「ママキャラ不要」若槻千夏の独自戦略 なぜ今、芸能界で求められるのか

タレントの若槻千夏が、各局のバラエティ番組で大活躍している。かつて長期にわたって芸能活動を休止していたこともあったが、ブランクで衰えるどころか以前よりも勢いが増しているように感じられるほどだ。
ヒロミのように長いブランクからカムバックして売れっ子に返り咲くケースはほかにもあるが、若槻の場合は「女性タレントとしては異例」の戦略で復帰を成功させたと業界内で指摘されている。
その異例の戦略とは、既婚者で2児の母でありながら「ママキャラ」をほとんど表に出さないことだ。結婚した女性タレントはこぞって「ママタレ」化するが、若槻はママ感をほぼ出さず、昔と変わらず「話術一本」で勝負している。しかも以前より話術に磨きがかかっているため、よりバラエティ需要が高まっているようだ。
また、若槻はファッションブランドのプロデューサーという顔もあるが、そういった女性タレントにありがちな「意識高い系のおしゃれ感」をまったく出さない。なおかつ、若槻は昨年8月にデビューから23年所属してきた大手芸能事務所「プラチナムプロダクション」を退所し、フリーになった。
「ママタレ感」にしても「おしゃれ感」にしても、本来なら女性タレントの大きな武器になるはずだが、それをあえて使わず、大手事務所の後ろ盾もない状態で、売れっ子に返り咲いているのだ。
ママタレ感やおしゃれ感を出さない理由
この若槻の戦略について、業界知識が豊富な芸能記者はこう分析する。
「芸能界復帰にあたって、どこに空いているポジションがあるのか、自分に適している役割は何かを熟考したという戦略家の若槻だけに、有能なタレントの多い激戦区の『ママタレ枠』はあえて避けたはず。意識高い系のオシャレ感にしても、それを売りにしている女性タレントがバラエティで活躍できているケースは皆無に等しい。セレブ感を出してしまうと共演の芸人が絡みにくくなるし、発言や行動も狭まり、お茶の間からの好感度も下がってしまう。
また、若槻はバラエティのひな壇に座るにあたって、家族やブランドの話は『一度話せば終わり』で、それほど引きがないため、あえてあまり表に出していないという。自身のノイズになるようなことは極力避けて、かといって必要以上に好感度を狙わず、ちゃんと本音をぶつけるというキャラクターを構築することで、他に代わりのいない稀有なポジションを獲得できたのでしょう」
長らく芸能活動を休止していた若槻は、2015年に芸能界に本格復帰。復帰に向けて「バラエティのひな壇に座っている女性タレントがどの番組に何本出ているか、ひな壇でどういう動きをしているか」などのデータを数年にわたり詳細にノートにまとめ、自分の類似タレントや「この番組では何を求められているのか」などを研究したと明かしている。
また、若槻は自身のブランドを大成功させた実績があるが、「芸能界に戻って『1年間で25億円稼ぎました』と言っても一周で飽きられる」とし、復帰後はファッションビジネスの話に頼らなかった。売れっ子に返り咲くために戦略的に自身のキャラクターや振る舞いを再構築したことを示唆している。
そう考えると、競合が多くなる「ママタレ感」やバラエティになじみにくい「オシャレ感」を出さないのは「あえて」なのだろう。その戦略が当たって大活躍となっているのだから恐れ入る。
なぜ若槻は芸能界で重宝されるのか
前出の記者はそんな若槻の業界内での評価について、このように証言する。
「10代の頃からバラエティでの対応力が高く、自分が何を求められているのか、どういう発言をすればいいのかを理解していた若槻。プラチナムプロダクションのデビュー第一号で、長きにわたって一人でタレント部門を支えてきたことで、自然と独立心が育まれたからこそ、空気を読む力に長けていたのだろう。ただ、事務所を支えなければいけないという大きな責任感が、2006年に体調を崩した要因のひとつになったのは想像に難くない。
そんな若槻も活動休止前は、若さゆえ、自分が前に出ようとする気持ちが強かったところもあった。だが2015年、本格的に芸能復帰する際に、若槻は『ひな壇で活躍したい』と事務所社長に伝えたという。芸人の戦場であるひな壇で勝負するということは、これまで以上に場の空気を読みながら、共演者の意図も組みつつ、自己アピールもしなければいけない。また、芸能界から離れていた時期にアパレル業界へ身を投じ、自身のブランド『W♥C』(ダブルシー)を設立。さらにデザイナーとしての若槻の会社として『WCJAPAN』を立ち上げるなど、さまざまな仕事相手と接してきたことで、芸能界とは違う処世術も学んだに違いない。
復帰後は自分が前に出るだけではなく、ちゃんと共演者を立てることも忘れない。若槻は本番前に率先して共演者とコミュニケーションを取るなど、雰囲気作りを大切にしているのは有名な話。あまり結果を出せてない共演者に気付いてパスを出したり、状況に応じて自分が悪役に回ったりするなど、雰囲気作りが本番にも活かされているので、芸人のみならず、俳優やアイドルからの信頼も厚く、それが芸能界で彼女が重宝されている理由だろう」
若槻といえば、もともとはギャルだったことで知られる。みちょぱや藤田ニコルらにも共通するが、売れるギャル系タレントはおバカキャラでも「地頭がいい」という特徴がある。たまたま復帰がうまくいったようにも見られがちだが、若槻の復活と現在の大活躍は綿密な計算に裏打ちされたものなのだろう。
(文=佐藤勇馬)