『徹子の部屋』は今年も地獄絵図だった? 友近、オズワルド……2024年「芸人回」を振り返る
ここ数年、お笑い芸人界隈でもっとも恐れられているテレビ番組『徹子の部屋』(テレビ朝日系)。同局の『アメトーーク!』では2度にわたって「徹子の部屋芸人」が放送され、過去に徹子に“スベらされた”芸人たちがそのエピソードを披露している。
霜降り明星、かまいたち、錦鯉、トレンディエンジェルなど賞レース王者たちが続々と餌食になってきた『徹子の部屋』だが、今年も何人もの芸人たちがゲストとして招待されている。
その中から、印象的だった「芸人回」を振り返りたい。
徹子は150km/hを投げるか ティモンディ編(2024年4月26日)
『徹子の部屋』が芸人たちを地獄に引きずり込む闇だとすれば、ティモンディの高岸宏之は何もかもを明るく照らす光そのものだろう。
光と闇、そんな刺激的なマッチアップとなったのが、4月26日放送回だった。徹子が高岸の押しの強さにどうリアクションするのか、高岸は徹子の話をちゃんと聞くのか、大いに界隈の注目を集めていた。
冒頭、高岸はいつものオレンジスーツで登場。こちらも定番衣装である青スーツの前田裕太に連れられ、石膏で固めたような笑顔での登場となった。
自己紹介では、高岸は「ティモンディの、高岸です!」と割れんばかりの大声でファイティングポーズ。徹子は思わず仰け反って驚愕の表情を見せるが、すぐに落ち着きを取り戻し「すごい大きい声ですねえ」とだけ言って前田に向き直っていた。
その後、高岸が栃木ゴールデンブレーブスに入団したプロ野球選手であるという話題になると、「すごいですねえ」と感心しきりの徹子。そこに、高岸の伝家の宝刀が繰り出されることになる。
「何もすごくないですよ。徹子さんだって(プロ野球選手に)なれるんですから!」
芸能界のお歴々を困惑させてきた高岸の「あなたもプロ野球選手になれる」「150km/hを投げられる」というゴリ押し発言。しかし、徹子には通用しなかったようだ。ほんのひととき絶句した徹子だったが、薄ら笑いを浮かべると再び前田とのターンに戻っていった。
また、高岸がNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演した際の現場の印象として「プロフェッショナルが集まるオリンピックでしたね」と、元来オリンピックがアマチュアの祭典であることからして矛盾した発言もあったが、徹子には刺さらず。終始グルーブしない展開となった。
だが、番組のラストになって高岸が「徹子さんのこれからの夢は何ですか」と豪速球のストレート質問。これに徹子が「100くらいまでこの仕事を続けていきたい」と応じ、図らずも大団円となった。
「共演NGレベル」の険悪ムードから8年 友近編(2024年7月30日)
2016年、『徹子の部屋』に出演したピン芸人・友近は苦しんでいた。
番組後半、自らのキャラクターである演歌歌手・水谷千重子になりきって登場した友近だったが、徹子がその“なりきり芸”をまったく理解せず、終始、不穏な空気が漂っていたのだ。
「芸歴50年」と言い張る水谷千重子に、徹子は「どうしてそういうことをおっしゃるの?」と迫ると、その後も水谷の発言を「もういいです」などと遮る展開に。また、徹子のお気に入りである「キャサリン」ネタをリクエストされた際も、水谷が水谷のままキャサリンを演じたために徹子が困惑し、「おもしろくないものをお目にかけて、みなさまに申し訳ない」とカメラ目線で謝罪する一幕もあった。
その異様な放送はネットニュースでも大きく報じられ、一部メディアでは友近が徹子に「共演NG」を出したとも伝えられている。
後に友近が徹子から謝罪を受けて和解したことを明かしているが、例の『アメトーーク!』でもこの回は大きな話題となった。
そんな徹子と友近の8年ぶりの『部屋』での共演である。
徹子は冒頭から「いつも、とってもおもしろいこの方、友近さんです」と紹介。友好ムードを盛り上げるが「今日も笑わせていただきます」とプレッシャーをかけることも怠らない。
「今日も笑わせていただきます」
そこらの若手なら裸足で逃げ出したくなってしまうところだろうが、そこは百戦錬磨の友近である。会話中に唐突に徹子が差し込んでくる「キャサリン」のリクエストも難なくこなし、「朝ドラの主人公」「昭和のCM」「ダンスの先生」といったオリジナルモノマネで徹子から「ぐふふふふぅ」という低音の笑い声を引き出していた。
「いいですね、この環境でやるのって斬新で、やっぱりいいですね」
芸歴20年を超え、もう試されることもなくなった友近にとって、『徹子の部屋』はこれ以上ない刺激を与えてくれる舞台だったのかもしれない。
ネタを飛ばしたのは初めて オズワルド編(2024年8月10日)
一方で、その地獄に完全に取り込まれてしまったのがオズワルドだった。『M-1グランプリ』(同)で2019年~22年に4年連続ファイナル進出。年間1,000ステージに立つ筋金入りの漫才師である。
しかし、そんなことはまったく知らない徹子。「独特のスローテンポな漫才が人気だそうですけど」と伝聞情報をもとに、ぼんやりとした質問を投げてくる。
「僕らよりたぶん、独特なスローテンポだと思います、徹子さんは」
伊藤俊介の返しはいわゆる“正解”だったに違いないが、その声は徹子には届かずスタジオの霧と消えた。
すっかり意気消沈した伊藤。隣では、畠中悠が徹子と普通の話をしている。延々と普通の話を笑いゼロで続けられるのが、畠中という芸人の特異な才能である。
そしていよいよ、ネタ披露の時間になる。年間1,000ステージ、彼らの前には熱心なお笑いマニアが座っていたこともあるし、観光客や家族連れといったライト層に埋め尽くされていたこともあるだろう。ネタのチョイスにも抜かりはなかったはずだ。
だが、その「ダイエット」をテーマにした漫才を、オズワルドは失敗する。
「今85キロくらいあるのかな」
「もともとはどれくらいあったの?」
「3,200グラム」
「だいぶ太ったね」
鉄板のツカミで大いにスベると、静まり返ったスタジオに2人のボケとツッコミが無機質な、単なる言葉になって漂う。
この空気に先に耐えられなくなってセリフを噛んだのは、冷静だったはずの畠中のほうだった。つられるように、伊藤もしどろもどろになっていく。
テレビ画面は2分割されている。左半分には必死にしゃべり続ける畠中と、もうダメだと悟って苦笑いするしかない伊藤。右半分には仏頂面の徹子が口を半開きにしている。たぶん、漫才が終わったら2人を食うつもりなのだろう。
伊藤の声が小さい。右手の位置が変だ。
「隣の奥さんにカレーを持ってこられたら……カレーを持ってこられたら……それは……」
伊藤がテレビでネタを飛ばしたのは初めてだという。
「なんでこんなに笑わないなら、やらせるんだよ!」
「どういう了見なんですか!」
静まり返るスタッフに伊藤が吠える。この空気で畠中が徹子に感想を求めたのは、おそらくマゾヒスティックな性癖による行為だろう。
「おもしろいと思いました……あの……あのね……」
徹子ももう、口ごもるしかなかった。
* * *
オズワルドの出演回は、まさしく『徹子の部屋』に芸人が呼ばれたケースの象徴といえる放送だった。「地獄」という表現が決して誇張ではないことを、まざまざと見せつけてくれた。
『徹子の部屋』芸人回、来年も楽しみである。
(文=新越谷ノリヲ)