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拳ひとつで成り上がった男の物語――格闘王・前田日明が観る刹那的なアウトロー映画『ハードボイルド』

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拳ひとつで成り上がった男の物語――格闘王・前田日明が観る刹那的なアウトロー映画『ハードボイルド』の画像1
映画『ハードボイルド』より

 リーアム・ニーソン主演『ハードボイルド』。ニーソンが演じるのは裏社会でしのいできた男だ。どこまでも不器用で昔がたきな一匹狼。いくつかの偶然が重なり、人生の最終盤で運命に抗うこととなる。己の矜持と美学を懸け、最後の闘いに挑むのだ。その帰趨やいかに──。

 ニーソンは1952年生まれ。今作で活劇からの引退を示唆している。『ハードボイルド』はアクションスターとしての彼の集大成となるかもしれない。

 人間の匂いがするドラマを基底にクライムアクションが織り込まれる。苛烈と情感をたたえた佳作は全米トップ10に躍り出た。

 ニーソン扮するアウトローは欠落を抱えながら生きている。かつて置き去りにした家族への深い悔恨だ。老いや衰えと直面せざるを得なくなったとき、主人公をさらなる喪失が襲う。記憶がむしばまれていく病に侵されていたのだ。

 欠落と喪失。1980〜90年代のマット界にも同じキーワードを背に闘い続けた男がいた。格闘王・前田日明氏である。

 プロレスファンではなかった彼は職業としてプロフェッショナルレスリングを全うしようとした。だが、当時の業界は本来の格闘技術を軽視し始めていた。前田氏は原点回帰を志す。彼が率いたUWFは若者を中心に絶大な人気を博した。UWFからRINGSへと続いた実験は現在の総合格闘技につながる源流のひとつ。だが、その過程で前田氏はいくつかの訣別と向き合う仕儀となった。純粋さゆえに。前田氏が歩んだ道程はまさに欠落と喪失の物語といえる。

 格闘家、プロモーターとして幾多の闘う者たちに視線を注いできた。男の生き方については一家言ある。

 その前田氏に『ハードボイルド』を観ていただき、YouTube「前田日明チャンネル」の企画として、映画の感想、そこから連想されるものをじっくり伺った。

拳ひとつで成り上がった男の物語――格闘王・前田日明が観る刹那的なアウトロー映画『ハードボイルド』の画像2
前田日明氏

 そこでの発言を抜粋しながら、リーアム・ニーソン、『ハードボイルド』の魅力に迫っていくこととしよう。

 まずは率直な感想。格闘王は『ハードボイルド』をどう観たのか。

「昔のアメリカン・ニューシネマの1本を観ているようでしたね。近年だとクリント・イーストウッドが監督・主演した『グラン・トリノ』を思わせるところもある」

 アメリカン・ニューシネマは1960〜70年代に米国で製作された映画群で主人公ははぐれ者がほとんど。リアリズム描写を用い、反体制志向の作品が多い。

「前田日明チャンネル」視聴者なら先刻承知だろうが、前田氏のオールタイムベスト3は『バニシング・ポイント』『暴力脱獄』『拝啓天皇陛下様』。ニューシネマの佳作が2本を占めている。それにしても、味わい深すぎるラインアップだ。

 主演リーアム・ニーソンの演技は前田氏の目にどう映ったのだろう。

「完璧に演技していましたね。主人公になりきって。ハリウッドのトップ連中の演技力ってのはすごいですね」

 ニーソンは9歳の頃からボクシングに親しんできた。身長191センチの偉丈夫だ。今作でもジムでのスパーリングのシーンがある。

「最初は誰かほかの人がやってるのかなと思った。でも、本人だったんで。『あ、できるんだな』と」

 アウトローである主人公の主な武器は銃。だが、根底には拳がある。ボクシング技術を背景にしたニーソンの立ち居振る舞いは見どころのひとつだろう。

 前田氏自身は格闘技ビジネスを通じて反社会的勢力とはかたくなに一線を引いてきた。『ハードボイルド』で描かれる秩序の外に身を置きそこでしか生きられない、そんな主人公のありようをどう捉えるのか。

「(反社会的勢力とは)仕事では接点がありませんでしたね。ただ、俺の親族には何人かいたんで(苦笑)。そういう連中の普段の暮らしとか、たたずまいはよくわかる。彼らの多くは人間関係をうまく構築するのが難しいみたいで、自分を表現するのが苦手。不器用で、ついやりすぎてしまう。いわゆる『ほどほど』ってのがありません。彼らは自分への評価や定義を嫌う。やりすぎるのはそのせいかもしれません」

