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『おむすび』第108回 「花ちゃん、おまえもか」数少ない癒しキャラが続々と闇堕ちしていく

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 今日はいつにも増して「無」の回でしたね、NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』。

『おむすび』夫婦関係が昭和の価値観そのもの

 根本的なことを言いますけど、服って着るものなんですよ。「KING OF GAL」は若いギャル女子だけじゃなく、老若男女すべての人を元気にするブランドなんですよね。まずアユ(仲里依紗)自身がそのダッサいロゴをぺったり貼り付けた自社製品を着なさいよ。スタッフにも着せろよ。当然、営業回りの付き人くん(一ノ瀬ワタル)だってペルソナの1人なんだから着ていて然るべきだし、ギャル服に興味がない花ちゃんなんて、まさしく格好の攻略対象でしょう。アユが花ちゃんに「これなら着てもええな」って言わせるような「KING OF GAL」ブランドの服を作ってみせるとか、商品開発ってそういうことだと思うんですよ。

 なっちゃんと結さん(橋本環奈)のお弁当にしてもそうです。そもそもなっちゃんが高齢者向けのお弁当を作りたいと思ったきっかけは緑子の元気がなくなったことだったし、結さんにも還暦を迎えようという両親がいる。食わせ。食わせてヒアリングしてフィードバックしろ。そのプロセスを経て自分たちが納得するものを仕上げて、それから結果を上司にぶつけるんですよ。

 人の肌に触れるもの、人の口に入るものを作る仕事には、それ相応の責任が伴います。身近な人間にすら着せられないもの、食べさせられないものに「魅力がある」とセリフだけで言わせても、説得力がないんです。アユも結さんも、その仕事に説得力がない。

 だから「無」なんです。第108回、振り返りましょう。

おおう、冒頭からすごいシーン

 工場付きの管理栄養士・土屋に完全論破されたなっちゃんと結さん、居酒屋に取り残されています。

 もう落ち込んじゃってうつむいているなっちゃんの横で、結さんは素知らぬ顔でパクパクなんか食べてましたね。そんで、なっちゃんが自分を責めながら「ごめん」と謝って、結さんは「なっちゃんと仕事できてうれしかった」と返す。

 これ、すごいシーンだと思ったんですよ。

 土屋が説明した今回のお弁当企画が成立しない理由は、作業工程の煩雑さとそれに伴う人件費の高騰、スイスチャードや難波ネギといった安定調達の困難な食材の選定といったところでした。確かに企画提出の責任者はなっちゃんだけど、ここで土屋に叩きのめされたアイディアは、すべて結さんの発案ですよね。しかも、こうした問題に対する解決策は星河の社食時代に学んでいたことであって、その経験を結さんが覚えていればクリアできたはずなんです。

 当然、私たちは結さんがその経験を「覚えている」という前提でドラマを見ているし、結さんが「コンビニ弁当は社食より作る数が多い」という常識くらいは備えていると思っている。だから今回の失敗は「同じ轍を踏んだな」としか受け取れない。

 そうして同じ轍を踏んだ結さん張本人が、まるで責任を感じていないのが気持ち悪いんです。土屋が帰った瞬間に、もう他人事になっちゃってる。なっちゃんが謝ったとき、結さんに「ううん、私もそんなこと、わかっていたはずなのに」と一緒に落ち込んであげられない。

 ここで描かれたのは、その失敗のプロセスと関係なく「結が上、なっちゃんが下」という上下関係にほかなりません。こんなことをやってるから、いつまでたっても結さんという主人公に成長を与えてやれないんです。

 昨日、このレビューで「なっちゃんが無能化された」と書きましたが、本来ならコンビニでの食品開発のプロであるなっちゃんと、栄養マスター結さんと間での衝突という形でも描けるストーリーなんですよね。栄養士としての理想を追う結さんと、スイーツ開発を成功させ、大量生産におけるスキームを熟知したなっちゃん、その2人のプロフェッショナルが互いに意見を出し合い、2人の親たちにも意見を仰ぎながら、企画を練り上げていく。そこで一度、誰もが納得できるお弁当を完成させてから、さらに2人が気づかなかった問題点をあの開発部長なり土屋なりが指摘して、2人で落ち込む。一度、それぞれの理想を実現したと思ったのに、現場に諮ってみたら、まだまだ理想には程遠いものだった。

