実写版『SAKAMOTO DAYS』主演・目黒蓮には歓迎の声も……原作ファンの福田雄一監督に対する拒否反応の“正体”


漫画家・鈴木祐斗氏が「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の『SAKAMOTO DAYS』がSnow Man・目黒蓮で実写映画化され、2026年のゴールデンウィークに公開されることが発表された。しかし、X(旧Twitter)上を見ると、“福田雄一監督への拒否反応”を示す声が続出。トレンドにも「福田雄一監督」のワードが入り、ポストのほとんどが批判的な意見だった。
今回のことを抜きにしても、福田氏は「原作ファンや映画ファンから嫌われがちな監督」の代表的な存在である。その理由はどこにあるのか――なんとなくの印象ではなく、監督の発言を振り返りながら、福田作品をそれなりに観てきた筆者がまとめていこう。
『SAKAMOTO DAYS』実写化で、福田監督の“原作に一切触れていない”コメントに批判続出
『SAKAMOTO DAYS』は、のどかな街で個人商店を営む元・伝説の殺し屋、坂本太郎が、愛する家族との平和な日常を守るべく、次々と襲いかかってくる刺客と戦う“日常×非日常”のソリッドアクションストーリー。コミックスの全世界累計発行部数は1500万部を突破し、今年1月期にはテレビ東京系でアニメ第1クールが、7月期には第2クールが放送された人気作となっている。
そんな同作の実写化で槍玉に挙がったのは、福田監督が寄せたコメントだ。何しろそこには「俺、目黒蓮のためなら、命かけられるわ!」など主演の目黒蓮へのラブコールがたくさん綴られている一方、原作については一切触れられていない。福田監督のコメントを紹介した映画公式Xは「原作愛なんて皆無なのが分かる」「目黒蓮ファン以外は誰も喜ばないコメント」など否定的なコメントが寄せられ、ほぼ炎上状態となった。
なお、「福田監督が原作や作品そのものよりも俳優のことばかり考えている例」は今に始まったことではない。2020年の『今日から俺は!!劇場版』について、福田監督は朝の情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)で、「僕 作品のクオリティーとか出来あんまり気にしないんですよ」「作品はボロボロでいいんですけど、『役者は面白かったね』って言われるとうれしい」などと発言している。他にも、雑誌「SWITCH」Vol.37 No.5(スイッチ・パブリッシング)のインタビューでも「キャスティングで作品の九割が決まると思っている」とまで明言していた。
福田雄一監督、「俳優同士の内輪ノリ」「作品の私物化」と言われる理由
また、福田監督が批判される最大の理由は、肝心の映画本編における「俳優同士の内輪ノリ」と評される部分だろう。直近で特に怒りを買ったのは、24年末に公開された『聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団』で、俳優だけでなくスタッフまでイジるような場面を延々と描き、それが度を越した内容だったため「豪華キャストの無駄遣い」「原作ファンは観ない方がいい」などとさんざん叩かれた。
一方で、17年に第1弾が公開された実写映画版『銀魂』シリーズは、空知英秋氏の原作漫画(集英社)自体にパロディギャグが多く、福田監督が得意とする俳優の面白みを活かしたアプローチ、メタフィクション的な構造との相性が良かったため、原作ファンにも概ね受け入れられたと言える。
だが、やはり福田監督のギャグの多くは、原作を再現したものではなく、監督独自のセンスで入れている、または俳優のアドリブに頼ったような「悪ふざけギャグ」と思われているのが現状だ。「監督による作品の私物化」と思われてしまうのも致し方がないだろう。
モラルを問いたくなる描写、洋画ファンから嫌われる原因も
福田監督は脚本も兼任することが多く、作家としてのモラルを問いたくなることもある。特に批判されたのは、『新解釈・三國志』(20年)で劇中の渡辺直美の容姿が「時代考証的には美人」と評されたり、その渡辺が城田優に対して「私はその中途半端な外人顔も好きよ!」と言い放ったりする。話の流れとしては差別的な発言への批判と取れなくもないのだが、見た目を笑うようなギャグが悪目立ちしているため、結局はルッキズムを助長しているように思えてしまう。
他にも、リメイク版『50回目のファーストキス』(18年)では、「ゲイの青年がキスをしようとするとビンタする」「『気持ち悪いな』と言い放つ」といった、オリジナル版にはない「同性愛者へのいじり」があった。実写版『ヲタクに恋は難しい』(20年)では、とても下品な言葉である「ドチャシコ」を俳優に言わせるなど、オタクへの愛も理解もないどころか蔑視のようにさえ思える描写もあった。
さらには、洋画ファンから反感を買った事例もある。19年公開の『シャザム!』で日本語吹き替えの監修・演出を務めた際、主人公の日本語吹き替え声優に菅田将暉を起用したことについて「直感で決めた」と語り、本編で主演のザッカリー・リーヴァイのイメージと声がまったく合っていなかったことから、猛批判を浴びた。後に洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」では、草尾毅が同役を演じた新録の吹き替え版が制作されている。
「福田監督にしてはマシ」な直近の代表作は、あのヒット作!
