『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌』と小学館「マンガワン」事件の意外な接点

今年もやってきました。『金ロー』恒例、春の『名探偵コナン』まつりです。4月10日(金)からシリーズ29本目となる劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』の公開に合わせ、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では4週連続で『名探偵コナン』を放送します。
3月27日(金)の第1週は、『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌』(2006年)です。『名探偵コナン』のアニメ化10周年を記念した作品であり、興収30.3億円を記録しています。
小学生探偵の江戸川コナンに加え、大阪の名探偵・服部平次、もう一人の高校生探偵・白馬探、さらに怪盗キッドも登場します。『名探偵コナン』の作者・青山剛昌氏が生み出した名探偵たちが勢ぞろいし、推理を競い合うことになります。
蘭、灰原哀たちを人質に取られたコナン
今回は「米花町」を離れ、横浜が舞台となります。江戸川コナン(CV:高山みなみ)、毛利蘭(CV:山崎和佳奈)、灰原哀(CV:林原めぐみ)に少年探偵団の一行は、私立探偵の毛利小五郎と共に横浜の遊園地を訪れます。小五郎の依頼人から招待されたのですが、依頼人は直接姿を見せようとしません。そして、この依頼人はとんでもない依頼をするのでした。
「ある事件の真相を12時間以内に解いてほしい」という案件ですが、時間内に解決できなければ遊園地にいる蘭、灰原哀、少年探偵団の着けた腕時計型のIDに仕掛けたプラスチック爆弾が爆発すると脅します。小五郎よりも先に同じ依頼を受けた探偵は、解決することができずに爆死を遂げたそうです。
小五郎とコナンはさっそく捜査を始め、「ある事件」とは数カ月前に横浜で起きた現金輸送車襲撃事件だったことを突き止めます。コナンのライバルである服部平次(CV:堀川りょう)と白馬探(CV:石田彰)も同じように人質を取られ、この事件を追っていました。合流したコナンたちは横浜海洋大学にある「横浜犯罪研究会」が事件に絡んでいる可能性と、犯罪研究会の三代目会長・伊東末彦(CV:古谷徹)が除籍処分になっている事実をつかみます。
しかし、事件の真相を追うコナンたちの前に武装したバイカー集団が現れ、コナンは脚を負傷した上に失神するはめに。その間にも時間は進み、タイムリミットが迫ってきます。コナンを信じる灰原哀ですが、制限時間ギリギリとなり、さすがに不安が隠せません。
事情を知った目暮警部らも遊園地に駆けつけ、入場者たちを退避させるという非常事態となります。果たして蘭や灰原哀たちの運命はいかに……、というサスペンスフルな内容です。
越えてはいけない一線を越えた者たち
本作の脚本は、TVアニメシリーズの第1話を執筆した柏原寛司氏です。横浜を舞台にした『あぶない刑事』(日本テレビ系)など、数多くの刑事ドラマを手掛けてきたベテラン脚本家です。『あぶ刑事』のタカ&ユージのように、今回はコナンと平次のバディ要素が強い物語となっています。
シリーズ20作目の『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016年)からハリウッド映画ばりのアクション大作へと作品スタイルを変え、興収を大幅に上げていくことになる劇場版シリーズですが、この頃はまだ本格的な謎解きがメインでした。
コナンたちは「横浜犯罪研究会」の出身者たちが現金輸送車襲撃事件に関係していたと推理します。犯罪研究会のメンバーたちも、コナンこと工藤新一(CV:山口勝平)と同じように、モーリス・ルブランや江戸川乱歩らの犯罪小説のマニアだったのでしょう。しかし、三代目会長の伊東末彦は他のメンバーと共謀し、実際に自分たちの手で犯罪を犯してしまったようです。
虚構の世界にのめり込み過ぎ、彼らは越えてはいけない一線を越えてしまったのです。
この「横浜犯罪研究会」をめぐる人間関係を丁寧に掘り下げて描けば、『探偵たちの鎮魂歌』はかなり面白い犯罪ミステリーになっていたと思います。
妄想を現実化させてしまう狂気
ミステリ作家の中には、実際に犯罪を犯した経歴の持ち主もいます。その代表例となるのは、歴史ミステリーで知られる英国の女流作家アン・ペリー(1938年~2023年)です。ニュージーランドで育った彼女は高校時代に、親友のポウリーンと共謀し、ポウリーンの母親を殺害しています。
アン・ペリーとポウリーンはファンタジー小説を共作する仲良しでしたが、同性愛を疑ったポウリーンの母親に交際をとがめられ、2人で彼女を撲殺しています。2人は事故に偽装しようとしましたが、警察にすぐに見破られたそうです。
少女たちには無期懲役の判決が下されたものの、未成年だったことからアン・ペリーは女子少年院で5年間を過ごした後、英国で名前を変え、作家デビューを果たすことになります。
この事件をもとに、ピーター・ジャクソン監督は『乙女の祈り』(1994年)として映画化しています。配信はされていませんが、なかなかの名作なので気になった方はDVDを探してみてください。
妄想を現実化させることは、狂気でもあります。
罪が明らかになった覆面作家と協力者の存在
作家が犯した事件を調べていくと、三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた「三島事件」などがネット上には出てきますが、同時に否応なく目に入るのが『名探偵コナン』の出版元である小学館で起きた「マンガワン」事件です。
漫画配信アプリ「マンガワン」で連載されていたダークファンタジー『常人仮面』の原作者・一路一は、通信制高校の教え子に性加害を繰り返して逮捕された漫画家・山本章一の別名義であることが2026年2月に発覚。「マンガワン」を配信している小学館は、大変な騒ぎとなっています。
小学館の担当編集者は漫画家・山本章一が起こした事件を知りながら、新しいペンネームに変えさせた上で漫画原作者として仕事を依頼していたことになります。
アン・ペリーの場合は少なからず罪を償ってから作家デビューしていますが、山本章一/一路一の場合は一審で有罪判決、現在は双方が控訴中という裁判のさなかで漫画の連載を始めていたことになります。担当編集者が被害女性との示談交渉に関わっていたことも問題視されています。
小説や漫画に登場する悪役には危険な魅力を感じさせるキャラもいますが、それはあくまでもフィクション上の人物だからです。実際に作家が罪を犯していたら、完全にアウトです。編集者の責任も問われます。
連載開始から32年経った今も幅広い世代に支持される『名探偵コナン』を抱える大手出版社の内部で、いったい何が起きているのでしょうか。名探偵を必要としているのは、実は現実世界なのかもしれません。
文=映画ゾンビ・バブ
