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『おむすび』第65回 天下の朝ドラ、前半のクライマックスで「朗読劇」になる

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 いやぁ、半分終わりましたね。NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』。まずはおつかれさまですと言いたいところですが、これ何の話だったっけ。ちょっと公式サイトを見直してきましょう。

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平成元年生まれのヒロインが、栄養士として、人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”。どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に、主人公・米田結が、激動の平成・令和を思いきり楽しく、時に悩みながらもパワフルに突き進みます!

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「平成元年生まれのヒロイン」

 うん、平成元年に生まれていますね。いっぱい映ってるからヒロインなのでしょう。

「栄養士として、人の心と未来を結んでいく」

 これはまだかな。栄養士としては気まぐれシェフになぜか気に入られて新しいメニューを考え始めたところですし、実績らしい実績はこれからのようです。でも今日は「ウチ、栄養士よ?」とか言ってましたね。今後に期待しましょう。

「どんなときでも自分らしさを大切にする“ギャル魂”を胸に」

 そもそも“ギャル魂”がよくわからないのですが、逆説的に『おむすび』のあらゆるシーンで結が自分らしさを大切にして、“ギャル魂”を胸に秘めていたと考えれば、おのずと答えが出てくるのかもしれません。

 ……うーん、わからん!

「主人公・米田結が、激動の平成・令和を思いきり楽しく」

 基本、スネてるか泣いてるかだったけどな!

「時に悩みながらもパワフルに突き進みます!」

 パワフルなのは酒飲むときだけだったな!

 というわけで第65回、振り返りましょう。昨日のアレは夢だったんだろうな。あんなことがあるわけないよ、常識的に考えて。

四ツ木翔也は「ギャル魂」を手に入れた

 翔也(佐野勇斗)が大阪でギャルとUNITEしていたとも知らず、糸島でぼんやり過ごしている米田結(橋本環奈)。今日は夕食を作ることになり、おばあちゃん(宮崎美子)から「豚と玉ねぎのニンニク炒め」をリクエストされます。

 そう、このメニューは、結が初めて翔也のために作ったお弁当のおかずでした。あいかわらず不器用な手つきで玉ねぎを刻みながら、結の頭の中には翔也との思い出が次々に過ぎります。

 高校時代、お弁当を渡したり、お弁当箱を返されたり。そういえば出会いは、2人でハシャいだ着衣海水浴だったな。イチゴもたくさんくれたし、野球の試合にも誘ってくれた。引退が決まったら改めて告白もしてくれて、「好きだよ、バーカ!」なんて言ったこともあったっけ。それから両思いになって、付き合い始めたんだよなぁ……。

 この回想シーン、悲惨なもんです。別れてしまった恋人との思い出の料理を作りながら、付き合う前のことばかり思い出すバカがどこにいるんだよ。こういうときは恋人同士で過ごした楽しい時間を思い出すんですよ。あのとき、あんなくだらないことで一緒に笑ったなとか、あの景色を一緒に見て感動したなとか、そういうことを思い出すの。『おむすび』制作陣各位に問いたいね。恋、したことありますか?

 そんなシーン全然ないじゃん! 神戸でイタリアン食おうと思ったときだってママ(麻生久美子)に呼び戻されたし、2人でいたのなんて「こんな雰囲気ゼロのお店」(兵庫県/女性20歳)の太極軒だけだし、あとは電話とメールばっかだし、プロポーズしてくれると思って浮かれたけど勘違いだったし、翔也がつらいときも寄り添ってあげようなんて全然思わなかったし、じゃあどこのシーンを回想に持ってくればいいというのか!