さんざん批判をしたのでフォローをしておくと、直近では「マシなほう」「ちゃんとしている」などと、福田監督を嫌う人からもそれなりの評価を得た実写化作品もある。『SAKAMOTO DAYS』とは「普段は素性を隠す者たちの日常と、殺し合いのアクションが描かれる」という共通点もある、『アンダーニンジャ』だ。
好評の理由の筆頭は、「アクションが面白い」こと。忍術を使うアクションはそれぞれがアクロバティックで迫力があり、刀も手裏剣も使う手数の多さが楽しい。これらは『シン・仮面ライダー』(23年)でもアクション監督を務めた田渕景也氏の功績が大きいだろう。同様に『SAKAMOTO DAYS』でも田渕氏など優秀なアクション監督が起用されれば、アクション面では見応えがある作品になる可能性が高い。
実写版『SAKAMOTO DAYS』、「主演:目黒蓮」には歓迎の声多数
もう1つフォローをしておくと、『SAKAMOTO DAYS』における「主演:目黒蓮」というキャスティング及び解禁されたビジュアルには、目黒ファンのみならず原作ファンからも歓迎の声が多い。目黒本人は「原作の世界観とキャラクターの魅力を大切にしながら、自分なりの想いを込めて演じました」などとコメントを寄せており、原作へのリスペクトを最優先にする姿勢がうかがえる。
福田監督作における(もちろんプロデューサーや関係者の功績が大きいとはいえ)豪華なキャスティングはとても大きな強みであり、特に実写版『HK/変態仮面』シリーズの鈴木亮平や、連続ドラマ『アオイホノオ』(テレビ東京系、14年7月期)の柳楽優弥には絶賛の声が多い。今回の『SAKAMOTO DAYS』では、痩せてシュッとしている主人公の坂本と、約4時間をかけた特殊メイクでふくよかな体型に変貌を遂げた坂本、その両方を演じる目黒蓮の「ギャップ」も楽しめることが期待できる。
ちなみに目黒は福田監督について、「何度も何度も僕のことを考えた提案をしてくださり、人想いなあたたかい人だと感じました」「撮影が始まると、監督がスタッフや出演者を心から信頼していることに驚き、僕もすぐに信頼できました」ともコメントもしていた。今回に限らず、福田監督作品では、俳優に過度のストレスを与えたりはしない、楽しそうな撮影現場になっていることが伝わるレポートやインタビューも多く見かけるだけに、その環境の良さが、俳優にとっても歓迎されているのだろう。
福田監督を「コメディ作品の請負人」にしないでほしい
結論としては、漫画原作の映像化に関わる方は、いかに福田監督にヒットメイカーとしての実績があろうとも、「コメディ要素のある作品は福田監督にやってもらおう」と単純に考えないでいただきたい。
原作の方向性によっては福田監督との相性の良いケースもあるかもしれないが、俳優の面白さやギャグを優先するのはまだしも、さすがに原作をないがしろにしている、不誠実さを感じてしまう例があまりに多い。本来であれば「実写化を任せていい原作は非常に限られる監督」ではないだろうか。俳優のファンや「何も考えずに笑いたい層」のニーズを満たしているのでヒットは見込めるのかもしれないが、今回の『SAKAMOTO DAYS』のようにここまで批判の声が広がるのであれば、「それでもいい」とは言ってられないだろう。
前述の『アンダーニンジャ』にも、「監督の我が出すぎ」「多少は福田監督に耐性がある自分でも無理だった」などと、やはり“福田監督らしさ”が邪魔になっているという指摘が多かった。原作にも確かにコメディ要素はあるが、それは「日常の中で発露する、狂気と隣り合わせのコミュニケーションのギャップによるおかしみ」という印象で、福田作品特有の「コントのようにふざける」ギャグとはかなりピントがズレてしまったように思えた。
『SAKAMOTO DAYS』の原作のコメディ要素は「愛らしいキャラ同士の掛け合い」にこそあると思えるので、実写化で「福田監督らしいおふざけ」が原作とのハレーションを起こしかねないと、やはり警戒してしまうのだ。
とはいえ、現段階ではどのような作品に仕上がっているのかはわかりようもないし、期待値が低い分、『アンダーニンジャ』のように「思ったよりマシ」になる可能性もかなり高いのではないだろうか。実際の映画が、原作ファンにとって、多少は納得できる内容になっていることを願っている。
(文=ヒナタカ)