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2027年大河は松坂桃李主演『小栗忠順』 主人公が“小粒”になる一方で肥大化する“大河ビジネス”の光と影

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松坂桃李(写真:Getty Imagesより)

 NHKは3月3日、2027年度の大河ドラマが小栗忠順の活躍を描いた『逆賊の幕臣』に決定したと発表。主演は松坂桃李が務める。松坂が演じる小栗忠順(おぐり・ただまさ)は勝海舟のライバルと言われ、日本の近代化に貢献した人物だ。歴史好きにはおなじみの人物かもしれないが、やや小粒な印象は否めない。

『御上先生』松坂桃李の体の使い方

「大河ドラマは1963年にスタートし、現在放送中の『べらぼう』が64作目。2000年代に入っても源義経、徳川家康、坂本龍馬、上杉謙信、武田信玄、伊達政宗といった戦国武将や幕末の志士ばかりを取り上げてきましたが、徐々にネタ切れしてきて、地味な主人公が増えています。

 舞台設定の難しさも、地味な主人公が生まれる理由のひとつです。過去60以上の作品で、物語の舞台地は47都道府県を網羅しましたが、東京や京都が多くなるのは仕方ないとして、特定の地域ばかりに偏るのは好ましくない。そうなると“場所ありき”で主人公を決めることになり、結果的に知名度の低い人物が主人公になる年も出てきます。

 これまでの作品を見れば、高視聴率を取れるのは戦国時代か幕末。逆に数字を落とすのは“現代モノ”“女大河”“文化人や商人が主人公”というのが定説ですが、だからといって戦国時代や幕末ばかりやるわけにもいかない。考えることが多すぎる状況で主人公と舞台を決める作業は、本当に大変だと思います」(テレビ情報サイト記者)。

 コスパやタイパを求めるのが当たり前の現代において、毎週45分間のドラマが50回近く放送されるボリュームは圧巻だ。ただ、ビジネスが巨大化すれば、当然トラブルも生まれてくる。

「1990年代に大河ドラマで観光需要が増加する例が相次ぎ、招致活動がにわかに活発化。石田三成、楠木正成、徳川光圀ほか、全国各地で招致活動が行われています。2023年放送の『どうする家康』の場合、静岡県浜松市にもたらされた経済波及効果は300億円以上と言われますから、呼ぶ方は必死。

 近年は、記念館や歴史館といった施設を建てて集客するのがトレンドになっていますが、大河がきっかけで町が割れることも少なくありません。招致活動で官と民の足並みが揃わなかったり、招致が長引いて巨額の予算が市長選で争点になったり、招致に成功して浮かれてキャンペーンで大金を投じて問題になったり、トラブル例はいくらでもあります。偉人を巡って“生まれたのはウチの町”“育ったのはウチの村”と、取り合いをするケースもあります」(マネー誌記者)

民放元スタッフが見たNHKの“大河ドラマづくり”

 それでも、1ケタ台がしのぎを削るこの低視聴率時代、視聴率2ケタをキープする大河の役割は大きい。元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏が、民放の立場からNHKの大河ドラマづくりに言及する。

「大前提としてNHKのドラマづくりは、その時その時に訴えたい社会的、政治的なメッセージが求められます。さらに朝ドラと大河の舞台は、全国まんべんなくやらなくてはいけないという難題がある。なぜなら、全国に受信料を払ってくださる視聴者がいるから、その人たちを大切にしないといけない。

 地方も地方で、ご当地出身者が取り上げられると地方創生にもなるということで、陳情合戦です。その意味では、NHK大河は地方振興のために道路をつくる公共事業と同じ構図です」

 ドラマ制作にあたり、鎮目氏は、「民放は“視聴者が求めているもの”を考えるけど、NHK、とりわけ大河は“自分たちの都合”によって内容が決まる」と、“ベクトルの違い”を指摘する。

「大河の路線が変わってきたように感じる背景にあるのは、第一に今のNHKの喫緊の課題として、若者を意識する必要があるということです。これから長い期間にわたって受信料を払ってもらうには、やはり若年層にアピールしないといけません。

 そういう事情がある中で、そもそも今どきの若者は“定番”には飽きていて、刺激のある変化球がほしい生き物です。かつ経済成長が低迷している今の日本では、ギラギラとわかりやすく成功した人よりも、地味に努力して、密かに大きな案件に貢献していたようなタイプに光を当てたいというNHKの思惑もある。当時は負け組だったかもしれないけど、実はすごい人だった、というパターンですね。そうした人物像を考えた時、結局“誰?”という人選になるのは納得がいきます」

 鎮目氏は、そうしたNHKの姿勢について、視聴者にとっての“メリット”と“デメリット”を挙げる。

「民放だったら、『知名度がない』とか『地味』といった理由で通らないような企画が通るのは、シンプルに羨ましいです。視聴者にとっても、知らない人のことを知ることができるというメリットはあるでしょう。

 ただ、そもそも制作時に視聴者の方を向いていないので、たまにがっかり感がある。たとえば『どうする家康』のときは、戦いのシーンで馬のCGがひどく、ネットでは“メリーゴーラウンドのよう”と笑われました。こうなると、視聴者としては“バカにしてるのか”といった感想になってしまい、受信料を払うのがデメリットになってしまう。民放に比べれば圧倒的に潤沢な制作資金があるはずですが、前述のとおりさまざまなしがらみもあり、お金の使いどころがおかしいんでしょうね。最新の放送技術を駆使して、民放が絶対真似できないような、『さすがNHK!』というものを見せてほしいなと思います」

 定番から脱却し、刺激と工夫を凝らさなくてはならない大河ドラマが背負うものは大きい。

のん、小保方さんをイメージした役で復帰

(取材・文=木村之男)

木村之男

芸能記者、TVウォッチャー。1972年10月15日生まれ、東京都出身。大学時代にライターとして活動し始め、出版社~編集プロダクションを経てフリーに。芸能・カルチャー・テレビ・広告業界などに精通する。趣味はテレビに映った場所を探し出して、そこに行くこと。

最終更新:2025/03/18 22:00