『おむすび』第81回 育児に悪戦苦闘しない橋本環奈「赤子の声が聞こえない」という異常事態
「新米ママが育児に悪戦苦闘中」というシーンを描こうとするとき、その子どもが不規則で予想もつかない動きをしてママが対応に追われるというのが定番の描写かと思うわけですが、米田家の結さん(橋本環奈)の娘さんはなんともおとなしいのですな。
冒頭、眠っている花ちゃんを抱っこしながらノートを取ったり単語帳をめくったりしている結さんですが、眠っているなら横に寝かせたらいいのではと思うわけですよ。重たいでしょ。
「管理栄養士を目指し、育児と勉強に集中する結」というナレーションに対する映像が寝ている子を抱っこして勉強しているだけなら静止画でいいよ。あと職場復帰もしてるんだよね。「仕事と育児と勉強に集中」ではないのかね。
今さら言うけど、かなり好意的に見てるつもりなんですよ。橋本環奈がスケNGで出られないのもいい。じゃあせめて、いない間にどうしてるのかな、どんな描き方をするのかなって興味を持って見てるの。あの結さんが、栄養士として母親として、どんな生活を送っているのか、やっと描かれたと思ったら「仕事と」をスッポリ抜かしてしまう。ついでに言えば、世の新米ママたちが必死に向き合っているはずの「育児と勉強を両立する困難」についてもスッポリ抜けている。2つの事柄がスッポリ抜けると、もう実体がどういう形か見えないわけです。
だいたいね、夢って現在と地続きのものだと思うんです。管理栄養士になりたいという夢を描くなら、現在の栄養士の仕事にどんな取り組みをしているのかを描かなければ、夢への思いも描けないと思うんです。参考書めくってノート取って勉強しているから「夢まっしぐら」は通らないんですよ。
そういうわけでNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第17週「Restart」が始まりました。このサブタイトルの統一感のなさ、たまに「何なん?」が出てくる不安定な感じも「何なん?」って感じですが、心機一転Restartしていきましょう。
まずは何より、花ちゃんの声を聞かせて。第81回、振り返ります。
「クズ」と「犯罪者」を同じレイヤーに置くんじゃないよ
チャンミカは先週の泥棒騒ぎを経て、閉店を決めたそうです。犯人たちはたぶんあの3人だけど、どうやら捕まっていなくて「もう関西にいない」らしい。
チャンミカ、ターくんが店と金庫のカギをコピーして犯行に使ったことを知ってましたよね。警察が「どうやら3人は詐欺集団だ」と言っていたことからもターくんたちの身元は割れているし、ここから行間を読めばターくんたちが事情聴取を受けていたことは明らかです。
逮捕されていないとしても、任意で引っ張ってガーリーズの入り口と金庫のカギを持っていた、あるいはカギをコピーしたことを自白しているはずのターくんの逃亡を警察が許しているのも意味がわからないし、「関西にいない」イコール「もう捕まらない」と結論付けているのもわからない。
300万の借金もあるけど、高い授業料だと思って笑って忘れようというチャンミカ。文脈としては、敏腕女性経営者がクズ男に騙されたという流れを描きたいわけです。これ、チャンミカがターくんから投資詐欺や共同経営詐欺を持ちかけられたとか、「心臓移植の必要な妹の手術代が~」みたいなターのホラ話を妄信して金を貸しちゃったとかならわかるんですが、恋愛に目がくらんで口車に乗ったわけではなくドストレートに店舗荒らしをされているので、「クズにぞっこんだった私も悪いわ」って話ではないのよね。やりたかったことに対して、実際に起こした事件の内容が合ってない。
だいたい金庫のカギってなんだよ。今どきダイヤル式ですらないのかよ。もしかして、あのチョチョッといじってた両手サイズのキャッシュボックスのことを金庫と呼んでいるわけ? この緊張感のなさも、事態への興味を削いでくる。
閉店するにあたって在庫のギャル服は「買取か廃棄」だと言います。これにアユ(仲里依紗)がまるで超名案を思い付いたかのように「閉店セールをやろう」と言い出し、付き人くんが「アユさんさすがっす!」の顔をする。
えーと、やるだろ、閉店セール。なんでやらない選択肢があるんだよ。あと、ここ2号店だよね。神戸の1号店が繁盛しているから2号店が出てるんだよね。「在庫は神戸の1号店で売る」では、どうしてダメなんでしょうか。さんざん岩手にギャル服を送ってきたのに、今回に限って廃棄にするのはどうしてなんでしょうか。ひとつの出来事に2つ3つの変な情報や判断がついて回るので、忙しい限りなんですよ。これでも好意的に見てるんですよ。
画が見えないのよなぁ
スズリンは栄養失調、結さんは過労と腎盂腎炎、翔也は右肩関節唇および腱板損傷と、登場人物を肉体的に痛めつけることでしか物語の展開を作れないことでお馴染みの『おむすび』ですが、今回はそれにナベべことナベ(緒形直人)の脳震盪が加わりました。
アユがナベの店を訪れると、奥からうめき声が聞こえる。次のカットで病院の入り口に救急車。ナベが目を覚ますと、結パパ(北村有起哉)が付き添っています。
聞けば、階段の板が抜けて落ちたのだという。階段の板が抜けて落ちて頭を打った。これ、どういうことが起こったか想像できないんです。画が見えないの。階段の板が抜けたら足から落ちない?
