工藤スミレが工藤スミレになったとき――没個性の先に見えた素顔
工藤スミレの写真集「スミレのように」が12月15日に発売となった。
Amazonなどの大手ECサイトで売り切れ続出、ランキングも〇週連続1位! というわけではないが、昨今の写真集には珍しい192ページという大ボリュームで、いわゆるグラビア写真集とは一線を画す生々しい仕上がりとなっており、大作めいた雰囲気には工藤スミレ本人も「最高です!」と太鼓判を押す。
今回の記事では、この「スミレのように」を担当した編集者のちょっとした制作秘話をお届けしたい。
菫からスミレへ
アイドルグループ「アップアップガールズ(仮)」の元メンバーである工藤スミレは現在、主に女優として活動中。呂布カルマとウェブCMで共演したり、人気スマホ向けゲーム「グランブルーファンタジー」のステージに立つなど活躍の場を広げている。
実はこの工藤スミレ、先だって工藤菫から改名したばかり。9月に写真集の発売が発表された際には工藤菫で、写真集の制作過程で「菫」から「スミレ」へ改名したのだった。
改名前、写真集の担当編集者が胸に秘めていたタイトルは「すみれのように」で、これは天才数学者・岡潔の言葉である「スミレはただスミレのように咲けばよい」(『春宵十話』より)からインスプレーションを受けたものだった。
しかし、当時の彼女は「工藤菫」だったため、タイトルの表記を「菫」か「すみれ」か「スミレ」で迷っており、「名前に合わせるなら菫かな」、「岡潔に合わせるならスミレか…」、「それとも、どっちにも寄せずに平仮名もいいな」と云々唸っていたのだ。
そんな折、先方マネージャーより「工藤スミレに改名します」という一報があり、これ幸いとばかりに「スミレ」という表記に決めたのだった。
<工藤スミレ(くどう・すみれ)>
NEW PIECE所属/兵庫県明石市出身/2001年1月15日生まれ/身長164センチ/元アップアップガールズ(仮)/ヤンジャン「サキドルエースSURVIVAL SEASON12」優勝/2024年秋に工藤菫から工藤スミレに改名/公式X@suuchanzuu/Instagram:suuchanzuu
私は作品になりたい
「私は数学なんかをして人類にどういう利益があるのだと問う人に対しては、スミレはただスミレのように咲けばよいのであって、そのことが春の野にどのような影響があろうとなかろうと、スミレのあずかり知らないことだと答えて来た」 岡潔『春宵十話』
岡潔(おか・きよし/1901~78年)は多変数解析関数の分野で世界的業績をあげた日本の数学者。いわゆる「三大問題」を全て独力で解決し、世界の数学者を驚かせたという。
1960年には文化勲章を受章。この際、天皇陛下に「数学とはどういう学問か」と聞かれ、「生命の燃焼です」と答えたそうだ。
生命の燃焼――。
岡潔にとって数学とは、全てをかけ、全身全霊で取り掛かるものだったのだろう。そんな彼は、「私は人には表現法がひとつあればよいと思っている」とも語っている。彼にとって、その「ひとつ」がまさに数学で、そこで彼は「生命の燃焼」を果たした。
工藤スミレは写真集の制作にあたって、「私、作品になりたいんです」と話してくれた。詳しく聞けば、写真集に限らず、芸能活動全般的に彼女は「作品になりたい」という。
たとえば、ドラマに出演したのであれば、彼女は「ドラマの一部になりたい」と目を輝かせる。
そこに「工藤スミレ」はいらない。作品になれれば、それがすべて。
没個性――。タレントや女優の中には、どんな場面でも自分自身の爪痕を残したがるタイプもいるが、彼女は違った。
ただただ作品になりたい。その思いで一途に活動してきたようだ。
彼女の想いを聞いた担当編集者は、「であれば、写真集では彼女自身を演じてもらおう。そうすれば、きっと工藤スミレの本体が浮かび上がってくるのではないか」と作品のテーマをこっそり決めた。
工藤スミレに工藤スミレを演じてもらうにはどうしたらいいか。それは、単純に素顔を狙うというのとはちょっと違う気がした。
だから、無理を言って何度も何度も撮影を繰り返し、ちょっとずつ本体を引き出そうと試みた。
その中では、酷暑の中の冷房のないボロアパートや寂れたラブホ、都会の澱が溜まっているような路地裏など、元人気アイドルには過酷とも言える悪辣な環境を設定したこともあった。そこで彼女がどんな表情を見せるのか、厳しい環境の中で垣間見せる「素」を狙いたかったのだ。
それが功を奏したかはわからないが、とにかく彼女は様々な撮影の中で抜群の表情を魅せてくれた。
その表情を言葉で言い表すのは難しいが、それは「生々しい純真」とでも表現できそうな、艶やかさと無垢な魅力の融合したような魅惑的なものだった。もちろん、その1枚をカバーカットに選んだのは言うまでもない。
思うに、生々しく純真な顔は、「工藤スミレが工藤スミレに憑依した瞬間」だったのではないだろうか。
そう思ってしまうほど、彼女が魅せた刹那の輝きは「作品」だった。
工藤スミレが工藤スミレに――。スミレのように――。
工藤スミレには「生命を燃焼」するように「作品」になり続けてほしい。
(文=サイゾーオンライン編集部)
【スミレのように書誌情報】
タイトル:スミレのように
モデル:工藤スミレ(くどう・すみれ)
撮影:木全虹乃楓(きまた・このか)
発売日:2024年12月15日
定価:税込5500円
版型:A4
ページ:192ページ
発売:株式会社サイゾー
ISBN:978-4-86625-183-7
Cコード:0076
Amazon販売ページ:https://amzn.to/3ZVzICW
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