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『おむすび』第96回 もうすべて「架空の病気」「架空の病院」と割り切っていきましょう

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』、今週は「生きるって何なん?」とのことで、どうやらパパさん(北村有起哉)が胃ガンになりそうな予感。予感というか予告。そんなのは悲しいので「パパ胃ガン」に向き合う前に、心の準備として『おむすび』というドラマが実在する病気をどのように描いてきたか振り返ってみようと思います。

『おむすび』有害情報を連発中

 とりあえず筆者は患者側の立場から糖尿病についてそれなりに詳しいので、バタヤン及び八重ちゃんの患っていた2型糖尿病を例に取りますね。

 まず、八重ちゃんの今回の教育入院が終わるときに結さん(橋本環奈)が「これで温泉に行ける」と言っているのが大きな誤解を招いてるんです。2型糖尿病の教育入院は治療や数値の低下を目的としたものではなく、あくまで生活習慣を改善させる方法を教え込むためのものです。だから、教育入院には「結果」なんてものはないんです。「これで何かがどう」なんてことは言えないの。「これを続ければ、いずれは何かがどう」という世界なんです。

 実際、八重ちゃんは一度目の教育入院の甲斐なく再入院してきた。そして、バイキングでメンチ取ってきてニコニコしていたことから察するに、こいつ家では普通にカロリー過多になってたぞ。我々は医者や栄養士に詰められたら「ちゃんと節制してました」ってウソをつく生き物なんです。それはよくわかる。

 八重ちゃんにしても、摂食障害未満のマリエにしても、病状や治療過程の説明を「患者の言ってること」でしか説明しないのも、医療ドラマとしてあり得ないところなんですよね。薬剤師・篠宮(辻凪子)についての番組公式HPでの人物紹介で「『患者はうそをつくが、数字はうそをつかない』が信条」と書いてますよね。『おむすび』は逆なんだよ、患者の証言を100%の信頼しうる状況説明として提示して、検査結果の数字でウソをつくんです。

 1人目の糖尿病患者であるバタヤンについて、『おむすび』は10日間の教育入院で「数値が低下した」と示している。HbA1cなんて9.0から8.1まで急降下ですよ。ここがもう完全なるチョンボなんです。これだけで『おむすび』が糖尿病について精確に描こうとしていない、テキトーにやってるという証左として十分です。

 2型糖尿病患者にとって、生活習慣を改善しつつリベルサス等の薬に頼りながら時間をかけてHbA1cを下げていく、半年かけて1.0~2.0くらい落とせたら最高だよね、というのが、平穏な人生を取り戻すための唯一絶対の道筋なんですよ。HbA1cがどういう数値かはググってもらえばわかるんですが、10日で0.9も下がることは現実的にありえないんです。これはもう実体験。ホントに無理なんだ。

 このドラマでは「糖尿病」という病気が登場したその最初のシーンから、もう現実ではありえない数値の動きを示して「結果、結が改善させた」と描いてしまっている。結の手柄を演出するために糖尿病の現実を根底からネジ曲げている。

 だから八重ちゃんの膵臓の腫瘍の話にしても、医学的な裏付けを求めて脚本の行間を読むことに何の意味もない。「結を反省させる」「花ちゃんが『食べり』と言う」という展開のためにあつらえられたハリボテに過ぎない。

 これだって「膵臓ガン」って呼んだら「初期症状としてあんな腹痛はおかしい」「緊急手術で一部切除して一件落着とは、いかにもおかしい」という専門家筋の摩擦を呼ぶという姑息な判断で、単に「腫瘍」としている。マリエが心因性の摂食障害かどうなのかも言わない。潰瘍性大腸炎もネフローゼも病状とは関係なく、患者の「食べたくない気持ち」を「食べたい」に振ることで「結さんの成果」としている。これなら管理栄養士である必要もないし、舞台が病院である必要もない。

 いいですか、「食べたくないの? 食べり?」というだけなら町の食堂のおっさんでもできるんですよ。父親が死んで食欲のない子ども、ダイエットに偏重した女子高生、味にこだわる中小ゼネコンの社長、みんな『深夜食堂』の小林薫でも解決できるレベルの話に収束しているんです。『おむすび』は病院を舞台にしながら、「病気」とも「栄養の管理」とも向き合わない。徹底的に逃げを決め込んでいる。

 あとね、八重ちゃんの膵臓の腫瘍について「結が調子よく働いていて、思い上がっていたから気づかなかった」という建て付けになっていますが、この「気づくべきだったけど、気づかなかった」は「あたしは両手を翻して空を飛ぶべきだったけど、飛べなかった」くらいの突拍子もない絵空事です。

 こんなので落ち込んでるほうがバカです。

 制作陣が「綿密な取材をしている」と公言しているから病気についても「現実に即して作られている」と信じてしまうことは無理もないのですが、少なくとも糖尿病については上記の通りクソイカサマ三昧です。