 いや、ギリあるんだよな。高台から神戸の街を見下ろして、翔也が初めて結を「米田結」というフルネームじゃなく、「結」と呼んだシーン。あそこは「2人が本当に恋人になった」という瞬間が確かに描かれていたんです。全部いいかげんにやってるから、忘れちゃうんだろうな。自分たちが作ったものすら、どんどん忘れていっているということが、あからさまに露見してしまっている。ねえ、悲惨なもんですよ。

 あとはUNITEによってギャル魂を手に入れたと言い張る翔也と、思い出改竄ガールこと結さんの朗読劇でした。

 ずっと疑問だった「結が翔也を好きになった瞬間」も、ここにきてセリフで説明されます。自分が震災の話をしたとき、泣いてくれたから。自分は震災の話を誰にもしてこなかったけれど、なぜだか翔也には話せる気がしたのだそうです。

 泣いてくれたからはいいとして、話せる気がした理由がわからない。結もわからないと言っているから、ちょっと振り返ってみましょうね。第20回です。

 この日は結さん、糸島フェスでのパラパラショーを終えてゴキゲンでしたが、その直後に憧れの書道王子・風見先輩(松本怜生)に清楚系彼女がいたことが発覚し、落ち込んでいました。ルーリー(みりちゃむ)たちが「ひとりにしてあげよう」と気を使って去っていったところに現れたのが、翔也だったのです。

 失恋して落ち込む結を見て、翔也は「いつも寂しそうな顔をしている」と語りかけます。確かに結はここでいつも寂しそうな顔をしていましたが、この日は片思いに破れた傷心なのであって、翔也の言う「いつも」とは違う状況です。

 結が「なんでかわからんけど、この人ならウチの話、真剣に聞いてくれるって思った」と言っているので、なんでか教えてあげましょう。失恋からのヤケクソですよ。あなた、その男を当て馬に使ったんです。好きな男にフラれて、自分だけヘコまされてるのは不公平だとでも思ったんでしょうね。そこらへんにいた別の男に重たい話をぶつけてストレスを解消しようとした。決めつけているわけではありません。状況を整理したら、そうとしか読めない。でもいいじゃん。わかるよ、人間ってそんなもんだ。そんな形で始まる恋があったっていい。

 だけど、そういうきっかけだったことをナシにして、あたかも「運命の人」みたいな言い草で涙を流すのは違うでしょう。そういうのを記憶の改竄というんです。ウソつきです。卑怯なんだよ。

 ここにきて、積み重ねてきた作劇のアラがモロに出てしまったと感じます。きっかけにウソがあるから、2人の涙もウソ泣きにしか見えない。栄養士だギャルだというコンセプトを放り出してまで前半のクライマックスに持ってきた「結と翔也の婚約」という重大なシーンが、まるで説得力を持てなかった。惨敗です。

「どうすればいいかわからない」ということ

 結という人は頻繁に「どうすればいいかわからない」と言います。今回も、翔也が大ケガをして野球をやめることになって、どうすればいいかわからなかった。だから突き放した。それをアユ(仲里依紗)たちがフォローしてくれて、どうあれ翔也を立ち直らせてくれた。

『おむすび』というドラマの最大の問題点は、この主人公の「どうすればいいかわからない」という苦悩を許容し続けていることです。周囲に体よく解決させて、本人に打開させようとしないことです。

 そこには制作陣の「結を困らせたい」「結果的に結に手柄を立てたい」という欲望だけがあって、結という役柄を傷つける覚悟がない。この冬、フジテレビで放送されていた『わたしの宝物』というドラマ、見ました? あの作品には、主人公たちの心をズタズタに切り裂いてやろうという野心が満ちていました。登場人物たちが「どうすればいいかわからない」という顔をするたびに「ボヤボヤしてたら状況は悪化するばかりだぜ」とでも言わんばかりに次々と試練を突き付けていった。そうして初めて、彼らは主体的に動き出すことができた。

 役柄を傷つける覚悟とは、そのまま、役柄を導く覚悟と言い換えることができます。物語を導く覚悟です。視聴者を導く覚悟です。その覚悟がないから、こうして朝ドラファンの大量離脱を招き、視聴率がどんどん低下しているのです。

 このままじゃ、あなた方が大好きな橋本環奈に「史上最低朝ドラ女優」のレッテルを貼ることになりますよ。事務所にも怒られちゃうんじゃないの? どうすればいいか、本当に考えたほうがいいと思います。はい。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2024/12/27 14:07