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『おむすび』第84回 「このドラマを信用してはいけない」そう、脳が危険を察知する

橋本環奈(写真:GettyImages)
橋本環奈(写真:GettyImages)

 ずっと薄々、気持ち悪いと感じていたことがあって、このドラマって会話が噛み合ってないシーンが多々あるんですよね。

 そのひとつが無意味なオウム返しを繰り返すことで、今日も開始早々ガーリーズにやってきたアユ(仲里依紗)がチャンミカ(松井玲奈)に「メールで問い合わせがいっぱい来てる」と言われて「メール……?」と聞き返したり、「このビジネスいけると思う」と言われて「ビジネス……?」と返したり。

 アユだけじゃなく、ナベさん(緒形直人)も「カスタムシューズの発注に来たよー」とやってきたアユに「は、発注?」と聞き直してる。ネットで注文が殺到してるから「お店がなくても営業できそうやねん」と言われれば、「店がなくても……?」と。

 これは何なん? と考えてしまうわけです。

 そういう小さな違和感について考えながら見ていると、ナベは「靴の発注やな、わかった。やっとく」と言って裏に消えていく。「靴の発注をやっとく」とはどういうことなのか。発注をするのはアユであって、ナベは発注を聞く側ではないのか。そういう大きな違和感が覆いかぶさってきて、モヤモヤがモヤモヤのまま置き去りにされていく。この感触もまた、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』独特の味というか、なんかこのドラマと手をつなぎたくないな、と思っちゃうんだよな。脳が危険を察知している感じ。

 第84回、振り返りましょう。

1号店について、お願いだから教えてくれ

 メール注文が殺到したおかげで300万の借金に完済の目途が立ち、チャンミカはガーリーズの存続を決めたと言います。

 まず、この店が2号店であることはドラマ的に完全キャンセルでいいのかな、という疑問が頭をもたげてくるわけです。

 神戸に1号店があって、繁盛していたから梅田に2号店を出した。そこに泥棒が入って、現金(いくらかわからん)と100万円クラスのビンテージデニム(何着かわからん)が盗まれた。それをきっかけにチャンミカは閉店を決意。300万の借金があるけど「なんとかする」と言っていた。

 在庫は買い取りに出すか廃棄だといい、なんで1号店に回さないのかわからないし、そうじゃなくても今まで通り岩手のアキピーに送らない意味もわからない。

 んで半額で売りさばいて300万円の売り上げがあったから、店を続ける。ん? 手元に300万円のキャッシュができて、それを全部一括返済に回すということ? だとすると店を続けるにしても仕入れのお金がないよね、となるけど、見たところ店にはまだまだ在庫がありそうだ。

 そもそも泥棒が入ったから閉店という因果も変だし、テナントに退去の申し出をしたタイミングもわからないし、「メールでビジネスできるから店は要らない」と言っているのに店舗を構え続ける理由もわからない。「ネット通販に活路を見出したから、実店舗を続けます」って、どういうことなのか。それこそ、半額セールにしても客足が途絶えているような2号店はたたんで、神戸の1号店とネット通販だけにしたほうがいいのではないか。

 ここで、あれ、1号店はどうなってんだ? という問題が出てくる。ナベはアユに「ガーリーズはお得意様だから潰れたらあんたも商売あがったりだろ」と言っていた。この発言は今回の2号店閉店がそのままガーリーズの閉業であることを意味している。

 普通、存在していたはずの1号店がいつの間にか消滅するということはありえないのだけれど、ここは『おむすび』世界なので平気で消滅させることもあり得る。そういう矛盾が発生することは多々あったし、その矛盾を飲み込まなければ見続けられないドラマだから、私たちもいつの間にか洗脳されてしまい「1号店は消えたのか、消えてないのか」と、本来ならばあり得ない可能性に頭を悩ませなければならない。

 そういう混乱を生んでおいて、「イエーイ!」というノリと勢いで押し通してくる。これ、詐欺師のやり方なんですよ。このドラマの言うことをまともに聞いてはいけない。脳が危険を察知するんです。

 最初の親子が登場する前に、もうテンション下がっちゃった。

そうか多様性の話か

 子どもがお小遣いを貯めて、母親のためにギャル服を買ってあげる。その全身コーデはなんぼなん? お金足りるん? という疑問はあるものの、通して見れば微笑ましいエピソードではあります。

 ただ、今度はそのエピソードの意味がわからない。ドラマのシーンというのは、物語の進行に有機的に関わるものであるか、登場人物の背景や心情についての描写を補強するものであるか、そのどちらかであるはずなんだけど、この親子の話は、そのどちらでもないように見えるんです。

 これは今日のYahoo!ニュースに回答があって、そのままズバリ「中川わさ美のキャスティング意図も」という見出しの記事が出ていました。

 それによると、おかん役の中川わさ美さんは右手に障害がある俳優さんなのだそうです。

「言葉で説明するのは難しいですが、そういった方々にも届く“ギャル”を表現したいなと思って、中川さんにご出演いただきました」

「障がいをピックアップして撮る手法も考えましたが、なんとなく“そうじゃないんだよな”と思ってしまって。今回のような描き方をしたことで『どれくらいの人に、どれくらいのことが届いているのか』という懸念はありますが、『老若男女だけではない、もう一つの表現がしたい』との思いから、この方法を取りました」

 そう語っているのは演出の盆子原誠さん。

 思い上がってんな、と思うわけですよ。なんだ「そういった方々」って。なんであんたの言う「そういった方々」には「届いてない」と決めつけているのか。最初から施す側のつもりでいるのか。

 何より、つまみ食いしてんじゃねーよ、と思うんですよ。ハシカンが休みのヒマ週だし、ちょっくら多様性の話でもしときましょうか。昨日のピーターの演説もその類でしょう。ピーターくらい強靭なバックボーンがあれば堂々とやれるのに、障害を持つ無名の役者さんをキャスティングしたら、ビビリ散らかして意図していたはずの多様性を語ることからも逃げ出してる。

 そもそもからして障害者は生活を楽しんでいないと決めつけているし、どうせダサい服を着ていると思っているし、自分たちが「変えてやる」「楽しませてやる」という傲慢な態度でしか向き合えない。

 いつもの統括さんこと宇佐川隆史氏は同じ記事で「今回のシーンでは、私たちも特段意識することなく“当たり前に皆が一緒に生活している”現代の状況を表現しています」と言っています。

 当たり前に皆が一緒に生活している現代の状況を表現する意図なら、誰よりもドチャクソに人生を楽しんでる車イスギャルを出すとか、そっちでしょう。最初から下に見てんだよ。多様性を語るとき、こういう無自覚な差別意識の発露がもっとも醜悪ですよ。

もうショッピングセンターの話もわからんし

 役所の若ちゃんの告白も、なんだあれ。「SCができたら商店街が寂れる」と言って始まった闘争が、「SCができたら商店街に活気が戻る」という結論で終わっていく。仕事とはいえ、こんなあべこべなお笑い草で涙ぐまなきゃいけない北村有起哉さんが不憫でならないよ。

 あーん、なんか今日はトゲトゲしちゃうな。ちょっと触られたくないところを汚い手で触られた感じがする。なんかおいしいものでも食べて切り替えよ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
https://note.com/dorama_child/m/m4385fc4643b3
第57話~
https://cyzo.jp/tag/omusubi/

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/01/30 15:45