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『国宝』200億円新記録、アカデミー期待もノミネートならず…和製エンタメが世界に通用しにくいシンプルな理由

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アメリカでも上映された映画『国宝』と同国のPRイベントに参加するプロデューサーの村田千恵子氏(写真:GettyImagesより)

『国宝』が、2月15日までで興行収入200億円を達成した。公開以降押しも押されもせぬ絶賛が渦巻き、実写映画の興収ランキングの1位を22年ぶりに塗り替えてもなお爆走、255日間で達成した新記録だ。

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 フィーバーの裏で物議を醸したのは、1月30日発売の季刊誌『映画芸術』が発表した「日本映画ベスト&ワースト」で、『国宝』が2025年の「ワースト」1位に選出された一件だった。Xでは〈間違いなくクオリティは高いのに〉〈映画関係者の嫉妬で逆張りしているだけ〉などと不満と批判が噴出したが、これは、あくまで編集長で脚本家・荒井晴彦や同誌の選考委員によるもの。さまざまな批評があって良いというだけの話だが、異論が殺到したさまは、『国宝』は“推されるべき”作品だと考える人が多かった証左ともいえる。

 そんな本作は3月15日(現地時間)に開催される「第98回アカデミー賞」において、世界各国(アメリカを除く)から出揃った代表作品のうち最優秀作を決める「国際長編映画賞」の受賞が目されていたが、最終候補リスト(全15作品)まで残ったものの、ノミネート(上位5作品)には届かず。ノミネートには「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」のみの選出となった。

 この結果には、〈長編賞を獲れる作品だと思っていたからショック〉〈あんなにいい映画なのに…〉といった不服も多数上がっているが、なぜ本作は「国際長編映画賞」を逃したのか。映画評論家・前田有一氏が解説する。

そもそも、「国際長編映画賞」とは/近年の傾向は

 約100年前の1929年にアメリカで設立され、「映画界最高の栄誉」ともいわれるアカデミー賞。「国際長編映画賞」(2018年までは「外国語映画賞」)とは、アカデミー賞の主要部門の一つで、アメリカ国外で制作され、英語以外の言語によるセリフが大部分を占める長編映画に贈られる賞だ。各国1作品のみ応募でき、毎年5本が本選にノミネートされる。つまり、その年、その国を代表する映画ともいえる。

 受賞へのハードルは高く、日本作品では、これまで『おくりびと』(2008)と『ドライブ・マイ・カー』(2021)の2作品のみ。ノミネートされた作品を振り返っても、2000年以降で『たそがれ清兵衛』(2003)、『万引き家族』(2018)、『PERFECT DAYS』(2023)の3本にとどまる。

 そんな同賞にも「トレンド」がある。

 アカデミー賞の選考方法は、まずアメリカの映画業界人らで組織された「映画芸術科学アカデミー」の部門の担当会員によってノミネート作が選出され、その後、全アカデミー会員の投票で決定される。なお国際長編映画賞だけは、専門委員が選んだショートリスト全作品を見た会員がノミネート5作品を投票で決める。その後、その5作品を見た全会員の投票で最優秀作品を決定する仕組みだ。

 当たり前といえば当たり前の話かもしれないが、人間が選ぶだけあって、評価軸が時代とともに変化するのだ。前田氏は、近年の評価傾向を「社会的なテーマ」かつ「シンプルな演出」の有無だと見る。

「その国固有の問題を扱っていることと、他国の観客が共感できる普遍性を持っていることが、まず重要。そのうえで、演出やテーマ性への“作家性”が重視されます。『わかりやすく感動できる』『ハラハラドキドキできる』といったエンタメ性よりも、あとを引く問いかけがあるものが爪痕を残しやすい。ひとことで言うと、『ちゃんと問題提起しているか』が大事です」(前田氏、以下同)

 事実、『おくりびと』は“死者の弔い”、『ドライブ─』は“喪失と希望”をテーマに、日本独自の視点や切り口から、言語を超えた普遍的な問いがあるものだった。

「役所広司主演、東京の片隅で、トイレ清掃員として働く男のささやかな日常を描いた『PERFECT DAYS』はノミネートと惜しいところまでいきましたが、その年は、ナチス収容所の隣に住む一家にフォーカスした作品『関心領域』(2023)が受賞作に。歴史的な背景をふまえて、見終わった後に深く考えさせられる内容のものがより評価されたということです」

まぎらわしい「日本アカデミー賞」は“まったく別物”

 一方、“日本映画界最高の名誉”とされる「日本アカデミー賞」はどうか。

 米アカデミー賞と名前がまぎらわしいが、同賞は「日本映画産業の発展」という目的のもと、米・映画芸術科学アカデミーより正式な許諾を得たうえで、1978年に日本で制定されたもの。『国宝』はすでに作品賞、監督賞、主演男優賞などの13部門17賞で優秀賞に内定。2月3日には主題歌賞の受賞も決定している。

 3月13日の最優秀賞発表を前に、『国宝』の完全なる独壇場だが、裏を返せば、日本アカデミー賞を総なめにするような作品が、米アカデミーで評価されるとは限らないことを示しているともいえる。ギャップが生まれる背景には、日本アカデミー賞の成り立ちによる独特な評価軸が起因する。

