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『おむすび』第100回 もはや主人公・結への絶賛は「暴力」なのではないかという問い

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第20週「生きるって何なん?」が終わりました。

『おむすび』人物に中身がないのだ

 この表題、特に「何なん?」が入る週については結さん(橋本環奈)の言葉だと思ってたんですよね。糸島時代、ハギャレンや翔也との出会いを通じて主人公である結さんが「ギャルって何なん?」「夢って何なん?」を考え、神戸に来てからは「支えるって何なん?」を学んだり、「就職って」「働くって」「幸せって」と、ひとつひとつ人生の意味を考えていく。そして「結婚って」「母親って」。それらの疑問にドラマが明確な回答を示してきたとはまったく思わないけれど、一応それらを結さんが考えた形跡はあった。

 そして今週、父親の胃ガンを通して「生きるって」を考えることになったわけですが、何か考えましたっけ、結さん。セリフのほとんど全部が「管理栄養士として」の発言であって、結さんのプライベートから発せられた言葉が何もなかったような気がするんですよね。プチ家出したパパの帰りを待ってる深夜の食卓で「うちも心配かけてた」みたいなこと言ってたけど、実際帰ってきたら「何食べたの?」って、また管理栄養士の言葉をしゃべっている。

「生きる」って、どうあれプライベートじゃないですか。

 そんで、ドラマって人物のプライベートを描くものじゃないですか。

 術後の食事を詳しく説明させたり、人当たりのいい患者対応を見せて、それを周囲が礼賛し崇め奉ることしかできないって、ホントに末期症状だと思いますよ。ホメられるたびに結さんは謙遜したような顔をしてるけど、「生きるって何なん?」で描くべきはそうやってちゃんと仕事をしている時間じゃないでしょう。

 仕事以外のプライベートの時間に何を考えていたのか、今週でいえば父親が胃ガンになったことで「生きる」ことについて、どう考えたのか。何を覚悟して、父親とどう接しようと決意したのか、最愛の夫である翔也と何を話したのか、いずれ自分たちが先立ち、この世に残すことになるであろう花ちゃんに何を伝えたいと思ったのか、その心情を切り取るシーンがひとつもない。父親の手術が終わって家に帰ってきても「お料理は私が考えるぞ、だって管理栄養士だもんエッヘン」しか言うことがない。

 心情を切り取るシーンがないというか、大人になった結さんという人物にそういった思想がもともと設定されていないんだよな。悲劇だよ、管理栄養士である前に生身の人間であれよ。だから「バインダー妖怪」なんて言われちゃうんだよ。

 第100回、振り返りましょう。100回だってさ、よくがんばって見てるよな。

夢を見たの、おむすびがいっぱいあるわ……

 無事、手術を終えたパパさん(北村有起哉)、全身麻酔の最中に夢を見たんだそうです。糸島の実家で、おむすびを食べた夢。

 こんなの、もう「北村さん、脚本もらったとき苦笑いしただろうな」としか思えないよね。この米田聖人という人がおむすびを食べたシーンなんて、一度もないでしょう。「タイトルへの帰結」といえば聞こえはいいけれど、単なる無意味なこじ付けだもんな。これまで自分たちが描いてきた「米田聖人の人生」を踏まえた、今この瞬間じゃなきゃ言えないセリフというのを考える気がない。100回も見てきた視聴者に対する最低の裏切りですよ。失礼だとは思わんのかね。

 そして、そんな空虚なセリフに大粒の落涙で応える麻生久美子さん、立派なもんです。第80回、チャンミカ(松井玲奈)の店に強盗(?)が入ったとき、「チャンミカは事務処理や経理をやっている」とか言いながらアユ(仲里依紗)がボロボロと涙を流したシーンもありました。あのときもアユとチャンミカの友情を描かず業務上の関係の描写ばかりに終始してきたから、セリフが空っぽになっていて、それでもアユはちゃんと泣いていた。

 願わくば、こうして演者が涙を流しているとき、共感して泣きたいんですよ。これは贅沢な希望なんですかね。なんで麻生久美子や仲里依紗の渾身の演技を「うわ、これで泣いたよ、すげえな」なんて冷めきった気分で眺めなきゃならんのよ。

