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【24年秋ドラマ】『海ダイヤ』最終回2時間SP 運命の神は鉄平と朝子に微笑むのか?

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神木隆之介(写真:サイゾー)

 考察バトルがネット上で繰り広げられた日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)も、今夜が最終回です。12月22日(日)夜9時からの2時間スペシャル枠で、野木亜紀子版『タイタニック』はフィナーレを迎えます。

 1964年8月に起きた炭鉱事故によって、「軍艦島」はいっきに傾いてしまいます。炭鉱で働く人たちは次々と島を離れ、軍艦島は1974年の閉山に向かって進んでいきます。新しい炭鉱を掘るものの、結局のところは一時的に盛り返しただけに過ぎませんでした。

 重苦しい空気の中、炭鉱の勤労課で働く鉄平(神木隆之介)は食堂の看板娘・朝子(杉咲花)とフェリーで長崎市へと向かい、人目を気にしながらも初デートを楽しみます。長崎でいちばん美味しいチャンポンと評判の店で、チャンポンを注文する鉄平と朝子でした。

 朝子の食堂でいつもチャンポンを食べているんだから、初デートくらい違うものを頼めばいいのにと思うのですが、当人たちは楽しそうです。朝子の食堂と比べ「どっちが美味しい?」「その顔はうちが勝ったって顔だね」と鉄平が小声でささやくと、笑ってうなずく朝子でした。こんな何気ないシーンに、恋人たちの心が通い合っている様子が伝わってきます。あぁ、それなのに運命の神さま(=脚本家の野木亜紀子)はあまりにも残酷です。

中嶋朋子がしれっと放った強烈なひと言

 第7話のラスト、鉄平の兄・進平(斎藤工)は炭鉱内での消火活動中に一酸化炭素中毒で倒れたのですが、やはり帰らぬ人となっていました。荒木家には戦争で亡くなった兄たちと並んで、進平の遺影も置かれていました。幼い息子・誠を抱えたリナ(池田エライザ)は未亡人となってしまいます。

 このシリアスな場面で重大な役割を果たすのは、鉄平の母・ハル(中嶋朋子)です。頼りになる進平が亡くなった上に、夫の一平(國村隼)は肺の病気で入院中。かわいい孫息子の誠のことが心配なハルは、鉄平に「リナさんと一緒にならん?」としれっと勧めます。

 まだ独身の鉄平がリナを嫁にもらい、誠の面倒をみれば荒木家は安泰です。「家」を第一に考えたこの考え方は令和の時代では強烈なものがあります。しかし、戦時中や戦後まではけっこう当たり前の考え方だったようです。

 広島出身の新藤兼人監督が98歳にして撮り上げた遺作『一枚のハガキ』(2011年)では、農家に嫁いだ嫁(大竹しのぶ)は長男の夫(六平直政)が戦死し、村のならわしで夫の弟と再婚するという逸話が語られていました。人流の少ない閉鎖的な集落では、そうでもしないとコミュニティーそのものが維持できなかったのでしょう。

 中嶋朋子といえば、昭和世代には懐かしい名作ドラマ『北の国から』(フジテレビ系)で演じた蛍役が脳裏に焼き付いている人も多いのではないでしょうか。キタキツネに向かって「ルールルルル」と呼びかけていた純朴な少女が、昭和の価値観を平然と押し付ける貫禄を身につけていたことに軽いめまいを感じてしまいます。

最終回のキーパーソンを演じる滝藤賢一と麻生祐未

 第8話では、最終回につながる重要人物もクローズアップされました。鉄平がリナ母子にかまっている間に、食堂の若手料理人・池ヶ谷虎次郎(前原瑞樹)が朝子との距離を詰めていきます。鉄平は閉山前に戸籍のないリナ母子を連れて、島から出奔。傷心の朝子は虎次郎と結婚し、島で和馬(尾美としのり)らを産むことになったようです。

 惚れ合っていた者同士が結婚できないという理不尽さ、不条理さ。鉄平も朝子も本命ではなく、第二志望と結ばれたということでしょうか。もちろん、本命と結婚できたから、その後すべてうまく行くとは限りません。この世はままならないものです。でも、それゆえに朝子と鉄平にはドラマの中でハッピーエンドを迎えてほしいと願っていた視聴者は多いことでしょう。朝子の50年後の姿であるいづみ(宮本信子)は、鉄平と無事に再会を果たすことができるのかどうか。最終回の最大の見どころになるはずです。

 これまでは超スローテンポだった現代パートですが、第8話ではかなり急激に物語が展開しました。若き日の鉄平たちの生き方に日記を通して触れた玲央(神木隆之介:二役)は、ついに覚醒します。先輩ホストのミカエル(内藤秀一郎)に脅されて言いなりになっていた玲央ですが、毅然と抵抗。借金漬けで、風俗店に売り飛ばされていたキャバ嬢のアイリ(安斉星来)を救出します。この勢いで、玲央はいづみと鉄平との再会にも大きなアシストを務めるのではないでしょうか。

 最終回には最終局面を左右するキーパーソンとして、百合子(土屋太鳳)と賢将(清水尋也)の息子役の滝藤賢一が出演します。百合子が3人の子どもを持つ母親になったことに加え、滝藤が持っていた8ミリフィルムに何が映っているのか興味津々です。もう1人、鉄平を知る人物として長崎出身の女優・麻生祐未も登場するとのこと。白衣姿の麻生祐未の職業も気になるところです。終盤、出番が多くなったサワダージこと澤田(酒向芳)の動向も要注意です。

 いずれにしろ、軍艦島で生まれ育ったメインキャラクターたちのその後が、最終回でいっきに明かされることになると思われます。

現代パートはなぜ2018年なのか?

 もうひとつ、『海ダイヤ』で大きな謎だったのは、現代パートの時代設定が2024年ではなく、2018年になっていることです。野木亜紀子の脚本なので、明確な理由があるはずですが、第8話の時点ではまだ不明のままです。

 2018年というと、野木脚本、塚原あゆ子監督、新井順子プロデューサーの黄金トリオが初結成された『アンナチュラル』(TBS系)が放映された年なんですよね。しかも、『アンナチュラル』が「市川森一脚本賞」を受賞し、その副賞として野木&新井プロデューサーは長崎旅行を体験しています。そのことが長崎の軍艦島を舞台にした『海ダイヤ』の企画のはじまりとなっています。

 最終回の2時間だけでは、これまでの伏線回収だけでいっぱいいっぱいになりそうですが、ラストシーンで驚愕展開するのも『海ダイヤ』のお約束でもありました。ひょっとしたら、今年大ヒットした映画『ラストマイル』みたいな「シュアード・ユニバース」的な展開もまったくないとは言い切れないのではないでしょうか。

 King Gnuの主題歌「ねっこ」が流れるラストシーンまで、『海ダイヤ』は目を離すことができそうにありません。

(文=長野辰次)

長野辰次

映画ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』などで執筆。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

長野辰次
最終更新:2024/12/22 15:43