ナベべの家がボロいことと、マキちゃんがナベと一緒に東京に行くと言っていたことがつながってくる、これは珍しくきれいに伏線が機能しているナイスな作劇が決まるところでしたが、この「階段の板が抜けて脳震盪」という状況の見えないエピソードにしてしまったことでまたノイズが発生している。そんな危ない店に客を呼んでいたのかという、ナベという人の商売人としての不誠実な姿勢まで追加されてしまう。「月命日を忘れて仕事をしていた」という余計なセリフを挟んだせいで、以前は日参していたはずのナベの墓参りのペースが月1以下っぽいことになってしまい、「忘れたくない」「声を聞きたい」という思いにリアリティがなくなっている。12年間、仕事もしないで毎日墓参りをしていたという極端なキャラ設定にしたツケが回って、「死んだ娘を忘れていってしまう」という普遍的な痛みにさえ説得力を持たせられない。
チャンミカの閉店にしろナベの入院にしろ、シンプルに脚本の練り込みが足りない。
それは本気で言っているのか
商店街のほうでは、相変わらず客の全然いない床屋でイツメンがたむろしているわけですが、今回はなっちゃんがコンビニの商品開発に携わっていることが明らかになりました。
コンビニの総菜の商品開発というからには、当然、本部ですよね。この人、大学時代は合コンに明け暮れたりボランティアに行ったりしてましたが、コンビニの本部で弁当や総菜の商品開発に係る部署に在籍しているんだとすれば、結さんよりよっぽど「食のスペシャリスト」ということになりますけど、大丈夫なんでしょうか。
コンビニ総菜こそ、味はもちろん大量生産に必要な仕入れ経路、工場の生産効率、徹底した衛生管理といった「食」に関する総合的な知識と経験が必要になってくる仕事でしょう。「家が総菜屋だった」程度の理由で、そんな「食」のエリートコースに簡単に乗せてしまう。メインテーマの「食」についてでさえ、この解像度なんだよな。もう百万回くらい書いてるけど、いったい何を取材してきたのよ。
そして今日もっともびっくりしたのが、「小売店のうちらには太刀打ちでけへん」というパン屋のセリフです。
いちおう説明しておくと、「小売店」というのは一般のお客さんに直接商品を販売する業態のことで、店の規模の大小には関係がありません。伊勢丹だって小売店です。
先週の「強盗」については、もしかしたら撮順によって生じた問題が編集でリカバリーできなかった可能性もあるかと思ったけど(好意的に見てるなあ)、今回の「小売店」はシンプルにヤバいよね。パン屋が「小売店」でショッピングセンターは「大売店(おおうりてん)」だと思ってるってことだもん。なんだ、おおうりてんって。
こういうのが信頼を失っていくところなんよねえ。どれだけ細かいミスがあっても、ストーリーやキャラクターの魅力でミスを「覆う利点」があれば見てられるんでしょうけど。ダジャレだよ。文句あるか。
(文=どらまっ子AKIちゃん)
◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/