『M-1グランプリ2024』では何が起こったか? ~敗者復活戦~【新越谷ノリヲトーク】

22日に行われた『M-1グランプリ2024』(テレビ朝日系)、令和ロマンが前代未聞の連覇を果たした大会について、ライター・新越谷ノリヲと担当編集Sが勝手にしゃべります。お聞き流しのほどを~。
敗者復活戦、Aブロック
編集S さて、『M-1』が終わって数日たちました。今年の『M-1』はいかがでしたか?
新越谷 くるまがうれしそうでよかった!
編集S 確かに、昨年よりめちゃくちゃうれしそうでしたね。大会自体も盛り上がりました。さっそく分析していきましょうか。
新越谷 分析はもう、プロの芸人がやる時代かなと思うんですよね。今年はすごい本も2冊出たし、私たちのような一般視聴者が出る幕じゃないような。
編集S くるまの『漫才過剰考察』(辰巳出版)と石田明の『答え合わせ』(マガジンハウス)。
新越谷 なので、もう所感を述べるくらいしかないと思うの。
編集S 所感。
新越谷 所感です。感じたところ。感じたところを言います。
編集S 感じたんですね。
新越谷 感じましたねえ。実に感じた。
編集S では、敗者復活戦のAグループから振り返ってみましょうか。トップバッターは十九人。
新越谷 ゆッちゃんw、明るくていいですよね。明るい鳥居みゆきという感じ。
編集S 確かに、演劇ルーツなのも鳥居さんぽい。
新越谷 松永の佇まいもよくて、ゆッちゃんwが家で作った人形が勝手に動き出したみたいに見える。
編集S ネタよかったですよね。
新越谷 よかったと思います。「おばあちゃんじゃないかも」みたいなメタを入れてくるところも含めて、内容は印象より凝ってるし。ただ、2人が離れてる時間が長いのがもったいないなーと思ったんですよね。
編集S 距離がですか?
新越谷 そう、距離が離れてるネタだったでしょう。これだけ見た目にコントラストのあるコンビだったら、常に近くにいたほうがカオス感が出ると思うんです。離れてると風景に見えてしまうけど、近くにいたほうが世界が広がるというか。
編集S あれ、分析してません?
新越谷 してませんよ。感じたところです。
編集S じゃ次、今夜も星が綺麗。
新越谷 苦労人の三福氏、まずは準決勝おめでとうでいいんじゃないですかね。ザンゼンジ解散から9年も経ってる。
編集S 「かつお節の人」に加えて、今大会で「西島秀俊の人」という新たなキャッチも獲得しましたね。
新越谷 今回のネタは設定がすごいよかったと思うんですよね。十九人とは逆で、ヒッチハイクでツッコミのオクムラが助手席に座らされるので、怖い運転手の三福から離れたくても離れられないという縛りが効いて緊張感になってる。オクムラの目的が「クルマに乗せてほしい」から「クルマから降りたい」にシフトしていくというストーリーもあるし、いいネタだったと思います。
編集S 結果は「66-34」で今夜でした。
新越谷 もうちょい僅差でもいいかなと思いましたが、今夜の勝ちかなとは思いました。
編集S フースーヤ。
新越谷 もうスタイルとしては行き着くところまで行ってるので、お客さんとの相性だけになってる部分はありますよね。トム・ブラウンとかななまがりと同様に、どうしても万人ウケは難しい芸風ですし、勢いでどこまで潰していけるかで勝負するしかない。どんどん有名になっていく中で、「知られてる」というか「バレてる」というデメリットを「大勢に愛されてる」に変えていけるかどうかだと思います。その方式で勝ち上がったのがランジャタイなのかな。
編集S こちらも「66-34」でフースーヤでした。
新越谷 うん、だからパワーはあるんですよね。本来は準決で文句なく爆発してストレートで行きたいコンビなんですけど。まあ、それはみんなそうなんでしょうけど。
編集S そのフースーヤを「56-44」の接戦で下したのがドンデコルテ。
新越谷 知名度的には、フースーヤに勝ったのは金星だと思います。こっちは一発で「愛されに来た」という作戦が功を奏した。「いいおっさんがこういうことを言ってる」という面白さを切り口とシステムで見せたのが昨年ファイナルに進んだくらげだったわけですが、よりストレートに人格で勝負してきた。この勝利は気持ちよかったでしょうね。
編集S 売れそうな気配もありますよね。
新越谷 そうなんですけど、次の段階でラフレクラン問題が出てきそうな気はしますよね。誰にもコンビ名を覚えてもらえない問題。ドンデコルテのままだとしんどそう。
編集S それはあるかも。で、ダンビラムーチョです。
新越谷 Aブロックのハイライトはダンビラだったと思います。すごいネタだった。
編集S 蛾。
新越谷 一発で「蛾だ!」ってわかる顔、あんなことあります? フニャオが説明する前に「蛾じゃん!」ってなったもん。あんなお笑い見たことない。
編集S すごい蛾でしたね。歌うまなのもおもしろいし。
新越谷 ちょっと思ったのが、現場のモニターどうなってたのかなということなんですよね。去年、シシガシラのネタで脇田のアップがモニターに大映しになっていたことで有利だったという話もあったじゃないですか。今回の大原の顔も、アップでこそ炸裂するお笑いなわけで、現場とテレビで伝わり方が違ったのかもしれない。
編集S 次の金魚番長に「49-51」で負けましたね、ダンビラ。
新越谷 だから、意外だったんですよね。ダンビラの勝ちだと思ったんです。だけど、これは完全にこっちの問題もある。絶対的にあるんですよ。
編集S というと?
