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『おむすび』第95回 トンチキだけならまだしも、当事者にとって「有害な情報」が連発されている

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 今日これ過去イチでヤバイ回だったんじゃないか、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』。

 まず花ちゃんの「食べり」の場面ね。

『おむすび』尺埋めエピソードも選択ミス

 もし仮に、やえちゃんの旦那さんの言う通り今回のやえちゃんの急変が結さん(橋本環奈)の責任であり、結さんが直接的な加害者だったとしても、それは娘の握ったおむすびを食べて「忘れる」類の「悲しいこと」じゃないだろって思うんですよ。ここでは、結さんは自分の仕事上のミスで患者さんの命を危険にさらしたとされているんだよね。

 だとしたら、悲しいのはおまえじゃないんです。やえちゃんと旦那が悲しいのであって、おまえは老夫婦に「悲しい思いをさせた」側なんです。

 つまり、例えば結さんが車を運転していて、不注意で人をひき殺したとしましょう。「なんであのとき、もっと注意深く安全確認をしなかったんだろう」と落ち込んでいるところに娘がおむすびを握ってきて「おいしいもの食べたら、悲しいこと忘れられるやろ」とか言ってる。加害者である結さんと夫の翔也(佐野勇斗)がそれを食べて「超オイシー」「うんめぇえ」なんつって親子3人ベタベタしながら笑い合って「悲しいことは忘れました」ってさ、あの旦那がこの光景を見たら、まとめて焼き払いたくなるだろうね。

 このシーン単体で見ても、こんだけおかしなことをやっているんです。で、しかも「結さんのせいでやえちゃんが急変した」という、このシーンの前提からしておかしいのです。

 なんか今回は全編おかしかった気がするよ。第95回、振り返りましょう。

魔空空間に引きずり込め~

 昨日の振り返りからですけど、栄養科のマリ科長に電話がかかってきていました。

「米田さん、なんかマリエさんがお母さんとモメてるみたい」

 誰から、なんで栄養科に電話がかかってくるのか。しかも米田さん名指し? 電話の相手は「マリエさんとお母さんがモメてるんです! 米田さんを呼んでください!」って言ったってこと?

 なんで?

 結さんが病室に駆け付けてみると、ナースがいる。じゃ、このナースが栄養科に電話したのか? しかもこれは母娘がモメているのではなく、病院側の制止を押し切ってマリエが勝手に退院しようとしているんだよね? このナースが電話をしたとしても「モメてる」では状況の説明にはなってないし、仮にこのナースが正確に「マリエさんが勝手に退院しようとしているから止めてほしい」と言えたとしても、それを伝えるべき相手は主治医のドクター森下であるはずだ。

 ここで『おむすび』は、このナースを状況判断のまったくできない、すげえバカなやつとして描いている。実際、ナースという仕事に少しでもリスペクトがあったら、こんなことにはならないんです。すでにこのあたりで、ここが病院には見えなくなってくるんです。『宇宙刑事ギャバン』でいうところの魔空空間に引きずり込まれたような気分。

マリエ「私もう退院するから、早くこれ外してください」

 なんで退院したいんだ、こいつ? なんか先週も勝手に退院しようとしていたセンター分けがいたけど、あいつにはとりあえず「会社に行く」という目的があった。マリエちゃんに「退院したい」という動機らしきものは何もない。

母親「あなたはまだ安静にしてなきゃいけないの!」

 なんでだっけ? この子には内科的な疾患はなかったんだよな。なんで入院して安静にしてなきゃいけないんだ? 親とはいえ理由もなく娘の身柄を拘束したり行動を制限したりするのは不法行為ですよ。根拠を言いなさい、根拠を。

マリエ「もういい、このまま帰る」

 パジャマで点滴スタンド引きずって家に帰る? なんでそんなに家が好きなの? 家帰ったら、あんたが諸悪の根源だと思ってるその母親も一緒に帰ってくるぜ? 大量に持ち込んでたメイク道具も置いてくの? わざわざ持ってきたのに? 置いて帰ったらメイクできないし盛れ写真も取れないよ? 帰って何がしたいの?

