学生時代の甘い思い出とメッセージ性との融合 ハリウッドの本気印『ウィキッド』が初放映

竜巻に巻き込まれた少女ドロシーが飼い犬のトト、オズ国で出会ったライオン、ブリキマン、カカシを従え、悪い魔女を退治する『オズの魔法使い』は、誰もが幼少期に読み親しんだファンタジー童話でしょう。悪い魔女をやっつけたドロシーは魔法の靴の力で、無事に帰宅を果たし、めでたしめでたしというお話でした。
でも、ドロシーがやっつけた悪い魔女は本当に悪い魔女だったの? そんなヴィラン視点から物語を再構成したのが、1995年に刊行された『ウィキッド 誰も知らないもう1つのオズの物語』です。「西の悪い魔女」は、実はドロシーに優しく接した「善い魔女」とかつて大親友だったというアナザーストーリーです。2003年からブロードウェイでミュージカル化され、現在も世界各地で公演が続く大ロングランミュージカルとなっています。ディズニー映画『アナと雪の女王』(2013年)や『マレフィセント』(2014年)の元ネタだとも言える作品です。
3月6日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)は、二幕構成だった舞台の第一幕を映画化した世界的な大ヒット作『ウィキッド ふたりの魔女』(2024年)を放送します。地上波初&60分拡大放映です。
同日より完結編『ウィキッド 永遠の約束』の公開も始まります。女の友情を描き、女性層に熱く支持された『ウィキッド』の人気の秘密を探ってみたいと思います。
嫌われ者のエルファバと人気者のグリンダ
主人公は『オズの魔法使い』の「西の悪い魔女」となるエルファバ(シンシア・エリヴォ)です。生まれつき全身が緑色の肌のエルファバは、親にも愛されずに育った孤独な女性です。怒ると不思議な力を発することから、みんな彼女に近寄ろうとしません。
そんなエルファバは、足の不自由な妹のネッサローズ(マリッサ・ボーディ)に付き添う形でシス大学を訪れます。そして入学式で出会ったのが、自他共に認める人気者のグリンダ(アリアナ・グランデ)。魔法学部の学部長であるマダム・モリブル(ミシェル・ヨー)に魔法の力を認められたエルファバは大学に正式入学することになり、学生寮でグリンダと同室になるのでした。
地味なエルファバと派手好きなグリンダは水と油の関係でしたが、イケメン転校生のフィエロ(ジョナサン・ベイリー)が現れたことで、関係に変化が生じます。
ダンスホールがきっかけで芽生える女の友情
ある日、フィエロが先頭に立ち、学生たちみんなで夜のダンスホールへ行くことになります。その中には、車椅子ユーザーであるネッサローズ、グリンダに一方的な想いを寄せるボック(イーサン・スレイター)も加わっていました。
華やかなダンスホールには場違いなエルファバを笑い者にしようと考えていたグリンダですが、周囲の冷たい視線に負けずに自分の踊りを披露するエルファバに心を動かされ、一緒に踊り始めます。グリンダがきっかけで、ダンスの輪が広がり、みんなが打ち解けていくことに。感動的な一夜となります。
その夜以降、エルファバとグリンダは無二の親友となるのでした。青春です。おしゃれに無関心だったエルファバのために、グリンダがあれこれとおせっかいを焼くシーンで歌われる「ポピュラー」は、舞台版でも親しまれている人気ナンバーとなっています。
観ているうちに、学生時代の懐かしい記憶が甦るのではないでしょうか。初めて友達ができ、その友達がいてくれたおかげで、青春時代が暗黒の思い出にならずに済んだ、という大切な思い出です。フィエロとの三角関係も含めて、『ふたりの魔女』は視聴者を甘酸っぱい気持ちにさせてくれます。
エルファバと重なるシンシア・エリヴォのプロフィール
学園きっての人気者のグリンダを演じたアリアナ・グランデは、幼少期から活躍してきた米国のショービジネス界を代表するポップスターです。そしてエルファバを演じているのが、シンシア・エリヴォ。両親はナイジェリア出身の英国女優で、トニー賞、グラミー賞、エミー賞など多くの受賞歴を持つ実力派です。バイセクシャルであることをカミングアウトしています。
疎外感を味わいながらも、タフな精神力で我が道を進むエルファバ役は、シンシア自身と重なるものを感じさせます。ちなみにエルファバの妹・ネッサローズを演じるマリッサ・ボーディは、11歳のときに交通事故に遭ったというリアル車椅子ユーザーです。
また、『ウィキッド』二部作を撮ったジョン・M・チュウ監督は、アジア系社会における格差問題を扱ったコメディ『クレイジー・リッチ!』(2018年)をヒットさせたことでも知られています。
一見すると、オズの国は美しいファンタジックな世界ですが、ルッキズムやマイノリティー差別といった現実社会の問題が投影されています。エルファバと彼女の親友となったグリンダは、そんな社会の偏見と闘うことになるのです。
同録で歌い上げたオリジナルキャスト
物語の後半、エルファバはオズの国の首都・エメラルドシティにいる偉大なる魔法使い(ジェフ・ゴールドブラム)に呼び出されます。ひとりでは不安なエルファバは、グリンダに同行してもらいます。
そして極彩色に彩られたエメラルドシティに到着したエルファバとグリンダは、魔法使いの意外な正体を知ることに。『ふたりの魔女』のクライマックスを飾るのは、エルファバが歌い上げる「Defying Gravity」(重力に逆らって)です。
シンシアの歌唱力に、まじに圧倒されます。
今夜の『金ロー』は、高畑充希がエルファバを演じた吹き替え版が放映されます。もちろん、高畑充希はミュージカルに数多く出演し、その実力は高く評価されています。しかし、『ウィキッド』初見の方には、オリジナルキャストの歌声を聴いてみることをおすすめします。
アフレコではなく同録で、しかもシンシアはワイヤーで宙吊りされながら堂々と歌い上げてみせています。ミュージカルの本場のトップ女優たちが本気を出した歌唱シーンはやっぱすごいですよ。
ポピュリズム化する社会への警鐘
完結編となる『ウィキッド 永遠の約束』では、「西の悪い魔女」として生きることを選ぶエルファバ、魔法は使えないものの「善い魔女」となるグリンダ、それぞれが別々の道を歩む姿が描かれていきます。せつないです。
一方、オズの魔法使い&マダム・モリブルは、「西の悪い魔女」の恐怖を煽ることで民衆の支持を得ようとします。そんなポピュリズム政治への風刺も込めた内容となっています。外国人排斥を訴えて、支持率を上げようとするどこかの国の政治家に、オズの権力者たちはそっくりです。
ハリウッド離れが言われて久しくなりますが、『ウィキッド』はキャストよし、楽曲よし、メッセージ性もよし、のミュージカル大作です。ハリウッド映画の本気印を今夜は存分に楽しみましょう。
文=映画ゾンビ・バブ
