『おむすび』第104回 あえて「永吉は大阪万博に行っていない」説を唱えたい

不謹慎ですけれども、首でも吊ったんかと思ってしまったよ。「その1か月後、永吉さんはこの世を去りました」じゃないんだよ。
最初に違和感を覚えたのは、あのレストランのウエイトレスだったという女性(麻生祐未)です。彼女が持ってきた写真、どれも見たことのある万博の風景ばかりで、永吉(松平健)や彼女自身が写り込んでいる写真がひとつもない。
例えばあの女性がスマホで「大阪万博」と画像検索して、ネット上の写真を「懐かしかね~」とか言いながら2人で眺めていたならまだわかるんです。でもあの写真は、女の人が後生大事に箱に入れて保管していた記念写真なんですよね。あのトラックもそう、なんで報道写真みたいな画角の写真を個人的に持っているのか。どう見ても個人的な記念写真じゃない紙焼きの報道写真を、うれしそうに「当時の写真です」と言って持ってくる。なんだ、この不気味な女は。
万博公園に永吉と聖人(北村有起哉)が2人で来ることになってから、ずっと不穏な空気が漂っていたんですよね。結さん(橋本環奈)が突然、半休を返上した理由も納得できるようなものではなかったし、結さんが来ないからって、ばあば(宮崎美子)が花ちゃんを引き離してまで2人で公園に送り出したのも不可解だった。
そして、突然降って湧いたように現れた、青いビリビリの財布をなくしたという男の子。あの子はこう言うんです。
「友だちと鬼ごっこしとったら、なくなった」
あれ、鬼ごっこをしていたはずの友だちがいない。
普通に考えて、一緒に遊んでいた友だちが財布をなくしたと言い出したら、みんなで探すでしょう。なくした財布を探し続けている友だちを一人残して全員いなくなることなんてありえますかね。
さらに言えば、老眼だって進んでいるはずの永吉が、その財布を真っ先に見つける可能性も低い。
わかりにくい話をしますよ。
結論として、永吉は1970年の大阪万博には行ってないんです。自ら記憶を塗り替えている。
おそらく、トラックに乗っていたのは本当でしょう。過去にトラックと一緒に写っている写真もあった。でも、万博には行ってない。そう考えると、すべての辻褄が合うんですよ。
聖人を大学に入れるために貯めていたカネは、永吉が言っていた通りギャンブルで使い果たしたのでしょう。しかし、その事実がバレて息子に激昂され、強い自責の念にかられた永吉は、その自らの罪に耐えられなくなった。
そして、いつしか記憶を塗り替えてしまったのです。あのカネはギャンブルじゃなく、人助けに使ったのだ。オレは息子のために女房が貯金していたカネを使い込むような男じゃない。立派なトラックドライバーだった。そうだ、万博に食材を届けたことだってあるんだ。
それはすべて、永吉の妄想でした。
ばあばは永吉の妄想癖を知っていたんだろうね。だからずっと花ちゃんにも会わせなかったし、結さんや愛子が神戸への移住以降、糸島に帰郷した形跡がないのもこれで説明がつく。ばあばと愛子が結託して、家族を糸島の永吉に近づけないようにしていたのでしょう。
知らなかったのは永吉自身と、聖人です。本当に実の父がギャンブルで金を使い果たしたことで大学進学の夢を断たれたと知ったら、そのショックは大きいでしょう。殺してしまうかもしれない。だから、みんなでその事実を隠していたのです。
しかしその聖人がガンになり、いよいよばあばも真実を打ち明けるときがきたことを悟ります。永吉と聖人の2人だけで万博公園に送り出し、そこで永吉に真実を思い出させようとした。捏造した記憶の清算を試みた。
鬼ごっこの少年と記念写真の女性は、永吉の妄想の続きです。
自分は知らんやつに大金を貸してやるような親切な人間だから、少年の財布を見つけてやることだってあるに決まってる。
自分は万博に仕事で来ていたんだから、ウエイトレスと仲良くなることだってあるに決まってる。
そういう妄想が、永吉にあの2人の姿を見せていた。
しかし、実際には万博に来ていないから、万博の写真に永吉が写り込むことはありません。この女性も永吉の妄想だから、彼女も写真には写らない。考えてみれば一匹狼の個人ドライバーだった永吉に、万博イチの人気パビリオンのレストランに食材をルート配送するなんて仕事が回ってくるはずがない。「あんとき永吉さんおらんかったら、ホンマにどうなっとったか」なんてこの女の人が言うような、属人的な状況だったわけがない。
