「洋画離れ」加速で興収ベスト10から実写洋画が消えた…映画ライターが原因を解説
2024年の映画興行収入ランキングに大きな異変が起きそうだ。順位の確定が近づいてきた現時点でトップ10に洋画の実写作品が入っておらず、かねてから指摘されていた「洋画離れ」が極まってきたと騒がれているのだ。
すでに複数のメディアで報じられているが、現時点での年間興収ランキングは1位が『名探偵コナン100万ドルの五稜星』、2位が『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』、3位が『キングダム 大将軍の帰還』、4位が『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』、5位が『ラストマイル』という結果に。1位の『コナン』は150億円以上、2位の『ハイキュー!!』は110億円以上の興行収入を確実にした。
以下、6位が『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』、7位は『インサイド・ヘッド2』、8位は『変な家』、9位は『怪盗グルーのミニオン超変身』、10位は『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』。時期的にトップ10入りの作品は確定まで動かないと見られている。
相変わらずアニメが強いが、邦画の実写では『キングダム 大将軍の帰還』が約80億円の興行収入を叩き出し、3位と健闘。人気ドラマと世界線が交差する『ラストマイル』は興収60億円近い人気作となり、YouTubeなどを通して観客を呼び込んだ『変な家』は50億円超、TikTokなどから若者世代の間で口コミが広がった『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は45億円超で想定以上のヒットとなった。
ついに興収トップ10から実写洋画が消える
邦画が存在感を見せた一方、洋画のランクインはアニメ作品の『インサイド・ヘッド2』と『怪盗グルーのミニオン超変身』のみ。洋画の実写作品はトップ10に一本も入らないことが確定的となった。
実写洋画でも『デッドプール&ウルヴァリン』『オッペンハイマー』などは一定の話題になったが、いずれも興収20億円前後にとどまり、トップ10の作品からは大きく離されている。
かつての日本の映画興行は「洋画が主役」といってもいいほどだったが、近年は急速に「洋画離れ」が進行。2020年以降、年間の興収ランキングでトップ10に洋画が5本以上並んだ年はない。
また、コロナ禍などの影響で映画の視聴スタイルが大きく変わり、配信サービス全盛となったことで、イベント的な要素やSNS発のムーブメントなどがないと観客がなかなか映画館に足を運ばなくなっている。そのあおりを最も受けたのが実写洋画といえそうだ。
それでも、昨年は『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』、一昨年は『トップガン マーヴェリック』、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』といったヒット作が上位に食い込んでいたのだが、ついに今年度はトップ10から実写洋画が消えてしまいそうだ。
映画ライターが「洋画離れ」の背景を分析
なぜここまで「洋画離れ」が進んでしまったのか。豊富な取材経験と業界知識を持つ映画ライターの長野辰次氏はこのように解説する。
「今年の洋画に話題作が少なかった理由は、2023年の全米脚本家組合と米俳優組合の5か月近くに及んだ長期ストライキの影響が大きかったのではないでしょうか。来年はトム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025年5月公開予定)などがあるので、2年連続で洋画の実写作品がベスト10から消えることはさすがにないと思いますが、客を呼べるハリウッドスターがいまだにトム・クルーズやブラッド・ピット、ジョニー・デップあたりという状況だと、若い観客の実写洋画への動員は今後も難しいかもしれません。
また、ディズニーがオリジナルの新作をあまりつくれず、過去のヒット作の続編に頼っていることに象徴されるように、ハリウッドの企画力不足は明らかです。今年は面白い洋画に出会えなかったとお嘆きの方は、アマプラ(Amazon Prime Video)での配信が始まったA24製作の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』か、スペイン出身のパブロ・ベルヘル監督の劇場アニメ『ロボット・ドリームズ』(公開中)あたりを観て、溜飲を下げてほしいですね」
日本では、このまま「洋画離れ」が加速していくことになるのだろうか。「洋画復権」の一つのカギとして、長野氏はこのように提言する。
「今年の洋画でいえば、ホアキン・フェニックスとレディー・ガガが共演した『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』や、クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』は、宣伝のやり方次第では日本でももっと数字を残せたように思います。メジャー系の作品は本国からの縛りが強いこともありますが、洋画の興行成績が厳しいという状況を逆手にとって、日本独自の宣伝戦略があっていいはず。
かつては年末の『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)に各配給会社の名物宣伝スタッフがそろって出演し、お正月映画の宣伝バトルを繰り広げていた時期もありました。洋画宣伝は日本独自の文化でもあるので、流行語になるくらいのパンチのある宣伝コピーやプロモーションで洋画を盛り上げてもらいたいものです」
(文=佐藤勇馬)
■取材協力=長野辰次
映画ライター。生年月日非公開。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。