 そこまでやって、ようやく「理想と現実って何なん?」という題目にたどり着けるんだと思うんです。

 ホント、いろいろグロいんだけど、「なっちゃん落ち込む、結さんパクパク」の構図はこのドラマでも屈指のグロシーンだったと思いますよ。

花ちゃんも無能化された

 続いて花ちゃんと結さんが初めてちゃんと対話をするシーン(8歳にしてようやく)ですが、パパ(佐野勇斗)は星河の送別会で不在だそうです。退社してからもうずいぶん経ってるから、おそらく高校時代からの付き合いだったキャッチャー幸太郎あたりが辞めることになって、その縁で呼ばれたのかな。

 ここもグロいなと思ったんだよな。このドラマ、「夜、翔也不在」というシチュエーションを作ろうとすると、何カ月も前に辞めた会社の送別会くらいしかないということなんです。今の翔也には普段から飲みに行くような友達もいないし、ヨネダ周辺以外の人間関係がまったくない。結さんはいろんな人とほっつき歩いているのに、翔也は遮断され家族に隷属させられている。これも昨日、この夫婦の在り方について「昭和の家父長制を男女逆転させただけ」と書きましたが、まさしく「かわいそうな奥さん」の立場そのものに見える。

 このパターンね、久しぶりにお外でハメを外すことになった翔也さん、不倫しますよ。なんか普通に帰ってきてたけど、実はなるみ姉さんあたりに抱かれてるかもしれない。気を付けろ。

 そんで花ちゃんと結さんの対話ももう、初対面かと思うようなたどたどしさでしたね。結さんの「練習試合って練習のための試合やろ」というセリフもよっぽどですが、花ちゃんが何を言ってるのかも全然わからない。

「シュート外した」から「パパがガッカリする」「パパを喜ばせたいのに」という理由で落ち込んで、「自分のためにやれば?」と言われたら「パパと練習したいの!」と言って出ていく。最低限、聡明な子だというキャラクターが付与されていたはずの花ちゃんが、ここに来てヒステリーとしかいえないセリフを吐いている。もしくはこの母娘が、言葉で伝えることの無意味さを悟ってしまうほどに問答無用で断絶している。いずれにしろ結さんの都合で「娘が歯向かってきた」という記号を置きたいがために、花ちゃんのキャラも崩壊してしまった。

 なっちゃんも花ちゃんも『おむすび』における数少ない癒しキャラだったのに、どんどん闇堕ちしていっちゃってもう寂しい限りですよ。

地べた

 アユとリサポンのくだりね、本来はアユが東京に出向くべきだし、ハギャレン時代の上下関係からリサポンが強引に「アユさんにご足労かけられない! 私が行く!」と言って大阪に駆け付けてきたとしてもガーリーズの上の事務所で商品やコンセプトアートを見せながらアピールするべきだし、結さんの家で会う理由がまったく思いつかないわけですけど、せめてダイニングテーブルでやりなさいよ。なんで地べたなんだよ。「敬語使ったからコネじゃない」ってどういう理屈だよ。酔っ払いが「水も一緒に飲んでるから飲酒運転じゃない」って言ってるようなもんだよ。もうむちゃくちゃだよ。

 で、ネームバリューのために雑誌に取り上げてほしいという話ですが、いちおう確認しますけど令和元年ですよね。しかもリサポンは本誌ではなくWeb部門だという。

 ここね、結さんがスコッチエッグを通して学んだはずのことを忘れているように、アユもガーリーズの閉店セールで学んだはずのことを忘れているんですよね。

 このドラマは「SNSやHPで拡散すれば人が来る」という成功例を提示しています。それ自体、説得力のあるものではなかったけれど、とにかくそういう世界線だと『おむすび』が言うから、私たちはそう記憶している。

 そして元ハギャレン総長のアユは博多だけでなく、大阪でも一声かければギャルたちが大量に押し寄せて翔也をUNITEさせるだけのバリューがある人物で、東京で読モをやってたし東北にもアキピーがいるし、全国にギャルのネットワークを持っている。そのネットワークを駆使して一度は成功しているのに、今度は「ネームバリューがないから雑誌に載せて」じゃないんだよ。令和の出版不況ナメんなって話だし、「あのアユ」がいよいよオリジナルブランドを立ち上げたんですよ。それは全国のギャルにとってめっちゃ待望だし超アピールに協力しちゃいたくなるもんじゃないのかね。

 少なくとも『おむすび』はアユという人物をそれだけのカリスマとして描いてきたし、今さら「無名の新ブランド」という悩みは通らないよ。

 あとは久しぶりにハギャレン4人衆が集合して楽しそうでよかったね。スズリンのみかんもおいしそう! 何をしゃべっていたかは、あんまりよく覚えていません。カラオケ楽しんでくださいね。育児は翔也がどっかでやっとくんで。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

◎どらまっ子AKIちゃんの『おむすび』全話レビューを無料公開しています
第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/03/05 14:00