「結を絶賛したい」固執が生む矛盾

 結さんを絶賛したいのはもうわかるんだけど、大枠で絶賛すればいいのに、細部でも場当たり的に絶賛してくるから矛盾が生じるんです。

 術後、パパ担当の管理栄養士として毎日の食事に付き添うことになった結さん。術前には「担当はマリ科長であり、結さんはNSTの対象として週イチの回診でパパと関わる」と公言されていたにもかかわらず、この有様です。

 これ、もともと結さんの担当でもよかったはずなんですが、「いきなり身内を担当するのはおかしい」という医療ドラマとしての常識に加えて、「自分が担当を外れても気丈に振る舞う結さん」という絶賛ポイントを演出するための展開なんだと思うんですよね。もう物語としての筋を通すことより、結さんを絶賛することが優先されている。

 ここまでくると、さすがに不憫です。専門学校時代は何もかもが「結のおかげ」で解決していくことにムカついてもいましたが、こんな不自然な形で設定を捻じ曲げてまで物語が「結さんへの絶賛」に固執しているのを見ると、もうこの「絶賛」すら暴力に見えてくるんですよ。意地でも橋本環奈を絶賛してやる、それだけやってればいいんだろ、というヤケクソに見えてくる。

 だってさ、繰り返しになるけど「生きるって何なん?」の週ですよ。この人にも少しは「生きる」ことについて考えさせてやってよ。

「糸島行きたい」のではなかったのか

 手術を控えた昨日、「全身麻酔で目が覚めなかったらどうしよう」「この先、仕事を続けていけるのか」という不安を吐露したパパさんに、結さんは「退院後のことを考えよう、どこ行きたい?」と尋ねていました。「姉と2人で旅行をプレゼントする、海外でもいい」と。

 この会話自体も前後がつながっていない変なものでしたし、夫婦2人に海外旅行をプレゼントとはずいぶん稼ぎがいいんだなオンラインカジノでもやってんのかと思ったけど、それに対してパパさん「糸島行きたい」と答えてるんですよね。家族で一緒に糸島に行きたい。

「退院したら、みんなで一緒に糸島行こう」

 結さんもそう答えています。

 それで今日、無事退院して、1か月後までが描かれました。じいじ(松平健)とばあば(宮崎美子)がやってきました。

 糸島、行ってない。

 なんで?

 みんなで糸島でおむすびを食べた夢を見たから、もうそれで満足ってことなの?

 パパと糸島の関係を整理すると、生まれ故郷であり、18歳のときに勘当同然で神戸に引っ越して床屋になった。震災を機に糸島に戻り、農家になってしばらく過ごした。神戸に空きテナントが出て、再び戻ってきた。

 じいじが一家の神戸への移住を許した条件は、結がすべての休暇を糸島への里帰りに使うことでした。

 実際には、結が翔也のギャル化の際に一度帰郷しただけで、それ以外、どれくらいの頻度で米田家が糸島に帰っていたのかはわかりません。脳内補完しようにも、その材料がまるでない。

 だからここでパパが「糸島に行きたい」といった理由もわからなければ、退院後に行かなかった理由もわからない。じいじとばあばが何の連絡もせずにやってきた理由もわからないし、インターホン越しにじいじの顔を見たパパが胃を押さえてる理由もわからない。

 もはや、何がわかれば「わかった」となるのかすらわからない。

 脳内補完の話でいえば、こんなのは多数決みたいなもんですからね。全部が全部説明しろって話じゃないんです。

 例えば映画『セブン』(95)のラストで箱の中に何が入っていたのか、それはわかるじゃん。『猿の惑星』(68)で自由の女神が映し出されたとき、テイラー大佐が何に絶望したのか、それはわかるんだよ。じゃあ『2001年宇宙の旅』(68)の「モノリス」についてちゃんと解釈して説明してみろって言われたら、それはけっこうムズいじゃん。

 わからないことが問題なんじゃなく、わからないことがおもしろさにつながってないことが問題なんです。本来、わからないっておもしろいことのはずなんだよ。

「パパ糸島に行きたいって言ってたのに、行ってないんだ。そんな展開がくるとは! おもしろい!」

 って、誰も思ってないだろこれ。それが問題だと言っている。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/02/21 14:00