永吉は、架空の少年や架空の元ウエイトレスを妄想することはできても、万博の風景の中にいる自分を具体的に想像することだけは、どうしてもできなかった。だから、あの報道写真を見て、自分が万博に来ていなかったことを認めるしかなくなった。己の人生がウソで塗り固めたものだったことを、この瞬間に悟ったのです。
居酒屋「きよし」で語った「10歳の子どもを9時間もトラックに乗せるわけにはいかんと思ってな」という言葉も、いかにも苦しいものです。むしろ父と息子2人で9時間のトラック旅なんて、仲が良ければ楽しいことしかないはずだ。でも、永吉は10歳の聖人を万博に連れて行ってやることはできなかった。そんな仕事はなかったのだから。
万博公園ですべてを悟り、残り数日の関西での日々はなんとか取り繕ったものの、糸島に帰った永吉はふさぎ込むようになりました。自分が他人のために生きてきたと思い込んでいた人生が、すべて妄想だったことを知ったのです。周囲の家族も、そんな自分に気を使ってきただけだった。カネを使い果たしたとき、素直に謝っていれば、もっと家族と会えたのに。花のサッカーの応援にだって行けたかもしれない、あの子、サッカーをやってたなんてまったく知らなかった。俺は糸島に隔離され、幽閉されていたんだ。妻の手によって。それが彼女の最後に残された愛情だったとしても。
俺は、孤独だ──。
永吉が自ら命を絶つまで、そう時間はかかりませんでした。
そんな話に見えたね、今日のやつは。
だってさ、普通に考えて、万博での記念写真を見せようというシーンなら当時の写真に若き日の永吉とウエイトレスを合成して、それらしいのを作るでしょう。それを「手抜きだろ」って指摘するだけだと文字数が足りなくなるのでね、もしあの写真に2人が写っていないことに意味があるとしたら、こういう感じの話しかないと思うんだよな。これだと、ばあばが結さんに岐阜の話をしたあたりがモヤるんだけど、まあそんなの書き換えればいいっぺ!
そういうわけでNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第104回、振り返りましょう。
完全に下僕……
ここまでは全部冗談なのでいったん忘れるとして、結さんあなた、味噌汁作りを柿沼に丸投げしてデスクでほかの仕事してましたね? 「米田さん、お味噌汁できました」ってやってきた衛生服の方、もう完全に下僕じゃんね。公式ホームページの今日のあらすじ紹介、見ました?
「病院で働く結(橋本環奈)は、重症妊娠悪阻で入院している妊婦の食欲不振をどうにかしようと、特製の味噌汁作りに挑戦する。」って書いてあるのよ。
挑戦してねーじゃん。挑戦したのは柿沼じゃん。患者に感謝されてもさ、せめて「ううん、私は伝えただけ、この病院にはすごい栄養士さんがいて、患者さんの好みに合わせて完璧な味を調合できるのよ」くらい言えってんですよ。もうあからさまに手柄を横取りするのがクセになってるんだよな。この人のこういうとこ、ホント嫌いっス。
「でも、なんでうちはそこまで人助けするんだろう」じゃねーよバーカ。おまえ翔也(佐野勇斗)が肩(以下略)。
あと、なんだかんだ言って聖人が永吉の髪を切るシーンはめっちゃよかったな。とにかく、2人とも顔がすごいよ。ちゃんとそういう顔になってる。願わくば、聖人が初めて翔也の髪を切ったシーンもこんな感じであってほしかったんだよな。カツラをちょちょっと触っただけだったもんなー、残念です。
あとなんだ、アユ(仲里依紗)か。なんか最近の結さんがあんまり好きな服を着てる感じがしないので、今度コーディネートしてあげてください。もう自分がギャルのドラマの主人公だってこと忘れちゃってるみたいなんで。
ついでにこれも忘れてると思うんですけど、永吉が急に来てバタバタして帰って死ぬまでの間に、この年の1月17日を通過してますよね。
ギャルも震災も、『おむすび』にとっちゃそんなもんなんだよねえ。さすがにまともに向き合えないよ、こんなの。
(文=どらまっ子AKIちゃん)