新越谷 金魚のネタのあの歌あるじゃないですか、あれ、まったく知らなかったんです。ショルダーの歌。あとで主婦のお友達に聞いて、すごい有名な曲だと教えてもらった。
編集S 時代に……。
新越谷 そう、時代に置いて行かれたんです。ここまで明確に、置いて行かれたと感じたのはお笑い見てて初めてでした。
編集S 新越谷さん、いくつでしたっけ?
新越谷 47。
編集S ああ……。
新越谷 「普通、子どもがいれば知ってる歌だ」とも言われた。
編集S うう……。
新越谷 ハライチがRPGのネタやって、オール巨人に「知らないから伝わらない」みたいなことを言われた回があったじゃないですか。あれのオール巨人側に、いよいよ来た。もう語る資格がない。
編集S 資格がないですね。最後、カベポスターです。
新越谷 だからカベポの勝ちだと思ったの! こんな、誰も知らない歌のネタなんて評価されるわけないじゃんって思ったら、みんな知ってたということです。カベポのネタだって強かったと思うし、それに勝つくらい伝わってたんだという事実がもう、もう……。
敗者復活戦、Bブロック
編集S 気を取り直していきましょう。Bブロックはカラタチから。
新越谷 ずっとやってきたことが実を結んでよかったね、という気持ちがいちばんですかね。スタイルを変えずにここまで来たのは本当にすごいと思う。その反面、ヲタネタを始めたころからは風潮も変わってきてるよなということも感じました。基本的にカラタチのネタは「僕ら、気持ち悪いでしょ」というところから発信されているわけですが、もうそんなに気持ち悪くないんですよね。本番前にミーグリやってたというのも、有馬記念の予想してたというのと、そんなに印象が変わらない気がする。
編集S そうかもしれませんね。
新越谷 気持ち悪くなくなった分、彼らの乱暴な言葉遣いが、いわゆる“弱者の悪あがき”に見えなくなってきている。市民権を得ちゃってる感じがするんです。もしかしたら今後は、もっと「僕ら、かわいいでしょ」の方向に振ったほうがいいのかもしれないと思いました。
編集S ナイチンゲールダンスが「75-25」の大差でカラタチを下しました。
新越谷 押し出しの強さがモロに出た感じがしますね。なかるてぃんって、実際はカラタチと同じくらいの身長なのに、すごくデカく見えた。声も通るし、動きも大きいし、大会場のライブでナイチンのよさが全部出たと思いました。2番手から勝ち抜くかも、と思ったもん。
編集S 滝音に「53-47」で敗退。ここは接戦でしたね。
新越谷 ザ・ブラッシュアップという感じですよね。もともと強いワードを精密に組み上げてきた。さすけが持っていた大砲を、研ぎ澄まされたナイフに持ち替えたという印象です。今まで見た滝音の中でいちばん好きなネタになりました。これ、来年はストレート決勝あるかもしれないですね。2021年のさや香の準決勝と同じ匂いがする。
編集S からあげ4ですか?
新越谷 敗者復活じゃなく、準決勝のほう。
編集S それはそうか。次は滝音対マユリカというドラマ含み。「64-36」は思いのほか大差だったように思います。
新越谷 人気投票の側面は否めないと、まあ今さらですけど、感じてしまったなぁ。マユリカのネタは全然いいし、ウケてるし、ミスもないし、彼らは何も悪くないんだけど、こっちが勝手に「打倒・令和ロマン」の大会であるという意識を持ってしまってるせいもあって、うーんマユリカか、となってしまった。すごく伸びた滝音と、去年同様のマユリカ、という構図でもあったし。いや、全然笑ったしおもしろかったですけど。自分は明確に「36」側だったなぁ。
編集S 家族チャーハン「56-44」。
新越谷 これも「44」側だった。家族チャーハン、ちゃんと見たの初めてだったけど、めっちゃいいですね。「お好きな席どうぞ」からの「まだない」の流れとか、ホントに美しいと思う。「反社の~」ってオチのところかな。もっとわけわかんなくて、ただ美しいだけのところに行ってればワンチャンあったかもしれません。まだ10回以上あるし、そのうち来るでしょうね。上手いし、おもしろかった。
編集S 男性ブランコ「53-47」
新越谷 これもいいネタでしたねえ。「人間を見てもらいます」ってワードもカッコいいし、浦井のヤカラっぷりも楽しかった。いわゆる「私の中の天使と悪魔」という定番ネタの進化形というか、パッケージを変えただけな気もするんですが、「クッショニズム」とか「タッフィー」とかワードで個性も打ち出しているし、「漫才をやらされてる先生」が暴れ回る姿も愛らしいし、これも「47」側でした。
編集S マユリカは悪くないですよね。
新越谷 全然悪くないです。
編集S 豪快キャプテン。
新越谷 なんかね、「イルカは魚ちゃうで」ってギャンゴリが言うのを待ってしまった感じがするんですよね。それと、べーやんが「イルカになりたい」とまで言い出したあたりで、ギャンゴリのほうから客側に共感を求めてほしかった感じがするんです。「トレーナーになりたい」が「イルカになりたい」に変化したときに、ギャンゴリの側にも「阻止」から「諦観」という変化が訪れてるわけですよね。ここで、言ってることは変わるけど同じテンションでべーやんに向き合ってしまったところがもったいないと思うんです。「何言うてんの、この人」という態度の変化も見たかった。そんな感じ。