるシーンを観ているだけで、痛快な気分に浸ることができるのです。
子どもへの体罰は現実世界では許させない行為なので、お仕置きシーンは本作だけに許された禁断のプレイとなっています。
溢れる映画愛で、クソガキどもを処刑
食いしん坊のオーガスタスがチョコレートの川で溺れる場面は、競泳選手から女優に転身したエスター・ウィリアムズの古典的ミュージカル映画を彷彿させます。わがまま娘のベルーカはリスの群れに襲われますが、動物パニック映画の名作『ウイラード』(1971年)を思わせます。このシーンを撮るために、40匹のリスたちを5カ月間にわたって調教したそうです。
ハイテクオタクのマイクがテレビ転送される場面は、スタンリー・キューブリック監督のSF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』(1968年)をオマージュしたものです。ティム・バートン監督は溢れる映画愛で、威張りくさったクソガキどもを処刑していきます。
撮影に使われたのはロンドン郊外にあるパインウッド・スタジオ。「007」シリーズの撮影場所として有名です。ティム・バートン監督の傑作『バットマン リターンズ』(1992年)もここで撮影されています。『チャリチョコ』を観ることで、洋画の歴史をどどーんと振り返ることもできちゃうのです。
大金を投じたティム・バートン監督の盛大なプライベートパーティーに、テレビの前の視聴者もお呼ばれしたような気分が楽しめます。
歯の矯正具を付けていた少年期のバートン監督
ジョニー・デップ演じるウォンカは、ユニークなチョコレート菓子を作ることしか関心がない変人です。歯科医の父親(クリストファー・リー)は少年期のウォンカにお菓子を食べることを禁じていたため、親子関係はよくありません。ウォンカが家族のことを口にしたがらないのはそのためです。
ティム・バートン監督も、少年期のウォンカのように歯の矯正具を親から強いられたそうです。歯の矯正具を付けていることがコンプレックスとなり、バートン監督は子ども時代を孤独に過ごしています。変わり者のウォンカは、映画のことしか頭にないバートン監督自身です。
孤独な少年期を過ごしたバートン監督ですが、チャーリーの母親を演じている英国女優のへレナ・ボナム=カーターと『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(2001年)で出会い、映画の公開後に交際をスタート。英国に移住したバートン監督は、家庭を持つことになります。
へレナ・ボナム=カーターはバートン監督と暮らし始める際に、彼の実家を一緒に訪ねています。すでに父親は亡くなっていましたが、母親はふたりを温かく迎え入れ、実家の中にはバートン監督が撮ってきた数々の映画のポスターが飾ってあったそうです。
ロアルド・ダールの原作小説にはウォンカの両親は登場しませんが、バートン監督が家族と和解した体験談が、『チャリチョコ』の隠し味になっていたのです。
撮りたいことは『チャリチョコ』ですべて撮り尽くした?
ティム・バートン監督はジョニー・デップと5度目のタッグを組んだ『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)が興収的には最大のヒットとなっていますが、家族との和解という自身の最大のテーマを『ビッグ・フィッシュ』(2003年)と『チャリチョコ』で描き、撮りたいことはだいたい撮り切ってしまった感があります。以降の作品は次第に色彩を欠いていくことになります。
へレム・ボナム=カーターとの蜜月関係も終わり、ひどく暗い話や過去の作品の焼き直しが多くなっていきます。バートン監督は、交際相手との関係性が如実に作品に投影される非常に分かりやすいクリエイターです。
ひとりの生きた人間が作るわけですし、メジャースタジオを相手に傑作ばかり撮り続けることはまず不可能でしょう。人気絶頂期のジョニー・デップとがっつり組むことができた『チャリチョコ』は、ふたりにとっての最高傑作と言っていいんじゃないでしょうか。
映画界の変わり者のふたりが生み出した奇妙で、甘美で、ちょっぴり毒要素も含んだ幻想的な世界を、今夜は存分に楽しもうではありませんか。
文=映画ゾンビ・バブ
