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S席6500円の「109シネマズプレミアム新宿」開業3周年、「高いほうが売れる」現在地と展望

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109シネマズプレミアム新宿(著者撮影)

 配信時代の到来には“映画館離れ”が危惧された時期もあったが、昨今、“映画館ブーム”ともいえる数字が記録されている。

ハリウッド「ネタ切れ説」

 日本映画製作者連盟が発表したデータをもとに昨年の日本の映画業界を振り返れば、年間興行収入で歴代最高成績(2744.5億円)を記録。動員数はコロナ禍前の2019年に次ぐ歴代2位(1億8875万人)の好成績を収めた。

 もちろん昨年、話題作が立て続けに公開された影響は無視できない。史上最速の8日間で興収100億円を突破した『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』や、約22年ぶりに実写邦画の歴代興収1位を塗り替えた『国宝』などがSNSでの話題拡散のほか何度も劇場で見たいというニーズをつかみ、映画館の賑わいを牽引した。

 サブスクなら月額数百円から映画が見放題なのに、1本2000円前後を払う劇場が盛り上がる実態は、「映画を映画館で見る価値」が見直されているともいえる。また、劇場としても「4DX」「MX4D」等体験型の上映や、発声OKの応援上映、ライブビューイングなど、さまざまな楽しみ方が提供され、アミューズメント施設としての存在感も強めている。

Sクラス6500円、超高級「109シネマズプレミアム新宿」 手応えは

 そんななか、「プレミアム」なシートを用意する映画館も登場しており、その最上級ともいえるのが2023年4月に開業した「109シネマズプレミアム新宿(以下、109プレミアム)」だ。新宿のど真ん中にそびえる東急歌舞伎町タワーの開業と同時にオープンし、まもなく3周年。何から何までハイクラスなその施設内容は、当初大きな関心を集めた。

 座席や映写・音響設備はもちろん、ポップコーンやドリンク、専用ラウンジなど、鑑賞部分以外にもこだわりが光る。そのぶん料金もハイクラスで、Aクラス席が4500円、Sクラス席が6500円(ともに一般料金)だ。強気の価格設定だが、経過は順調なのだろうか。運営3年を控えるいま、109プレミアムの総支配人・廣野雄亮氏に軌跡と今、そしてこれから見据える映画館のあり方を聞いた。

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メインラウンジ(著者撮影)

気になる動員数や売り上げは…

 109プレミアムの特徴は、なんといっても全席「プレミアムシート」という点だ。各座席にリクライニング機能とサイドテーブルを備え、鑑賞中のノイズを極力排するようカスタマイズされている。中央列に並ぶS席はA席よりも隣席との間隔が広く、ついたて付き。収納スペースも豊富で、“余計なもの”が身の回りにない状態で映画に没頭できる設計だ。

「もっとも大事にしているのは、本当に質の良い体験。単にラグジュアリー感があるから高価格ということではなく、いかにストレスなく映画に集中していただけるかに重きを置きました」(廣野氏、以下同)

 気になるのは、動員数や売り上げだ。具体的な数字は非公表だが、廣野氏は「開業当時よりかなり伸びてきている」とその手応えを語る。前述の通り、昨年は映画業界全体が好調で興収・動員数ともに前年比約1.3倍の伸長を見せたなか、109プレミアムの動員数は前年比約1.5倍で、廣野氏はその理由を「認知と満足度」だとする。

「少しずつ多くのお客様に認知いただけて、選んでいただけるようになったんだなということを感じています。実際にご利用いただいたお客様にはきちんとご満足いただき、そのうえでリピートしていただけているのかなと思います」

 歌舞伎町という場所柄、ファミリー層やシニア層の割合は低いものの、20代から60代までの幅広い層が利用する。特にアーティストのライブビューイングやコンサート映像の上映、映画の記念上映などといったイベントには熱量の高いファンがたくさん訪れる。ライブに行くよりは安く、快適さが担保されたライビュは着実に支持を得ているほか、生放送でなくても、「VRゴーグル+極上の音響」で臨場感を味わえるVRコンサートは争奪戦で、1日に8回も上映されることがあるほどだ。

