『おむすび』第70回 「真剣」を描く場面で「真剣じゃない」描写が繰り返された謎を読み解く
NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第14週「結婚って何なん?」が終わりました。
「結婚って何なん?」という題目でドラマが放送されているわけですから、結婚って何なのかを考える登場人物にいくつかのエピソードが発生して、その結果「結婚って何」なのかを理解する、あるいは「やっぱり難しいね、これから2人で答えを探していこうね」みたいな、答えにはたどり着かなかったけれど、それを考え続ける意味を見出すといったところに落ち着いていくと予想するわけですが、そのどちらでもなかったね。
ただ、結婚した。
この週は、結婚の約束をした2人が糸島から米田家に戻り、翔也(佐野勇斗)が結パパ(北村有起哉)に「娘さんをください」と土下座しようとして「言わせない!」などとやるコメディから始まりました。この時点で、パパもママ(麻生久美子)も反対していて、とりあえず2人は「結婚って何なん?」を考えることになった。それで、貯金を始めたんだっけ。
その直後に翔也が唐突に「ムコになる」と言い出して、翔ママ(酒井若菜)がブチ切れて、両家とも結婚に反対ということになった。翔ママは「ムコ入り」に反対なのか、結婚そのものに反対なのかはよくわからない。
あとは規格外野菜の話と炊飯器開発の話があって、年が明けて、今日だ。なんかちょっと、何を見たのかよくわからない回でした。悪い夢のよう。
第70回、振り返ります。何か書かなきゃいけない仕事なので、がんばる。
なんで元日なんだっけ
この日は初めての両家顔合わせなわけですけど、これなんで元日にやってんだっけ? と思って前回分を見直してみたら、何も理由がありませんでした。「お正月で町中がおめでたい雰囲気の中、米田家だけは張り詰めて」いたそうです。このあと四ツ木家は親戚一同でUSJに行くみたいですから、たぶん午前中だよな。始発で来たの? 大みそかに前乗り?
常々『おむすび』には生活感や季節感がまったくないと感じていましたが、ここでは季節感を出したが故にワケのわからないことになっている。そんなことを考えている間に次の展開に進んでいるので、とりあえずスルーしましょう。
翔也が真剣な表情で、お金の話をしています。そうか、これが『おむすび』的な「結婚って何なん?」の答えなのか。「結婚とは2人の給料で生活費や必要経費をやりくりすることである」ということを語っているのか。もったいぶって。そんな当たり前のことを。
その後、翔也は野球をやめて仕事をどうするのか、結は翔也が野球をやめても栄養士を続けられるのかという話題に移行していくわけですが、これは両方とも個別の家族で話し合う問題であって、今日する話じゃないよね。その問題がクリアになってから「結婚を許す/許さない」の話になるよね。
翔也も結も「今の仕事を続ける」という意思を、何かもっともらしい演説とともに両親に伝えます。これだと、今日の今日まで翔ママは翔也が星河の総務で働き続けるつもりかどうか知らなかった、結パパは結が栄養士を続けるつもりかどうか知らなかった、そういうことになってしまう。それを知らない親たちに向かって、翔也は「結婚したら金がどうこう」って話をしてたことになってしまう。ホントに、何を見せられているんだろう。
そして問題のシーンです。親たちはあっさり結婚を認めますが、翔ママが「2人が真剣に考えてるって愛子さんが教えてくれたのよ」などと言いだします。
聞けば、愛子さんこと結ママ(麻生久美子)が栃木のイチゴ農園を訪ねて、収穫を手伝いながら「2人が真剣に考えている」と教えたのだそうです。
いつ、何を?
「いつ」は、まあいいや。日帰りなのか四ツ木家に泊まったのか近所に宿を取ったのか、実家住まいの結はなんでママが家を空けたことを知らなかったのか、いろいろ思うところはあるけど、まあいいよ。それより、何を言ったんだ愛子。
結は家計簿をつけ始めたよ。毎日500円貯金をしているよ。デートも映画や遊園地はやめて公園でブラブラしているよ。
翔也くんは神戸から梅田まで毎日走っているよ。
どうです? 2人は結婚に真剣でしょう。
真剣だね! 結婚を認めよう!
そういうことなの? そんなことある?
真剣って何なん?