結さん「このまま退院したら、一生後悔するよ」

 どうでもいいけど、軽々しく一生とか言ってんなよ。

 アバンだけでこの有様ですよ。やる気あんのか、こいつら。もうB’zもうるせーわ。

お口パクパク橋本環奈

 その後、結さんが口をパクパクさせながら何か音を出していると、マリエにっこり。ここでの結さんの「母親ってどうこう」みたいなご説法が意味を持たない理由については昨日さんざん述べたのでいいとしても、「好きなことを思いっきりやろう」というメッセージは、やっぱ引っかかるんですよね。

 結さんがマリエくらいの年のころ、糸島で悩んでいたことがありましたよね。翔也は野球、タマッチはダンサー、みんなちゃんと夢があって、私にはやりたいことが何もない。「農家を継いで平穏無事に生きる」くらいしかないことにコンプレックスを抱いていた。それだって農業ナメんなって話だったけど、それより自分自身がマリエと同じころに「やりたいことがない」で悩んでいたくせに、今のマリエが何をやりたくて、何が好きなのかも知らないのに、ただ漠然と「好きなことを思いっきりやろう」とか言ってんなって話なんです。会話をする気がないとしか思えないよ。

 あのさ、この後に結さんが、やえちゃんのことが気になってお弁当に手を付けられないというシーンがあるでしょう。石田っちに「食べなきゃもちませんよ」と言われる場面。

 作り手側としては単に「結さん落ち込んでます」という感情表現のために「食事も喉を通らない」という慣用句を映像にしてハメ込んでいるだけなんだけど、病院で、摂食についての話でこれをやると別の意味が出てくることに気づいてんのかな。

 マリエちゃんに内科的な疾患がなかったということは、結さんが「今は食べたくないな」と感じて箸が止まっている気持ちと同じものが、そのどんよりとしたやり切れない思いが、もう何年もずっと毎日マリエちゃんの心の奥に居座っているということなんです。

 結さんは一時的に食べたくないだけだけど、マリエちゃんはその「食べたくない気持ち」が染み付いて「食べられない」ことが日常になってしまっている。そういう状態の子に「好きな服を着て、好きなことを思いっきりやろう」なんて言って心が晴れると思うの? それは本当に今のマリエちゃんの痛みに寄り添ったセリフなんですか?

「たいしたもんやー、米田さーん」「今回もグッジョブ!」

 うるさ。黙れよ。おまえたちももう大っ嫌い。

インスリンは悪なのかという話

 このドラマには2人の糖尿病患者が登場しています。1人は結さんに隠れて大福を食べていたし、もうひとりも教育入院の甲斐なく暴飲暴食を繰り返して再入院してきた。そしてドラマは、この2人ともに「このままだと一生インスリン注射を手放せない」と脅しをかけている。

 いうまでもないけど糖尿病には1型と2型があって、1型患者は生活習慣や肥満に関係なく常にインスリンの投与が必要です。

 ところが『おむすび』は、糖尿病患者はどいつもこいつも自力で食事管理ができないと言っている。インスリンを打ってる人間は、食事管理を怠った人間の末路だ。そういう描き方をしているんです。1型糖尿病を患っている方々の中には、今回『おむすび』が描いたような偏見にさらされている方が少なくないはずです。

「愛のパワー」だけじゃ治らない糖尿病もあるということは、説明しておくべきだと感じるんです。

 あとやえちゃんが搬送されてきた後に「インスリン注射のことばっかりが頭にあって、膵臓の病変のことなんかまったく考えてなくて」とか言ってましたが、これどういう意味なの? 糖尿病患者について、食事管理のことや失明や壊死といった重い合併症のことばかりが頭にあって膵臓にまで気が回らなかったと言うならわかるけど、インスリンのことを考えて膵臓のことをまったく考えないってどういうことなのよ。インスリンって、膵臓から出るのよ。知らないの?

 糖尿病悪化の弊害をインスリン注射だけに単純化してしまったことで、こんな変なセリフが生まれてしまっている。しかもこの変なセリフは、「管理栄養士たるものエコーで見抜けない腫瘍を見抜くべし」という超絶に変な前提の上に成り立っている。

 これね、「管理栄養士たるものエコーで見抜けない腫瘍を見抜くべし」という前提を作って、それに対して主人公に謝罪をさせてしまったことは明らかな害悪だと思うんです。社会に悪影響を及ぼすに足るだけの誤解を与えている。世の管理栄養士さんはガチのマジで怒ってると思う。だって、このドラマを見たガン患者の親族から「管理栄養士のくせにおまえ、なんでガンを見抜けなかったんだ」「おまえも米田結と同じボンクラか、思い上がってんのか」って責められる可能性が生まれてるんだもん。やってらんないですよ。

 トンチキだけならまだしも、有害な情報を振りまくようになったら終わりだと思う。おむすび食べて忘れてる場合じゃないよ、ホントに。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/14 14:00