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プレミアムシート。手前がSクラス、奥がAクラス(著者撮影)

「なかなか認知されない」集客面で苦労も

 廣野氏が「少しずつ」と言うように、集客には地道な活動が必須だった。東急歌舞伎町タワーは開業2年で1000万人の来場者が訪れた新宿の新たなランドマークだが、地上9〜10階という高層階に位置する109プレミアムは、たとえば歩いていて、「ここに映画館ができたんだ」という何気ない認知は取りづらい。歌舞伎町タワーを見物に来た人ですら、「ここに映画館があるの!?」と驚く声もよくあったという。

「通常、映画館が予算を割いて映画館自体の宣伝をすることは多くないのですが、我々はその魅力を伝えるため、PR展開にかなり力を入れました」

 2024年にはシンガーソングライターやアイドルグループを劇場に招き、生ライブを行う「SAION MUSIC LIVE」をスタート。ほか、来場者からのリクエストが多い映画を上映する「SAION Request Collection」を開催し、『グレイテスト・ショーマン』(2017)、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)の2作品をリバイバル。どんなものを上映したら喜ばれるか、市場のニーズと徹底的に向き合い、極上の映像や音響を体験してもらうことで、地道に、着実に支持を伸ばした。

「どうせお金を払うなら」Sクラスから埋まる顧客心理

 いまや映画館は全国に3697ものスクリーンがあり(2025年時点)、群雄割拠。しかも新宿エリアは、「TOHOシネマズ新宿」「新宿ピカデリー」「新宿バルト9」など大手シネコンが立ち並び、高価格帯で勝負するのは相当ハードルが高そうだ。挑戦か、確信かという問いに廣野氏は「挑戦だった」と述懐する。

「高価格帯の座席は、2015年から『109シネマズ二子玉川』でエグゼクティブシート(3000円)とIMAX限定のグランドエグゼクティブシート(6800円)で導入しており、ご好評の実績はあったのですが、全席プレミアムシートは、109プレミアムが初。全席プレミアムというチャレンジで、さすがに不安がなかったといえば嘘になります。ただいざオープンすると、AクラスよりもSクラスの方が早く埋まる。正直、これは予想外でした。 “どうせお金を払うなら、より良い環境で見たい”という心理があり、それが購入に結びつくのは嬉しい発見でした」

没入できる秘密は“音の反響がない”空間作り

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搭載されている音響システムの監修をした故・坂本龍一氏(写真:Getty Imagesより)

 とりわけ“音”へのこだわりは凄まじい。109プレミアムに搭載されている音響システム「SAION-SR EDITION-」を監修したのは、世界的音楽家の故・坂本龍一氏(享年71)。スピーカー、アンプ、ケーブルといった機材すべてに妥協はない。

「日本で初めて導入した最高品質(開業当時)のアンプを採用し、特注のスピーカーケーブルなどから構成したサウンドシステムは細部までカスタム。シアター自体もそれらに応えられる作りです。シアター内で手を叩いていただくとわかるのですが、ほとんど響かないんですよ。というのも、映画館は“音の反響がない”空間が理想です。ほんのささいな反響が、スクリーンから発する音以外の“ノイズ”になってしまうためです」

 なぜそこまで“音”にこだわったのか。

「配信サービスの普及で、映画はどこでも見られる時代です。となると、劇場での映画鑑賞はより“非日常”の体験となってゆきます。『体験価値として最もインパクトを与えられるものは何か』と考えたとき、“音”に注目するのは自然な流れでした」

 音は、「振動」でもある。聴覚だけでなく、計算し尽くされた環境で響く“音”が全身に振動として伝わる感覚は、スクリーン内の世界を“自分ごと”として生きることを可能にする。