拳ひとつで成り上がった男の物語――格闘王・前田日明が観る刹那的なアウトロー映画『ハードボイルド』の画像3
映画『ハードボイルド』より

 前田氏は「THE OUTSIDER」を主宰したことでも広く知られている。「不良達ヨ、覚醒セヨ」の檄文の下、全国の不良たちが拳を交え、組み合った。朝倉海、朝倉未来、渋谷莉孔、啓之輔、金太郎、伊藤裕樹ら人気選手を輩出した。彼らにもニーソン扮する主人公に通じる気質はあるのだろうか。

「あります、あります。だから、そのへんをくすぐってやると、頑張るんですよね」

 UWFを経て、前田氏は格闘団体「RINGS」を旗揚げし、世界各国とネットワークを築き上げ、現役の軍人や政府要人の警護官、飾り窓のバウンサー(用心棒)といった多彩な背景を持つ猛者たちを招請した。

「RINGSオランダの連中の中には、“そういう世界”から足を洗ってきたヤツもいました。真ん中にどっぷりはまってる奴もいた。オランダには多かったですね」

 開幕早々、海岸沿いにある主人公が暮らす一角が印象的だ。海に面しているのに、開放感や爽快感は薄い。「どん詰まり」という言葉さえ思い浮かぶ。

 ままならぬ状況の中、主人公は自身の正義や信念を胸に立ち上がる。前田氏もこれまで幾多の壁にぶつかり、時には孤独とも向き合ってきた。

「力の衰えを感じ始め、俺は運よく引退できました。引退を機に『自分は何をするか』『自分に何ができるか』じゃなく、団体で育ってきた若い人間の育成──どう育てていくか、どう引っ張っていくかを考え始めた。この映画の主人公も病に倒れたときに、自分がこれまでほったらかしにしてきた私生活、家族に目が向いた。それはよくわかります」

 意思疎通が苦手な主人公。本作では若い世代に何かを継承しようともがく姿も描かれる。自分なりの経験や哲学を次世代に伝えていく。重要ではあるが、困難な作業でもある。前田氏はどう乗り越えてきたのか。

「そこは俺なんか、業界の中でも一番ハードボイルドにやってきましたよ(笑)。(後輩が試合で)挑んできたら、ガツンとやりましたし。(UWF時代に対戦した)田村潔司なんかは痛い目に遭ったんですよね。あれは船木誠勝と鈴木みのるが田村をあおってやらそうとしたんで。『そうはいかないよ』と。ガンとやりました」

 昔かたぎで不器用。主人公の懊悩はどこか前田氏にも通じるところがある。

「そうですね。私生活を顧みないところはあるかもしれない。俺にも『プロは、見る人から定義されたら、終わりだ』という思いがありました。それが私生活にも尾を引いていて。やりすぎたり、言いすぎたり。『すぎる』ってことが結構ありましたね」

 本作の原題は「ABSOLUTION」。「赦免」や「贖罪」の意味がある。人生の最後に差し掛かり、赦しを求めた主人公。果たしてその望みはかなえられるのか。ぜひ劇場のスクリーンで確認していただきたい。

 リーアム・ニーソンは前田氏より7歳年上。映画館に足を運ぶであろう同世代の男たちに向けて前田氏からのメッセージを聞いた。

「ニーソンと比べると、日本の年寄りは元気がないですよね。(作中で)70過ぎて、女性と“行きずりの関係”を持つでしょ? 日本人は還暦過ぎたら、ほぼ全滅じゃないですか。もうちょっと頑張らなあかんなと思いますよね」

 格闘王お墨付きの『ハードボイルド』は10月9日(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国劇場でロードショー公開される。前田氏との映画談義の全貌は「前田日明チャンネル」で配信中。

(取材・文=片田直久)

『ハードボイルド』
監督:ハンス・ペテル・モランド
脚本:トニー・ゲイトン
プロデューサー:ロジャー・バーンボーム、マイケル・ベスマン、ウォーレン・ゴズ
出演:リーアム・ニーソン、ロン・パールマン、ヨランダ・ロス、ダニエル・ディーマーほか
配給・宣伝:AMGエンタテインメント
10月9日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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https://hardboiled-movie.jp

※本原稿はインフォメーションです。

片田直久

1968年宮崎県日向市生まれ。出版社、編集プロダクション勤務を経て、現在はインディペンデントとして政治や医療、経済、抵抗文化などの分野で企画・取材・執筆・編集に携わる。渡世上の師は作家・大下英治。2020年よりYouTube「前田日明チャンネル」で合いの手を担当。現在、「リングス」について鋭意取材敢行中。日本ジャーナリスト協会運営委員。著書に『タモリ伝』(コア新書)。

最終更新:2026/10/05 18:00