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お笑い業界にとって「魔の2月」になるのか… ダイタク・大らのコンプラ違反容疑で危惧されるクズ芸人の居場所

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イメージ画像(写真:Getty Imagesより)

 お笑い業界にとって「魔の2月」になってしまうのか…。2月5日、吉本興業が一部所属タレントにコンプライアンス違反の疑いがあるとして該当者の活動自粛を報告し、事実関係は調査中であるとした。吉本興業の発表では詳細は伏せられたが、一部メディアでは違法オンラインカジノで賭博をした疑いがあるとして、ダイタクの吉本大、9番街レトロのなかむら★しゅんが警視庁から任意で事情聴取を受けていると伝えられた。さらに警視庁は、複数のタレントが関わっている可能性も視野に入れて調べを進めているとした。

 たしかにお笑い業界は、縦、横のつながりが広いため、吉本興業内だけで話が収まるとは考えづらい。最悪の場合、同件に関与した芸人が芋づる式に出てくるかもしれない。今や、芸人が出ていないテレビ番組などはないくらいその存在は必要不可欠。ダイタクの大、9番街レトロのなかむら★しゅんのときのように、「出演見合わせ」で関係者が急な対応に追われることもあるだろう。

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クズ芸人たちの今後は…

 そんな今回の騒動で筆者が気になったのは、クズ芸人たちの今後である。ダイタクの大、9番街レトロのなかむら★しゅんはまさにクズ系の流れに乗っている芸人だ。

 ダイタクの大は2021年7月14日放送『チャンスの時間』(ABEMA)に出演時、「ギャンブル系、お金系メインで、あとはお酒、女の子のあたりをちょこちょこいかせていただいています」と番組の企画に沿ってクズアピールをするなどしていた。また出演当時、弟の拓とともに兄弟揃って借金を抱えていることも明かされていた。一方、9番街レトロのなかむら★しゅんも、カネの貸し借りを頻繁におこなっていたことで知られていた。「借金先生」「借金マスター」と称され、借金ネタには事欠かなかった。ただ、どちらも劇場人気が高く、オンライン配信も売れることもあり、そういうクズなところもキャッチーに受け止められていたように映る。

 カネの話は芸人のクズエピソードの定番だ。カネの借り方に独自性であればそれが笑いになり、欲にまみれた生々しい人間味が見られたらそれもまた笑いになる。そして、そんな彼らのようなクズ芸人たちの姿は、コンプライアンスでがんじがらめになったバラエティ番組において最後の矜持のようにも思えていた。

 誤解を恐れずに言えば、お笑い芸人はかつてみんなクズだった。いや、どこかにクズな要素があった。勉強ができない、不良、いつまでたっても夢や目標がない、社会性が著しく欠けている…など、お笑い芸人はハミ出し者がなる仕事だとかつては言われていた。書籍『M-1はじめました』(2023年/東洋経済新報社)で『M-1グランプリ』創設エピソードを記述した元吉本社員・谷良一氏にインタビューをおこなった際も、お笑い芸人とは「私たちのような普通の人間とは違うからおもしろいんですよね。違う発想をするし、違う行動をとる。横山やすしさんなんかめちゃくちゃでしたから」と持論を口にしていた。

変容した芸人像

 しかし、『M-1』をはじめとする賞レースがお笑いシーンの主流となり、それらに挑むお笑い芸人の模様が格好良く映し出されるようになると、ムードが変わっていった。1990年代はふかわりょうの慶應義塾大学出身という学歴が驚きを与えたが、現在では『M-1』連覇の令和ロマンを筆頭に名門大学出身者は珍しくなくなった。そういった知的なお笑い芸人たちが、賞レースでビッグドリームをつかむため、豊富な国語力を駆使し、メカニカルな構成のネタを作るようになった。加えて、コンプライアンス重視の時代となったことで、逸脱した芸人たちの肩身が少しずつ狭くなっていった。

 しかし、私たちはやっぱりどこかでデキの悪い芸人を求めている。だからこそ『M-1グランプリ2024』決勝で、バッテリィズの「アホ漫才」を見た審査員・若林正恭(オードリー)の「小難しい漫才が増えてくる時代の中で、ワクワクするバカが現れたな、と思って」というコメントに、大いに頷けたのだ。あれはお笑い芸人の真理だと感じられた。アホ、バカ、クズみたいな一般的には悪口であるものが、ことお笑いの場では「芸人らしさ」として愛される理由になるのだ。

「芸人らしいおもしろさ」に賭けるバラエティ制作者

 そういうクズ芸人が本気でボロを出すと、当然、番組的に放送があやしくなる。実際、筆者もテレビやラジオのバラエティ番組の収録取材で、女性関係や金銭面にだらしない男性芸人たちが「絶対に使えないヤバい話」をしている様子に何度も立ち会っている。中には「あの好感度が高い人もかつてはそんなことを!?」というものもある。それらを制作関係者はうまく編集して、使わないようにする。そしておもしろく仕上げる。リスクはあるが、それでもバラエティ制作者は彼らのおもしろさに賭けている。なぜなら、それが「いかにも芸人らしいおもしろさ」だと信じているからではないだろうか。

 だからこそテレビプロデューサーの佐久間宣行氏が自身のXで、ダイタクが出演した番組『ゴッドタン』の2月8日放送回の内容変更について「ちょっと様子見て、それでも無理そうなら再編集したものいつか流します。全員が面白い回だったのでフルで放送したくて、ギリギリまで待ったんですが」「全員が面白い回だったんです。残念です。でもお蔵入りにはしないのでご安心ください。関係ない出演者に申し訳ないし」と本気で悔しさをにじませたのだろう。

「クズ芸人」というジャンルの今後は…

 しかし、この違法オンラインカジノの件で、カネの問題を抱えているようなクズ芸人たちは特に身辺が洗われることになるだろう。いくらお笑い好きからクズ芸人が好かれているとしても、一般的に「クズ芸人=反社会的なことに手を染めている可能性が感じられる」となれば、少なくともテレビなどの大きなメディアにおいては「クズ芸人」というジャンルの縮小は免れないかもしれない。

 吉本興業をはじめ、お笑い芸人を所属タレントとして抱える芸能事務所による身辺調査は一旦、2月中になんらかの結果が示されるはず。どんな理由であれ、違法性があるものに手を出しているのは良くないこと。「知らなかった」ではすまない。

 こういったことを機に芸能界全体のクリーン化が進むのはもちろん正しいこと。しかしその影響で、クズ性を押し出している芸人たちが次々とはじかれていくかもしれない。クズで売り出している芸人は「なにがセーフで、なにがアウトか」を分かっていて頭脳的であることが多いが、「クズ芸人はヤバい」というイメージで居場所が失われていくとなると、それはそれで複雑な気持ちを覚えてしまう。

(文=田辺ユウキ)

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田辺ユウキ

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。

X:@tanabe_yuuki

最終更新:2025/02/11 09:00