 あの米倉もどきの執刀医が叱責したかどうかより、米田結が無用に落ち込んで見せてることのほうが問題なんです。このトンチキすぎる展開と「綿密に取材をしている」という制作陣のコメントが悪魔合体した結果、テレビを見ている患者や親族に「管理栄養士が膵臓腫瘍を発見するべきだ」つまり「医療関係者は両手を翻して空を飛ぶべきだ」という誤解を与えている。「飛べないドクターやコメディカルは全員ただのブタだ」と言い切っている。そこが害悪だと言っている。みんな頑張ってんだよ、バカにすんなマジで。

 ほかにも重症妊娠悪阻の仰々しいテロップが出た翌日にはすぐ症状が治まって、アユ(仲里依紗)からギャル雑誌を差し入れられ「助かる~、超ヒマやったんよ」とニッコニコ。翔也は右肩関節唇損傷の大ケガをしていたのに腕をブンブン振り回してUNITE。

 何が言いたいかというと、『おむすび』に出てくる病気は実際の病名と同じ名前をしていますけど、この制作陣がでっち上げた架空のシロモノなんです。実にずさんな情報収集と絶望的に足りない想像力によって創作されたバッタモンです。だから、パパさんが胃ガンを患うとしても「イガンといってるけど、架空の病気だしな」くらいに気楽に見たほうが精神衛生上好ましいかと思います。何しろ朝ドラだからね、朝からどんよりしたくないし、ブチ切れたくもないじゃん。

 というわけで、第96回、振り返りましょう。

気楽に見るというか、何というか

 自分で書いといてアレですが、ここまであからさまに書いちゃうと、いよいよなんでこのドラマを見続けてるんだろうと自問自答してしまいますな。まあ仕事だからなんだけど、「どうせテキトーだしな」と思いながら見てると、あんまり内容が頭に入ってこなくて困りました。

 とりあえず八重ちゃんについて、外科医のアンちゃんが「私の仕事はここまで、あとは米田の仕事」とか言ってたけど、あとは担当医の仕事だよね。結さんも「はい」じゃないよ。そもそも八重ちゃんの担当医は誰なんだっけ。消化器のドクター森下? だとすると中村アンが馬場徹をちびるほど詰めたってこと? そのシーンは見たかったなぁ。

 あと、八重ちゃんの担当を外れる外れないの話なんですが、ここでややこしいのが結が週イチで活動しているNSTの対象として八重ちゃんと接触しているのか、NST以外の通常業務なのかが曖昧なんですよね。というか、『おむすび』は意図的にここを切り分けてないんだよな。ネフローゼボーイは小児科で担当外だからNST、じゃあ潰瘍性大腸炎はもともとの担当である消化器内科だから通常業務かと思ったら、NSTとして会いに行くまで結さんと患者は面識がなかった。八重ちゃんは一度目の教育入院のときは結さんNST加入前なので、おそらく通常業務として対応している。なのに、八重ちゃんが食べないことをナースや担当医に報告せず、NSTの言語聴覚士を勝手に呼んできて診断させている。

 まあ、テキトーなんだよな。「結さんがおかゆを用意してハイタッチ」がやりたいだけだ。用意したのはたぶん柿沼だけどな。

 パパも結さんが木曜に有給だから、木曜に神戸から淀川まで胃カメラに行くという。「家族に秘密」にしたいのに営業に穴を空ける。秘密にしたいなら定休日の月曜に神戸の病院に行けよって、誰でも思うじゃんね。

 なっちゃんあいかわらずかわいいし、もう自分の企画が商品化されてるなんてめちゃくちゃ優秀だと思うけど、そのパッケージにラベルもバーコードもないのはどういうことなの? 大手コンビニチェーンなのにPOS導入してないの? どうやってマーチャンダイジングしてんの?

 なんでひとつひとつ、全部がテキトーなの?

誰の気持ちも乗ってない

 脚本も演出も、ドラマを作ることってすごくハードワークだと思うんですよ。よっぽどのモチベーションがなきゃできないと思うの。

 でも『おむすび』って、誰のモチベーションも感じないんだよな。このドラマでメッセージを伝えたいとも、橋本環奈を最大限魅力的に撮りたいとも思えない。情熱を感じられない。だから、すべての人物に血が通ってない感じがする。

 そこがもっとも気味が悪いと感じる部分で、さらに、たまに「これはやりたいシーンだな」という唐突に気持ちが乗ったシーンが挟まれることがある。専門学校のシミュレーションでモリモリが役者魂を爆発させたところとか、先週の愛子の「初めてのオフィス体験」とか、誰かの創作者としてのエゴが通っていると感じられる瞬間が訪れることがある。それもまた気味が悪い。

 いずれにしろ『おむすび』は大いに失敗しているし、低視聴率にハシカンのスキャンダルとかギャルや栄養士といったテーマ選びは関係ない。別のところ、現場の奥のほうに失敗の大きな原因がいくつも絡まり合っていて、それが明らかになることもきっとない。もうなんでこうなったか、説明できる人も誰もいないんじゃないか。

 それでも、明日は来るんですよねえ。切り替えていきましょう。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/17 14:00