日曜劇場『キャスター』、のんが“小保方さんをイメージした科学者”役で地上波復帰 注目される「メディアの失敗」と「のんの演技」

俳優の阿部寛が、4月期に放送されるTBS系日曜劇場『キャスター』の主演を務めることが発表された。阿部にとって日曜劇場での主演は3年ぶり6回目となる。
同ドラマのテーマは、“報道番組を舞台に闇に葬られた真実を追求し悪を裁いていく”というもの。阿部が演じるのは、公共放送の記者から低視聴率にあえぐ民放局の報道番組『ニュースゲート』に引き抜かれた、型破りなキャスター・進藤壮一。そして進藤に振り回される総合演出・崎久保華を永野芽郁が、進藤に憧れるAD・本橋悠介を道枝駿佑が演じる。さらに2月27日発売の「女性セブン」(小学館)では、『キャスター』の物語中盤でのんが登場すると報じられている。
2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』のヒロインを演じ、大ブレイクを果たしたのんこと能年玲奈。その後所属事務所からの独立騒動もあり、地上波メディアから姿を消した。2016年には能年玲奈から「のん」に改名し、音楽活動、CM、映画でなどで活躍していたが、地上波の連続ドラマへの出演は11年ぶりだ。
“論文捏造騒動”の女性科学者を追い込んだマスコミの「罪」
前出「女性セブン」によると、のんが今回演じるのは、「STAP細胞」騒動の小保方晴子氏をイメージした科学者だという。
2014年、多能性を持った細胞「STAP細胞」を発見したという論文が科学誌「ネイチャー」に掲載され、一躍時の人となった小保方氏。しかし、後に論文におけるデータの不正が発覚し、論文は撤回された。釈明会見での「STAP細胞は、ありまーす!」という発言は、マスコミに大きく取り上げられたものだ。
最終的に実験で不正を行ったとして糾弾された小保方氏だったが、科学分野に明るい編集者は「報道」の罪も指摘する。
「STAP細胞の論文が発表された際、小保方さんが若い女性科学者ということで、研究の内容を精査せず、ただただ“リケジョの星”などと扱うメディアが多かったのは無視できない事実です。そもそも、学術誌に掲載された論文でも研究段階のものは多いのに、マスコミは『論文掲載=新発見』とばかりに、短絡的に報じてしまいがち。その後疑惑が浮上すると、今度は急激にバッシングの方向に舵を切りました。小保方さんはある意味メディアの都合にもてあそばれた“被害者”と見ることもできる。今回の『キャスター』では、そうした部分に踏み込み、マスコミ側の罪を浮き彫りにできるかどうかも重要だと思います」
『あまちゃん』『海月姫』『さかなのこ』 のんが演じてきた役どころの“共通点”
いずれにしろ、難しい役柄で、一つのキーポイントとなる部分を担うことになりそうなのん。その存在は“透明感”という言葉で表現されることが多いが、コラムニストでドラマ評論家の吉田潮氏は、のんの持ち味を「社会的な枠組みや役割に“不穏”を突きつける爽快さ」だと指摘する。
「NHKの朝ドラ『あまちゃん』でのんは、東京ではパッとしなかった地味な子が岩手で海女になり、アイドル、さらには女優を目指す役どころ。いわゆる前近代的な“女子っぽさ”をまったく感じさせず、自分が“カッコイイ”と思えた道を突き進む感じがハマり役でした。
その後映画版『海月姫』(2014)では普段はおどおどしてイマイチ自信がないのに、クリエイター気質が輝く部分では覚醒するクラゲオタク、『私をくいとめて』(2020)では脳内にイマジナリーフレンドがいるようなおひとりさま、『さかなのこ』(2022)でさかなクンを演じるなど、きちんと“自分”がありつつもどこか社会にうまく適応できない役を演じる時、のんの真骨頂が発揮される印象です」(吉田氏)
何色とも決められないのんの存在感は一見「透明」に思えるが、それは裏を返すと“社会的な生きづらさ”を内包する。吉田氏が続ける。
「生きる上でどうしても所属せざるを得ない組織や求められる役割がありつつも、のんは“これはそういうもの”だという色にとらわれない。もしかしたら生きづらいことも多々ありそうなんだけど、かといって自分を声高に主張することもない。やわらかさの中にある芯の通ったしなやかさは、価値観の多様化が叫ばれる現代こそ求められるものだと思います」(同)
どこまでも透き通った明るさは、その実、底が見えることもない。だからこそ、のんの演技は見る人に自由を与え、同時に自分が固定観念やイメージ像の押し付けをしていないか考えさせる瞬間がある。その意味で、今回のんが演じるキャラクターが本当に“マスコミに翻弄される女性科学者”なのだとしたら、相当な見ごたえがありそうだ。
(取材・文=サイゾーオンライン編集部)