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『おむすび』第64回 絶望の翔也にギャル軍団が「現実逃避&肩破壊ダンス」を強要する鬼の所業

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 昨日はハイパーシューズクリエイター・ナベべ(Starring Naoto Ogata)の爆誕によって日本の朝を騒然とさせたNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』でしたが、ちょっと気になることがあったんですね。

 昨日の放送が終わったのと同時刻、Yahoo!ニュースに例の統括プロデューサーの取材記事が出ていて、その中でナベべのキャラ変について釈明しているんです。いわく、妻が生きていたころのナベさんは堅物ではなく、このナベべが「本来の渡辺」であると。それは「ドラマの中では描いていませんでしたけれど、『さくら商店街』で暮らしたみんなは知っている」のだそうです。

 いや、それが通るなら何でもアリだろ。

「実は、結(橋本環奈)という人は、ドラマの中では描いていませんでしたけれど、幼少期に遠い銀河からやってきた異星人によってキャトルミューティレーションを施されており、その結果、内臓がないぞう。それを糸島で暮らしたみんなは知っているのです」と言われても納得しろというのか。

 と言いたくなるところなんですが、問題はこの記事が出たタイミングなんですよね。

 以前、福岡県西方沖地震について描かなかったことが話題になったとき、同じ統括の人が取材を受けて「あえて描かなかった」と釈明したことがありました。あのときは放送から数日後、おそらくは反響を受けての取材だったんだと思うんです。

 今回は放送終了と同時に記事が出ている。放送前から、ナベべの唐突なキャラ変が悪い意味で話題になることが想定されていたということです。やっぱ、おかしいと思ってたんだよな、作ってる側も。こんなの文句言われるに決まってるから、先に言い訳を作っておいたわけだ。

 なんかね、感動しちゃったんですよね。どうあれ、統括さんは『おむすび』を守らなきゃいけないという立場なんだよな。どうしようもなくひどいものだと自覚しているけれど、その責任において作品を死守するのだという、そういう強い意志を感じたんです。大人の仕事ってこういうことだと思うんだ。

 今まで、統括っていう役職だし、言ってることはめちゃくちゃだし、この統括さんが諸悪の根源なのかもしれないと思っていたんですが、末端の尻拭い役だったんですね。疑ってごめん。今後も忙しくなると思うけど、どうかご自愛ください。

 というわけで、第64回です。なんだかここのところ、毎回ワーストを更新してくるぜ!

「もっとほら、手を上げて!」

 結を追い払い、真昼間のクラブに翔也(佐野勇斗)を連行したアユさん(仲里依紗)。シャンパングラスを傾けながら、翔也にギャル魂をレクチャーしています。

「今を楽しめ」「生きてるんだから」

 翔也という人は、学生時代から野球漬けの毎日を送り、中学ではノーヒットノーランを連発。野球留学で北関東から九州の名門に入学するも、あと一歩のところで甲子園出場を逃し、夢だったドラフトからも漏れてしまった男です。それでも気持ちを切り替え、社会人に進んで一度はエースを張った。高校時代には存在すら知らなかった「へんかきゅう」という武器も手に入れ、再度プロに向けて前を向き始めた矢先に肩を壊してしまった。そういう人に、昼間から酒を飲ませて「今を楽しめ」と言う。

 このドラマでは、翔也が「野球をやめると誰か(結と会社ね)に伝えた」シーンはありましたが、「野球をやめると決めた」瞬間は描かれていません。普通、その「やめると決めた」瞬間が説得力を持って描かれていない場合、視聴者側はまだこの人は野球に未練があるのだと判断します。

 つまり翔也には、手術を受けてリハビリをがんばるという選択肢も残っているんです。可能性は低いけれど、このケガから再起できたケースだってある。医者はそう説明している。翔也自身も混乱しているし、髪を染めたりという奇行に走っているし、冷静な判断を下すにはもう少し時間がかかりそうだ。そういう状態の若者を年長者であるアユが酒席に連れ出して、酔っぱらってクダを巻いて「おめえも飲めよ」と言っている。「飲んで酔っ払って、嫌なことを忘れて今を楽しめよ」と。

 思い出したのは、映画『キッズ・リターン』(96)でモロ師岡が演じていた先輩ボクサー・ハヤシです。必死に練習している主人公のシンジ(安藤政信)に中華屋でビールを飲ませ、タバコを勧めてくる。「いいんだよ、別によ」。まさに堕落の象徴。人をダメにする魔の手そのもの。このハヤシの影響を受けて、シンジも選手として凋落の一途をたどっていきます。