「日本アカデミー賞は映画業界人が投票する賞なので、産業を盛り上げた功労賞といった位置付け。投票資格を持っている会員はおよそ4000人で、そのうち大手配給の関係者が1000人ぐらい。つまり大手が有利になりやすいシステムともいえます。結果的に、興行収入実績や話題性のある、いわば“ミーハー”に近い作品が評価される傾向にあります」

 2024年の最優秀作品賞は、インディー映画ながら興収10億円のヒットを飛ばした『侍タイムスリッパー』(2024)。2023年は、実写邦画における年間興収1位(76.5億円)に輝いた『ゴジラ-1.0』(2023)だった。前田氏は、そもそもヒットの傾向が日米で異なることを指摘する。

「日本でヒットを狙おうとすると、最優先事項は“娯楽性”。予算が大きい作品ほど、コケたくないがゆえに万人ウケを意識し、娯楽性強めの作風になりがちです。国内で収益をあげることが第一で、海外評価はあくまでもオマケ、というスタンス。ビジネスとしては至極もっともな考え方ですが、日本と海外で評価されるポイントが全く違うという意味で、“国内ウケを狙った作品作り”と“権威ある海外賞の受賞”は両立できないとも言われてきました」

 実際、『ドライブ─』は全国公開前に「第74回カンヌ国際映画祭」で日本映画初となる脚本賞ほか3部門を受賞していたが、国内ではほぼスルーレベル。米アカデミー賞で4部門のノミネートが決まってようやく客足が伸び始め、日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む8冠に輝いたほか最終興収は13.7億円で着地したが、ノミネート以前の興収は3億2000万円ほどしかなかった。

“いい”映画とは何か 日本と海外で異なる「評価」の軸

 前述のように俯瞰したとき、「いい映画」と評するときの「いい」の意味合いが、日本では娯楽・大衆性、海外では国際色やテーマ・時代性――と全く異なることがわかる。そうした違いを鑑みると、『国宝』がアカデミー賞では評価されづらい理由が浮かび上がる。

 まず、“普遍的なテーマの提示”という点において前田氏は、「歌舞伎ネタは世界の人が“自分ごと”としては捉えられない」と指摘する。

「評価ポイントである“国際色”で、『国宝』は歌舞伎という日本独自の伝統文化にフォーカスしていたものの、ストーリーはあくまでも娯楽性重視。上下巻で800ページ以上ある小説を3時間の映画に収める都合上、キャラクターの葛藤や人生の激動は深掘りせず、サラッとした描き方でした。かといって、歌舞伎に対するリテラシーは必要とする。日本人なら歌舞伎役者が世襲制であることや厳しい稽古があること、女形という演技様式などについてうっすら前提知識がありますが、海外の人からすれば、その前提部分が理解しづらい」

 また日本では、予算を潤沢にかけたことが伝わるその「豪華さ」も目玉になったが、それで勝負できるほど海外での賞レースは甘くない。

「吉沢亮や横浜流星といったイケメン畑の俳優が未経験の歌舞伎にチャレンジし、本物の歌舞伎役者さながらの演技を披露したことが日本では評価されていますが、世界的には、練習量やその成果は役者なら当たり前のこと。やっとスタートラインです。結局外国人にとっては、ビジュアルとして、昭和の時代を感じさせる街並みやメイクアップといったわかりやすいキャッチーさが評価される流れになったのは仕方ないとも言えます」

 アカデミー賞で作品全体が評価されなかったことを残念がる声のなかには、『ドライブ・マイ・カー』を引き合いに、同じ3時間でも『国宝』の方が“長さ”を感じなかったという感想や、『国宝』の方が何度も見たくなるという意見もあるが、「必ずしも、展開の早い映画や何度も見たくなる映画が“いい”とされるわけではないということですね」と前田氏は語る。

米大手掲示板では評価の声も 変わりつつある風向きをキャッチできるか

 ただし、そんな邦画界にも国際的に評価される作品があらわれている。

「『ゴジラ-1.0』は、国内での大ヒットに続いて、海外の映画評でも称賛されました。『第96回アカデミー賞』ではVFX技術の高さが評価され、邦画・アジア映画史上初の視覚効果賞を受賞。国内のヒットと海外の賞が両立したケースとなりました。

 世界屈指の才能が集まるハリウッドで日本の大作が評価されるのは映画界のはずみとなり、質の高いエンタメ映画をつくりたいという制作側のチャレンジ欲もかきたてます。今後は、広く海外での評価をも視野にいれたうえで、日本市場向けの娯楽性を両立させる作品づくりが模索されるのは確かでしょう」

 今回、長編賞では苦杯を喫したとはいえ、米最大手の掲示板「reddit」には、〈スケールとディティール両面で最高の映画体験だった。劇場で見るべきだ〉〈俳優たちの狂気と呼ぶべき熱演には驚かされた〉と絶賛する声もある。言語を超えた存在感を受け取るファンもたしかにいることは、今後の邦画の光だろう。

世界中で高評価も日本で“無視”されるワケ

(構成・取材=吉河未布 文=町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/03/01 22:00