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『おむすび』第68回 星河電器、社員に「ゴボウやニンジンを丸ごと食わせていた」疑惑が発覚

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 なんだか今日はすごかった、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』。そりゃ実際にメーカーの商品開発について扱った『プロジェクトX』(同)や『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)みたいなドキュメンタリーだったり、TBSの日曜劇場『陸王』『下町ロケット』みたいなちゃんとしたドラマと比べたら見劣りするのは仕方ないにしても、お気楽三昧な『おむすび』スタッフが“お仕事”を描くと、ここまでひどいものになるんだな。なんだか、あり得ないことが起こっている感じがして胸がドキドキしました。

 描こうとしている物語は、今日はいつになく明確だったんです。

 結(橋本環奈)と翔也(佐野勇斗)は結婚に向けて節約生活を始めました。

 社食では野菜の食べ残しが多いこともあって、地場の野菜を使うことにしました。予算に限りがあるので規格外の野菜を使いましょう。

 野球をやめてフルタイム総務になった翔也に大きな仕事が舞い込み、さっそくトラブル発生です。解決しなきゃ!

 今日はその3つのお話だったわけですが、これがもうことごとく何と言いますか、オママゴトとしか言いようのない、ここはキッザニアなのかというデフォルメ感でもって描かれています。デフォルメ感って、ちょっと言葉を選んでしまいましたが、稚拙なのよ。幼稚。こちらが下げ切ったハードルのさらに下をくぐろうとしてくる安易で考えなしの作劇。そこにシビれる憧れる~(憧れない)。

 第68回、振り返りましょう。

シャンプーメソッドだ!

 まずは節約のお話から。

 結さんは結婚資金を貯めるために、家計簿をつけ始めるといいます。いちばんお金がかかるのが携帯代なので、「基本、翔也と電話で話すのはやめた」そうですし、デートも映画や遊園地はやめて公園でブラブラ、さらに毎日500円を貯金箱に入れていくのだそうです。

 100万からの資金を貯めようとする大人の計画としてはずいぶんと軽いものですし、やっぱり本気度が伝わってこないんだよなぁと感じていると、その様子を見ていたアユ(仲里依紗)が一言「本気っぽいね」と。

 出ました。行動で本気度を演出できないから周囲のセリフで「本気です」と評価させる『おむすび』メソッドです。結は別に人助けしてないのに「人助けばかりして自分のことを大切にしない」と評価した専門学校J班メンバー。結が勉強にも彼氏にも全然没頭していないのに「おむすびみたいに、ばり好いとうってこともないし」と評価した陽太(菅生新樹)。セリフによる周囲の評価によって人物を「そうである」と仕立て上げるイカサマ脚本術。こういうの時おりやってくるんだよな。いいね、その調子でがんばれ。

 さて翔也も翔也でシャンプーを水で薄めたり麦茶を水筒に入れてきたりと節約しているようですが、仕事が終わると結を神戸の自宅まで送っていました。

 結は通勤定期代が出ているでしょうけれども、翔也は梅田から神戸まで自腹で電車代を払っています。節約とは?

 節約とは、その帰り道の20キロを走って帰ることでした。元アスリートとはいえ2時間はかかるでしょうね。しかもワイシャツにスラックスに革靴だ。靴はすぐ磨り減っちゃうし、ジョギングシューズじゃないと今度はヒザをやりますよ。あと、毎日そんなかっこうで同じルートを走ってたら職務質問もされるでしょう。梅田に着くころは汗だくだぜ。怪しすぎるよ。

 その走って帰る翔也との別れ際、結は「帰ったら電話ね?」と言いました。

 出た。シャンプーメソッドです。結パパ(北村有起哉)が、風呂場のシャンプーが切れていたのでアユの1本1万円シャンプーを使った。それがバレたらまずいので、安いシャンプーを継ぎ足した。そういう話がありましたね。1話の中で、すぐに矛盾が発生する。

 今回も「電話で話すのはやめた」からの「帰ったら電話ね?」です。

 だから言ったろアユ、「本気っぽいね」じゃないんだよ、こいつが本気だったことなんて一度もないの。

 ここね、差し出がましいこと言いますけど、結に「翔也との電話をやめる」ではなく「翔也との電話は毎日2分までにする」としておけばよかったんです。で、梅田の駅で乗り換える際には、神戸まで送ろうとする翔也がいるわけでしょ。そこで結に「送ってくれるのは、もうおしまい。節約しよ」「その代わり、帰ったら電話するね」とか満面の笑みで言わせればいいんです。そしたら「ああ、この娘はたった2分の電話にもこんなに心を躍らせて、なんていじらしいんでしょう」って思うじゃん。節約にも本気だなって思うじゃん。「たった2分でも声が聞けたらうれしいよね」って、若い恋愛に思いを馳せるじゃん。そういうことだと思うよ。

 節約の話は以上です。

ねえ、かぐや姫、ねえシンデレラ

 立川さん(三宅弘城)と輸入から地場野菜への切り替えについて打ち合わせしていると、イケメンコックの原口(萩原利久)が野菜の詰まった段ボールを抱えて入ってきました。まるで貢物ですね。糸島でヤリイカを持ってきた陽太やイチゴを持ってきた翔也を思い出します。そのうち誰か、勾玉の首飾りとか持ってきそうです。

