【WBC2026開幕直前!】カリスマ指揮官・原辰徳――常勝軍団を築いたマネジメントと哲学

原辰徳、落合博満、岡田彰布、伊東勤、栗山英樹、緒方孝市、工藤公康、辻発彦、中嶋聡、高津臣吾、新庄剛志、小久保裕紀、阿部慎之助……。
彼らは「頑固と柔軟」「安定と挑戦」「温情と冷徹」といった一見相反する問いに、どのように向き合ってきたのか。マネジメントのスタイルは、時代の変化とともにどのように進化してきたのか。そして、強いチームをつくる“普遍的な原理”は存在するのか。
こうした問いに向き合い、分析を試みたのが、野球著者・ゴジキ氏による新刊『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社)だ。
本記事では、反響を受けて発売前重版が決まった本書の一部を抜粋・再構成し、各監督の采配や言葉を読み解きながら、勝てるチームはどのようにプランニングされているのか、短期決戦と長期戦で求められるマネジメントの違い、人を動かす言語化能力と組織構造の関係といったテーマを通じて、「スポーツ×組織論」という新たな視座を提示する。
難航したWBC監督人事と選ばれた原辰徳の采配
2009年、シーズン開幕前の第2回WBCの監督人事は難航したが、最終的に原辰徳が日本代表の監督に選ばれた。従来の監督名が入る「○○ジャパン」を退け、組織全体を示す「侍ジャパン」という名称を導入。チームを〝個の集合〞ではなく〝旗の下の一体〞として束ねる意思表示であり、これ自体がマネジメントの一手だった。
辞退者が相次ぐ逆境の中、原は国内組とメジャー組の役割を徹底的に整理。機動力と長打力のバランスを模索した。この大会、日本代表はチーム打率.299(参加チーム中5位)、総得点(同2位タイ)の攻撃力を見せた。特に盗塁数は個と大会トップで、片岡易之が4盗塁を決めるなど俊足選手の起用も光った。「例えばパワーや、すごいボールを投げる相手に勝っていかなきゃいけないから、そのためにはやっぱりチームプレー、献身性であり、スピードである。これは絶対世界ではナンバーワン。だから、それを重視して戦っていこうと皆の前でも話しました」と日本独自の野球をつくり上げていった。
一方で本塁打も4本放ち、長打を狙える打者(村田修一が2本、内川聖一が1本、城島健司が1本)をクリーンアップに据えることで得点力を高めた。試合展開に応じて「走れる攻撃」と「一発長打」を巧みに織り交ぜ、初戦のディレードスチールや決勝の送りバントなど小技も辞さず、一方でチャンスでは強打者に積極的に振らせるという、メリハリの利いた戦術を取った。青木宣親は.324でベストナインに選出され、中島裕之(.364)、城島健司(.333)、内川聖一(.333)、片岡易之(.308)と計5人が打率3割以上をマーク。特に大会後半は村田の離脱を青木や稲葉篤紀ら複数選手で補い、得点力を維持した。
このWBCにおいて興味深いのが、原の選手選考である。後に「短期決戦で日本代表メンバーを選ぶということで、最初に決めたのはサブプレーヤーでした」とコメントしているのだ。「ちょっと悩んだのが鈴木尚広か、亀井義行か。尚広はすごく足もあるし、守備力もあって良かったんですけど、グラウンドが変わると若くて怪我しがちだったんですね。亀井は怪我しづらいので、『よし亀ちゃんだな』と。あと川﨑宗則に、片岡易之はショートもできる。まずこの3人ですよね」と語っている。
大会序盤から苦しんだイチローを起用し続ける

また、「下位打線の強化」も意識していた。「練習試合を含めてこのチームはどうしたら強いチームになるのかなと。結論からいうと7番8番9番がメジャーリーガー。7番福留(孝介)、8番城島(健司)、9番岩村(明憲)」とコメントしており、「とにかくメジャーリーガー3人が下位打線にいると、このチームは怖い。頼む、やってくれないか」と直接声をかけて奮起を促した。
一方で、チームの中心であるイチローは大会序盤から苦しんだ。この時のエピソードも興味深い。原は「僕がイチローを違う環境に置いたのがいけなかったのかなと思って。普段メジャーで1番のイチローを3番で起用しようとしたんですね。それで途中イチローに『独り言を話すから、独り言で答えてくれないか』と言って。二人きりになって『イチローは3番より1番バッターが好きだ』と僕はポツリと言ったわけ。そしたら彼が『いやいやいや、監督……』ってやるから、『独り言を言えばいいんだよ』って。そしたら『はい!』って言った。それで次の試合からイチローを1番に戻して、今度は青木宣親を3番にした。(その後)あまりイチローは打たなかったけど、最後のおいしいところは持っていったというところですね」と語っている。
イチローを外すことについては、「その考えは全くなかった。誰よりグラウンドに早く来て、誰より(仲間に)声をかけ、誰よりチームを引っ張る。イチローの必死さというのかな。彼の野球に対するスタンスなんでしょうね。だから、イチローをベンチへ引っ込めることはこのチームを否定することだと思いました」と言うように、イチローを信じ続けた結果、決勝戦のタイムリーが生まれたのだ。
守備面に目を向けても、注目すべき点が挙げられる。正捕手の城島を中心に投手との信頼関係を重視し、要所で相手のサイン盗みを逆手に取るなども許容する裁量を与えた。準決勝では稲葉を途中出場から一塁手に就けるなど、柔軟な守備固めも行っている。
そして最大の成功要因は、投手陣の運用を山田久志などに任せたことだろう。各投手の調子と大会特有の投球数制限を勘案し、「先発3本柱+臨機応変リリーフ陣」で継投策を組み立てた。チーム防御率1.71は大会全体でも飛び抜けた数字で、9試合中3試合が無失点勝利(完封)という圧倒的な安定感をマーク。2大会連続MVPに輝いた松坂大輔、ベストナインの岩隈久志、優勝のマウンドに立ったダルビッシュ有らの活躍はもちろん、普段は先発である杉内俊哉が第二先発や中継ぎに回り5試合6回1/3を無失点、防御率0.00と縁の下の力持ちを担った。
一次ラウンド・中国戦の小刻みな継投策、ラウンドを勝ち上がるごとにダルビッシュを後ろで投入する采配、決勝トーナメントではエース格を惜しみなくリリーフ起用する大胆さ、敗者復活のキューバ戦での杉内のロングリリーフなどには、「適材適所」「固定観念破壊」の原流マネジメントが凝縮されている。
(文=ゴジキ)