繰り返しますけど、「結婚って何なん?」という題目の週ですよ。そこで、主人公の2人が「真剣さ」をもって親に結婚を認めさせるシーンです。
まず言いたいのは、せめて結と翔也が親を説得しなさいよという話です。今までも全部、周囲が勝手にお膳立てしてくれる展開でしたが、結婚という局面でもそれをやるなら、もうドラマ作ってる意味がないと思うんですよ。マジで、何を見せたくてやってるの、これ。
そして「真剣」という言葉の軽さです。「真剣だ」という理由で認めさせるなら、真剣である様を見せなきゃいけないんだけど、この週で描かれた結はむしろ逆なんだよな。とりあえず「真剣=金を貯める」という定義は飲み込むとして、この人は「電話代を節約する」と言いながら何度も「後で電話する」と言っているし、炊飯器騒動の日は「太極軒で打ち上げやろう」と言っている。実に念入りに「結は結婚(=貯金)に真剣ではない」という描き方をしている。それを翔也がたしなめている。
ここの意図が本当にわからなくて、「結が結婚に真剣だ」と言いたいはずなのに「真剣じゃない」発言を繰り返させるのは、いったい何なんだろうと考えるわけです。
ここで思い出すのは、神戸に来たばかりのころの太極軒での学業問答です。
「今は学業に専念したら?」と言ったパパに、結が「学業って(笑)大げさな(笑笑)」と答えた場面。間違ったギャル観の演出によって、結がバカになっちゃった場面。
そもそもルーリー(みりちゃむ)たちが「真剣にギャルやってる」という、キャッチーな哲学をこのドラマに持ち込んできたわけですが、結がギャル的な行動をすると全部が軽薄で上滑りしたバカの人物に見えていた問題。それがずっとあったと思うんですよね。
逆説的に「後で電話する」「打ち上げやろう」という結の真剣さにそぐわない発言の根拠を求めていくと「ギャル的である」というところに行き着くのかもしれない。
問題の本質が見えてきました。
綿密な取材でお馴染みの『おむすび』ですから、ギャルにも取材したんでしょうね。そこで「真剣にギャルやってる」という、おじさんたちにとっては非常にキャッチーな、聞いたこともない哲学に触れることになった。これを『おむすび』に取り入れたくて、まずはみりちゃむというホンモノのギャルに言わせてみる。これはしっくりくるじゃないか。結にも「真剣にギャルやってる」という哲学を背負わせたい。そう考えるのは自然です。
しかし、何しろおじさんたちは「真剣」と「ギャル」が両立するだなんて考えたこともなかったので、具体的に「真剣にギャルやってる」というのがどういう状態なのか、見当もつかなかった。ただ、「真剣」と「ギャル」が両立するという具体例を取材で見たから、それは両立させてもいいものだと考えた。
その結果、おじさんたちの中にあった既存の軽薄な「ギャル像」を「真剣」が求められる場面に挿入することしかできなかった。そうして結が真剣であるべき場面が、ただシンプルに「真剣じゃないね」と映ってしまうことになった。
そういうことなんじゃないのかね。
もともとギャルをバカにしていた連中が、ろくにギャルを理解しようともせずに上辺だけなぞった結果なんじゃないのかね。
ちょっとまぁ、今日は話が飛躍してる部分もあると思うけど、そういうドラマが毎朝放送されているとなると、これはひどい話だよな。まるで、悪い夢のよう。
いいところも言っておく
それぞれの地域のお雑煮を交換して食べるところ、すごくよかったと思います。料理を扱う栄養士のドラマとして、めちゃくちゃ魅力的なシーンでした。本当においしそうだし、「食」が確かに両家をつないでいたと思う。
ギャルを切り離すと、けっこういいシーンもあるんです。結パパが翔也の髪を切るところもよかったし、今週の翔也が野球部を連れてくるくだりだって、設定と話の進め方とディテールがクソすぎるだけで、やろうとしていることは悪くなかった。だから、『おむすび』を愚作だ駄作だと切り捨てる気はないんです。たぶん、結からもギャルを切り離せば、今週の翔也みたいに、何かを成し遂げるために必死に駆け回る姿が見られるんだと思う。そうやって心と体に汗をかいてがんばる主人公が見たいんだけど、ギャル要素が結という人物の情熱や信念を描く上での明らかな弊害になっている。
あと、高台で指輪をプレゼントされた橋本環奈がカメラ目線でキラキラ顔してるアップショットね、何を撮ってるんだクソキモいんだよ欲情すんなジジィどもが。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/