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『おむすび』第93回 もはや摂食障害かどうかも不明……医療ドラマで「病名をつけない」という珍事が発生中

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 なんかフワフワした回だったなぁという印象でした、今朝のNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』。フワフワしてんのに、ずーんと重いモヤモヤがある。

『おむすび』は摂食障害を描けるか

 冒頭、結さん(橋本環奈)が姉アユ(仲里依紗)に「体壊してまでかわいくなりたいって思うの、いいことなんかな?」と問いかけます。

「いいこと」って、なんだろう。

 例えばアルコール依存症で考えてみると、日々ストレスがすごくて、気を楽にしたくて酒を飲みすぎてしまう人がいる。酒を飲まないと眠れないし、不安に苛まれてしまう。

「肝臓を壊してまで楽になりたいって思うの、いいことなんかな?」

 どうしてもプロ野球選手になりたくて、速球のコントロールが定まらなくて不慣れな変化球に頼っていたピッチャーがいたとする。肩に負担がかかっているという自覚はあるが、チームのため、自分の夢のために無理して投げ続けている。

「肩を壊してまで試合に勝ちたいって思うの、いいことなんかな?」

 人にはそれぞれ苦悩や願望があって、思い通りにいかないとき、どうにかこうにか折り合いをつけるために極端な行動に走っている人がいる。それが自分の体や心を傷つけていることはわかっていても、強迫観念からその行動を中止することができない。

 そういう人にとって、その極端な行動が「いいこと」かどうかって、あんまり関係ないような気がするんですよね。よかないよ。よかないけど、それをせずにはいられないから苦しんでいる。

 そういう苦悩の渦中にある人にまったく寄り添わず「プロポーズかしら?」からの「ウソでしょ?」からの「大っ嫌い!」というコンボを繰り出したのが結さんで、「飲んで忘れて今を楽しくUNITEしようよ!」と言ったのがアユでしたね。そういう意味では一貫してんな。

 第93回、振り返りましょう。

マリエ氏、どんな子なんだっけ

 ちょっと確認してみましょう。

 火曜日を振り返ってみると、マリエは立ちくらみがあって外来に来て、結さんたちNSTが関わり始めたのが入院3日目。低栄養、低血糖、低血圧、中程度の肝機能異常があって、原因精査の目的で消化器内科に入院している。BMIは16.1で、WHOの基準でいえば「痩せすぎ」になる一歩手前の「痩せ」。ドクター森下(馬場徹)によると「ほかの科の先生方と連携を取りながら治療中」とのこと。恐らく、ここで言う「ほかの科」は心療内科でしょう。

 あれ、見直してみたら摂食障害の治療入院ではなく、肝機能の検査入院だ、この子。

 検査入院の患者がNSTの対象になってるってことか。でもドクター森下は「食事療法に積極的でない」と言ってた。ということはすでに検査が終わって、肝臓になんらかの病気が見つかって、食事療法を含んだ治療入院に切り替えたということ?

 先週の2人はネフローゼ、潰瘍性大腸炎と、とりあえず消化器内科に入院していて結さんが関わる必然性があったけど、このマリエって子は病名すらついてないんですよね。勝手にこっちが摂食障害の症状だと思い込んで見てきたけど、ドラマはそう明言しているわけではない。そもそもこのマリエって子が入院加療が必要な病気なのかどうかもわからない。

 ただダイエットしたくてあんまごはん食べたくない子がいて、その子がなぜか入院していて、結さんがNSTの管理栄養士という立場からアプローチしている。「食べたくない」という拒絶の程度についても心療内科の診断が下りているわけではなく、食事に対する心因性の拒否反応が出ているのか、単に意地っ張りなのかわからない。あくまでマリエ本人の口からしか語られていない。

 今日のフワフワ感の原因はこの「マリエの病気」がなんなのか、そもそも病気なのかどうかもわからないことだわ。まさか医療を扱うドラマで「入院してます、病名はつけてません」なんて状態が発生すると思ってなかったから勘違いしてたね。

 マリ科長は、マリエの病室に行こうとする結さんを「ちょっと控えよ、マリエさんみたいな病状の子、食事中に何回も行くと、プレッシャーになる可能性がある」と引き留めます。