 ここでもメソッドが発生しています。結が何かを考えていると、その答えを自力で解決する前に周囲がお膳立てをしてくれる。炊き出しの味が濃くなる薄くなるの話ね。実際に炊き出しのメニューを考えなきゃいけない結に、J班のみんなが頼まれもしないのにその原因と対策を調べ上げて提出してくれました。今回の原口は早かったね。カットインしてきたもんな。

 で、地場野菜は価格が高いから規格外を使ったらどうかという話になるわけですが、「でも規格外は……」という課題に対する答えがまた、ふるっていました。

「形の悪いトマトは潰してピューレにすればいい」

 ピューレにするなら新鮮じゃなくてもよかろう、安い輸入ものを使いなさいよと思っていたら、この後すごい理論が展開されることになります。

「まっすぐやないゴボウやニンジンも、刻んできんぴらに使うとか」
「ジャガイモとかカボチャ、調理するんやったら形関係あれへんか」

 この社食では、今まで仕入れていたまっすぐなゴボウやニンジンを刻まずに調理していたというのか。丸ごとか。ゴボウの丸焼きか。ジャガイモやカボチャも切らずに使っていたのか。どういうメニューなのか。星河の社員は大き目の草食動物なのか。馬車でも作るのか。

 規格外の野菜が安いのは流通コストを削減した結果なわけですよ。まっすぐなキュウリが5本入る箱に形が不揃いで3本しか入らなかったら1本あたりの流通コストが上がるから、だったらその3本を弾いて輸送費を下げましょうという企業努力の結果として生まれるのが規格外野菜なわけです。

 だから「規格外野菜を安価で大量に仕入れる」という作戦は現実問題として成り立たないの。1箱に入る本数が減るわけだから、普通の野菜より高くなるんです。

 今日の放送で、星河の茨木支社には少なくとも100名を超える社員が在籍していることがわかりました。このドラマで初めて、結の職場である社食の規模感が把握できたわけですが、100名分以上の規格外野菜を仕入れるためには相当数の生産者に当たる必要が出てきますので、正規流通より絶対にコストは上がります。ここはあとあと誤魔化してきそうな部分なので、覚えておきましょう。

 野菜の話は以上です。

走れ!ショウヤ

 書くことがいっぱいあって疲れてきました。

 本社が新しい炊飯器を開発するとかで、翔也の支社にもモニタリング調査の依頼が来ています。上司が翔也を見つけると「君、スポーツマンやから、ようさんメシ食うやろ?」と話しかけます。

 この直前、翔也が隣の野球部社員の空席に置いてある「練習中」と書かれたアクスタを見て物思いにふけるというシーンがあります。まだ野球に未練がある。そういう描写です。

 その翔也に対しての「君、スポーツマンやから」は、専門学校時代に結がサッチン(山本舞香)に放った「なんで陸上やめたん?」に勝るとも劣らない無神経な質問です。にわかに緊張が走ります。翔也、ブチ切れるんちゃうか、と。

 断ち切れない野球への思い、慣れない事務仕事によるストレス、横柄で無神経な上司、俺は星河のエースだったんだ、この人だって、自分が肩を壊して野球をやめたことは知ってるはずだ、もう野球ができないんだ、何が「スポーツマン」だ、バカにしやがって……!

 ってなると思ったら、「自分はご飯を食べればいいんですか?」という天然ボケからのノリツッコミという、まさかのコメディパートなのでした。

 ここまで自分たちが描いてきた人物が、このようなデリケートな言葉を投げつけられたらどう感じるか、何をしゃべるか、というドラマを描くことよりも、クソ寒い天然ボケとノリツッコミが優先されている。

 笑ったことないんだよ。『おむすび』がコメディをやろうとしたシーンで、一度も笑ったことがないの。「なんで今それ?」って、いつも思うんです。『おむすび』制作陣において「コメディ脳」というものがあるとするなら、それには「無能な働き者」という言葉がよく似合います。すっこんでろ。

 取り乱しました。

 あとは100人のアンケートが必要で、10人欠員が出て、それを補充するために翔也くんが社内を走り回ったりしているわけですが、100人のアンケートが90人になって何が問題なのよ。それより食味についてのアンケートなんだから年齢層や性差のバランスのほうが重要でしょう。開発部のバカは、この10人が欠けたら「新商品の方向性が大きく変わってくるんですよ」とか言ってブチ切れてる。ナレーションは「星河電器のビッグプロジェクト」だと言ってる。たった10人、無作為の調査対象の頭数で左右されるようなビッグプロジェクトがどこにあるんだよ。

 今回の「ビッグプロジェクト」問題は、ここまで小出しにされてきた星河電器という企業を描写するうえでの問題点や疑問点が一気に噴出したと思いました。人事もバカだと思ったけど、本社開発も、いくらなんでもバカすぎるだろ、これ。お仕事ナメすぎだろ。

 でもなんか、感触として「視聴者をバカにしている」という感じはしないんですよね。前半にはそう思ってた時期もあったけど、ここまでひどいと、もう意図的にやってるとも思えない。何か、交通事故現場に遭遇してしまったような、今日はそんな気分なんです。

 ドラマを動かす全部のエンジン、全部の構造体がひどく壊れている。グシャグシャに潰れて互いにボディを食い込ませた何台ものクルマが一塊になって、何か大きな力に強引に引きずられていく。乗っていたはずの人間はもう、人間の形をしていない。そういう風景。こわーい。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/01/08 21:27