 それと同じことが、今ここで行われているわけです。

 いよいよ酒が進んだアユは、手下どもを連れ立って踊り始めました。乱痴気パーティーの始まりです。繰り返しますが、昼間です。

 大音響と飛び交うカクテル光線、その中で行われている異様な集団舞踊に吸い寄せられるように、翔也も立ち上がりました。その顔には、笑みがこぼれ始めます。シャンパンに何か、よくない成分が含まれていたのかもしれません。

 健全な視聴者諸氏は、画面のこちらから叫んだはずです。

「踊るな、翔也! おまえは肩が……!」

 そんな私たちの願いをよそに、翔也は悪魔集団に取り込まれてしまいました。

「もっとほら、手を上げて!」

 教祖アユが本格的に、この若者の未来を壊しにかかります。鬼です。悪魔ですよ。

 重度の右肩関節唇損傷および右肩腱板損傷。日常生活すらままならないほどの痛みに苦しんでいるはずの翔也が、笑いながらブンブンと右腕を振り回している地獄絵図。軋んで悲鳴を上げる右肩関節唇および腱板。終わりだ、全部終わりだ、翔也、翔也ァ……!

一方そのころ

 一方そのころ、翔也が悪魔に食われていることなど知る由もない結さんは糸島でのんびり休暇中。こちらも昼間からスナックに入り浸り、焼酎を片手にジジババとのろけ話に花を咲かせていましたとさ。

 どいつもこいつも昼間から飲んだくれているし、そもそも『おむすび』において、つらいことを忘れる方法は酒じゃなくて「おいしいものを食べる」んじゃなかったけ? という大義名分はもはやどうでもいいとして、今回の展開には驚きました。

 アユが「ギャル魂」によって翔也の心を回復させるという流れこそ読めていましたし、期待もしていたんです。

 ギャルとは、好きなことを貫くこと。

アユ「ねえ翔也。翔也は野球にまだ未練がある? 野球が好きなんだよね?」

翔也「好きだ……あきらめたくねえ……でも、もう肩が上がんねんだ……」

アユ「治す方法はあるんでしょ?」

翔也「医者のセンセは、経験上、難しいって……」

アユ「チャンスじゃん!」

翔也「……チャンス?」

アユ「ピッチャーって、肩だけで投げるわけじゃないよね。あなた見たところ線も細いし、ほら、お尻だってこんなに小さい。今こそ、下半身強化に専念できるチャンスよ。まずは走り込みとスクワットね。それと股関節の可動域も広げたほうがいいわ。結局、野球だけじゃなくて全部のスポーツの動きは骨盤が基本なんだって、イチローも言ってたわよ」

翔也「でも、肩が治らなきゃ意味がねえべ……」

サッチン「ちょっといいかしら? あのね、翔也くんとやら。スポーツ栄養士の世界と同様、スポーツ医療の世界も日進月歩なのよ。しかも野球選手の治療は成功すれば莫大な利益を生むから、本国アメリカではもっとも研究が盛んな分野なの。あなた、将来はメジャーに進みたいのよね?」

翔也「おめ、誰だ?」

サッチン「あら、会ったことあるじゃない。あ、あのときは私がモリモリの背中に隠れちゃったから、あんまり見えてないか。てへ」

翔也「でも投げられる保証はねえっぺ……」

福岡西高の監督「翔也、久しぶりだな。ちゃんと飯は食っているか?」

翔也「監督!」

福岡西高の監督「高校最後の試合、おまえの彼女がギャルを引き連れて応援に来たあの試合だ。1回表におまえはタイムリーを打っただろう。あのとき俺は確信したんだ。おまえはピッチャーよりバッターが向いている!」

翔也「ばったー……?」

福岡西高の監督「そうか、変化球も知らなかったおまえだから、バッターも知らないか。金属の棒でボールをひっぱたくアレだ! まあ、プロに行ったら金属じゃなくて、木製だがな。ガハハハハハ!」

翔也「……でも、バッターになっても守備はあるべ。もう送球もできないべ」

永吉おじいちゃん「パリーグならDHがある! ホークスに来んしゃい!」

近所の人「オリックスもパリーグや!」

 みたいなことまでは期待してないけど、まさか「酒を飲んで騒いで、今を楽しめばそれでいい」という絵に描いたような現実逃避を提案するとは思わないじゃん。しかも、強引に踊らせて、その肩を本格的に再起不能にしようとするとは。

 年内、放送はあと1回だそうです。明日は、泥酔して右肩を脱臼した翔也が大阪城公園で死んだように倒れているところからスタートするかもしれません(帰る家がないからね)。それを見つけた糸島帰りの結は、きっとこう叫ぶことでしょう。

「お姉ちゃんなんか大嫌い! ギャル大嫌い!」

 もう一度、そっからやり直すのはどうかね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2024/12/26 14:00