「追いかけてくる日常」に疲れる現代人 

 109プレミアムを語るとき、「非日常」という言葉が頻出する。

「映画館で映画を見る時間は、より豊かなものになっています。坂本龍一さんの言葉を借りると、あちこちから音が流れる現代社会は、人間の耳は“汚れている”。だからまずそれをリセットしてもらわないといい音も聴くことができないということで、そのための空間作りが109プレミアムの全体像になっています」

 ただでさえ新宿・歌舞伎町は毎日夜間だけで40万人の通行量といわれるほど、ごった返しているエリアだ。行き交う人びとの雑多な会話や大声が張り上げられる店の呼び込み、路上で歌うバンドマン、複数の街頭スピーカーから降ってくる狂騒的な広告音楽、車の走行音、信号機の音。そうした「ノイズ」が否応なく耳を攻撃する。

 そして「音」は、人の「記憶」ともセットだ。知っている歌謡曲を耳にすると、「あの頃」を思い出す、という経験をしたことがある人は多いだろう。音は、知らず知らず体験と記憶に入り込んでいるのだ。そうした現代人をすっかり映画の世界へいざなうためには、日常の「音」から身体ごと切り離す作業が重要だと考えた。

「入り口からメインラウンジに向かうまでの導線はほんのり暗く、あえて少しだけ長い距離の通路に。また、オリジナルのお香を焚き、ラウンジには坂本龍一さんに書き下ろしていただいた楽曲をBGMとして流しています。五感全部にはたらきかけて、気持ちをリセットしてもらう仕掛けが随所に施されています」

 また、Sクラスの利用者限定で、鑑賞前後のいずれかで歌舞伎町タワー10階のプレミアムラウンジ『OVERTURE』に入場できる。鑑賞前の気分を高めるのもいいが、鑑賞後、すぐに「日常」に戻らずにゆっくりと余韻に浸れば、映画を見たという体験が、強く特別な記憶として刻まれる。

変わりゆく「映画館のあり方」

 その高い価格帯ばかりが取り上げられがちな109プレミアムだが、さまざまな価値提供を行っている。そのひとつが「フィルム上映」だ。

 109プレミアムは、歌舞伎町タワーの前身であり、1956年から2014年まで営業していた「新宿ミラノ座」を継ぐ形で、35mmフィルム映写機を備える。廣野氏によると、特に反響があったのはクリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』(2024年3月日本公開)。オープン以来初めてとなる新作映画のフィルム上映とあり、若い年齢層を中心に109プレミアムの良さを知ってもらうきっかけになったという。

 また、昨年12月からは第3金曜日に“応援上映”企画「KABUKICHO 金曜応援団」がスタート。第1弾の12月は『バーフバリ エピック4K』、第2弾の1月は『プシュパ 君臨』、第3弾の2月は『新劇場版 銀魂 -吉原大炎上-』が開催された。

「109プレミアムは『映画館=映画を見る場所』という固定観念に縛られず、劇場としての価値を伝えていけるような展開を考えたいと思っています。今後は、スクリーンを使わずアナログのレコードを聴いてもらうリスニングイベントだったり、スポーツ観戦だったりと、映画館の新しい可能性を広げていきたいと考えています」

 日本中で“映画館ブーム”が巻き起こる背景には、劇場の“非日常体験”が求められていることがあるのかもしれない。109プレミアムの好調っぷりは、その証左といえるだろう。

レンタル なんもしない人と一緒に見てみた

(構成:吉河未布 取材・文:町田シブヤ)

町田シブヤ

1994年9月26日生まれ。お笑い芸人のYouTubeチャンネルを回遊するのが日課。現在部屋に本棚がないため、本に埋もれて生活している。家系ラーメンの好みは味ふつう・カタメ・アブラ多め。東京都町田市に住んでいた。

X:@machida_US

最終更新:2026/03/23 12:00