 たぶん「摂食障害」って言い切っちゃうと管理栄養士の領分じゃなくなることは作り手側もわかっていて、それでも、どうしても結さんにマリエ問題を解決させたいから病名を明言することを避けてるんじゃないかなと思うんだよな。このマリ科長の「マリエさんみたいな病状の子」という曖昧なセリフ、成立していないドラマを無理やり成立させるための卑怯で都合のいい言い方だと感じます。何度も言うけど、マリちゃんにこんなセリフ言わせないでよ。ずーんと重いモヤモヤの正体はこれだわ。「結さんが解決」という道筋のために病院のシステムや「病気」という存在そのものが歪められている。

 昨日は「この解像度で摂食障害を描けるのか」なんて心配してたけど、最初から摂食障害みたいな難しいテーマと向き合う気なんてなかったんだ。それより「結さん、今週も問題解決!」だけやれればよかったんだ。油断ならないぜ、『おむすび』。

 こうなってくると、もうあのバイキングもその後の立ちくらみからの失神も、なんの意味もないんだよな。せめて病気とか入院とか治療とか、そういうものくらいは現実に即して扱っていると思ってたんです。あの窒息オヤジが窒息した原因である嚥下機能の低下についても潰瘍性大腸炎とは関係なかったけど、まあ併発することだってあるだろうと納得していた。

 けど、マリエのエピソードはこれ、病院を舞台にしたドラマを作る上で絶対に踏み込んではいけない領域に足を踏み入れてる感じがします。「なんの病気か、そもそも病気かどうかも知らん、困ってる人がおって、結さんが解決したらそれでええねん」と言っている。あまりにも乱暴すぎる。

 しかもそれをクソくだらない愛子(麻生久美子)の不倫疑惑コメディと並行して語ってるお気楽ぶりですよ。いよいよ見るに耐えない。

字数が足りないぜ

 もう今回の件についてはあんまり書きたくないんだけど、字数が足りないので、蒸し返しましょう。月曜日、翔也(佐野勇斗)と花ちゃんを連れて実家を訪れ、「床屋になる」という決意を伝えたシーンです。

 あのときの結さん、デコルテ丸出しの妖艶な衣装にふんわり巻き髪ピアスでお化粧バッチリのスーパー美人さんだったわけですが、このレビューではあのカッコについて「何帰り?」とだけツッコんで、流しておりました。

 どうしても辻褄を合わせたくなる性分なもんで妄想してみますと、あれ「体入帰り」だな。体験入店ね。北新地のクラブとか、そんなところでしょう。

 翔也が星河を辞めて実家の床屋で修行することになって、米田家の財政はヤバイことになった。通信の学費もあるし、花ちゃんもこれからお金のかかる年齢になってくる。聞けばサッカーけっこう上手いみたいだし、強豪チームに入ったら遠征だってある。結さんは「給料も上がったし貯金もある」なんて強がっていたけど、やっぱお金の不安があるんだろうな。それで、夜の仕事をすることにした。

 お、なんか結さんが健気な女性に見えてきましたよ。翔也の夢のために、文字通り体を張ることにしたんだ。

 そう考えると、パジャマ問題も理解できるんです。「話題がなくなったら、とにかくなんでもいいから客をホメろ」というのは水商売の鉄則ですからね。服装、時計、髪型、なんでもいいからホメときゃ相手の気分はよくなるし、シャンパンもポンポン開く。

 結さん、そのクセが出ちゃったんだな。「会話に困った! 着てるもんをホメなきゃ!」というシンプルな思考回路で、ボーイとガール両方のパジャマをホメてしまった。「そのパジャマ、カッコいいね」と言っている裏で「ソウメイでも入んないかな」と思っていたのかもしれない。

 窒息オヤジが軽々と懐柔された理由もよくわかりませんでしたが、まあ地場の建設会社のワンマン社長なんて典型的なクラブの客みたいなところでしょうから、スーパーホステス・結にとってはお手の物でしょう。何しろすごい美人だし、あのオヤジを見つめてた結さんの顔面、超つよつよだったもん。
 
 がんばれ結! 翔也のために、1000年に1人の夜の蝶となれ!

 どうやらお店から貸与された衣装のまま実家に来ちゃったみたいだけど、仕事場から提供された衣装を借りパクしちゃうのは米田の血筋でしょうね。かつてアユも、カラオケビデオの現場から衣装のまま糸島まで逃げ出してきたことがありました。

 よし、だいたい辻褄は合ったな。今日はここらへんで、すみません。明日はがんばります。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/12 14:00