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『おむすび』第121回 とことん感性が合わなかった、という結論にしておきましょう

橋本環奈(写真:サイゾー)
橋本環奈(写真:サイゾー)

 さていよいよ最終週、「おむすび、みんなを結ぶ」だそうです。

 毎朝、15分のドラマを眺めてはなんだかんだ言ってきましたけれども、結局のところ「感性が合わない」という話でしかないのよね。合う人がいることも否定しないし、作劇がどんだけダメでも愛せる作品というのはいくらでもあるんだけど、なんかすごく合わなかった。

『おむすび』不幸を記号化するばかり

 先に「これは感性が合いませんなぁ」という気分の問題があって、「なんで合わないのかなぁ」と考えて言語化する、という作業を繰り返してきた半年間だったような気がします。

 いずれにしろ、泣いても笑ってもあと5回ですからね。ぼちぼちやっていきましょう。思い返せばNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』を見ていて、泣いたことも笑ったことも一度もないような気がしますけども。

 第121回、振り返ります。

愛子アゲも止まらない

 とりあえず翔也(佐野勇斗)という人物は、ヨネダの二代目に収まるということで終了のようです。「守りてえんです」と言って、妻の結さん(橋本環奈)が「翔也が自分でよく考えて決めたことやけ」とフォローしていました。

 どういう話し合いがあって、翔也は何を「よく考えた」んだろう。この期に及んでですけど、私はまだ翔也という人が何を考えてその決断に至ったのかに興味があるんですよね。我ながらお人好しなもんだと思いますよ。ドラマが好きなんでね、そこで人が芝居をしている限り「勝手にしろ」と切って捨てる気にはならないんです。ヨネダの客入りだって気になるし、近所の連中とのコミュニケーションだってそうです。これからも寄り合い場として機能していけるのかどうか、心配事は尽きないわけです。

 そういうの、作ってる側が「どうでもいいだろ」と切り捨てて「正式に継ぐ」という結論だけ提示してくるところ、感性が合わないなぁと感じます。翔也が聖人の髪を切るシーンを挿入するタイミングも変で、これをやるなら「翔也、継ぎたいが自信がない」→「聖人が翔也に『俺の髪を切ってみろ』と言う」→「ちょきちょき」→「ほらみろ、おまえは一人前だ」→「おやっさんがそう言うなら自信を持って継いでみせます」のほうが、いろいろ伝わる気がするんだけどね。

 愛子(麻生久美子)のイチゴにしても、どうやら幸子(酒井若菜)の「イチゴは掛け合わせでいろんな品種が出せるのがおもしろい」という話に感化されてのことのようですが、その幸子は栽培農家であって、いつも「とちおとめ」しか持ってこない。掛け合わせのおもしろさは知識として語れても、実際に品種改良をやってるわけじゃなさそうなんですよね。

 ここも感性が合わないと感じる部分です。

 愛子がイチゴに興味を持つ要素のレイヤーが違うというかね、例えば翔也が床屋に興味を持ったのは、聖人が市井の人の髪を切りながらお客さんの話に耳を傾けていたからですよね、そういう通常業務の中に魅力を見出すのではなく、あくまでスペシャルな立ち位置に置こうとしているように見える。栽培が上手くいくのは当たり前、さらにわざわざ新種の開発という「単なる栽培農家との差別化」に興味を持たせようとするから鼻につくんです。これ、愛子と結さんに特に感じるところなんですが、この2人を徹底的に「アゲ」しているスタンス、逆に女性に対する蔑視を感じるんですよ。こうやっときゃ喜ぶだろ、こういう時代だろ的なね。ナーバスすぎますかね。

また「食べない」また「ゼリー」

 病院のほうでは大腸がん患者、外科医に理事長、事務局長と最終週に来て次々に新キャラが投入されましたね。つくづく、物語を蓄積できなかった『おむすび』という作品の弱さを感じさせます。患者のほうは症状をエスカレートさせるしかありませんからね、いよいよステージIIIだそうですよ。

 そのステージIIIに常食を出してたら、どうにも食べないから手術を延期しろと言い出す。その無理筋に共感させたいから、医者の側の性格を悪くする。

 食べない患者、性格の悪い医者、もう何度も見てきた構図です。最終週ですよ、いったい何を見せられているのか。

『おむすび』に出てくる患者の「食べない」についてずっと問題だったのが、彼らが「食べない」ことの原因、つまり「病気や薬の影響で食べられない」と「心の問題で食べられない」と「なんらかの意図があって食べたくない」の3つを混同して描いてきたことです。本来ならそれぞれの患者に対して違うアプローチがあるはずで、管理栄養士の領分もあれば医師や薬剤師の領分もある、メンタルの専門家につなぐ必要性がある患者もいたでしょう。それをすべて「結さんが解決」するために、同じアプローチをしてしまっている。

 しかもそのすべてが「なんらかの意図があって食べたくない」に帰結しているために、提示される解決策もゼリーだプリンだという専門性のないものばかり。

 加えて、今回なら点滴、糖尿病のときにはインスリン注射といった通常医療を必要以上に敵視してしまうので、結さんが「常食万能主義者のヤベーやつ」に見えてくる。

 このへん、医療ドラマとしての掘り下げ方の感性が合わないと言いますか、いやいや掘り下げ方云々じゃなく掘り下げてないだろと言いますか、結局のところ一度も知的好奇心を刺激されるようなことはありませんでした。

肚が決まってないんだよな

 アユ(仲里依紗)のキングオブギャルについては商売繁盛のようで喜ばしい限りですが、マキちゃんにそっくりの詩ちゃんを登場させるという荒業をやってきたわりに、作り手側の肚が決まってない感じがするんですよね。

 アユの中で、どれくらい「マキちゃんと似てる」と思っていて、それをアユがどう感じているのかを明言させることを意図的に避けてる。だから先週、詩ちゃんが児相に連行されていくときだったり、今回急に詩ちゃんが訪ねてきたときにアユが何を考えてるのかよくわからない。

 名刺を渡しておいて、なんだそのリアクションは? と思うし、そもそもピンポン押してきた客は馴染みではないはずなのにメールから目を外さないのも社会人としておかしい。このへん、演出プランと仲さんの演技プランがちぐはぐになっていると感じさせるところです。

 で、肚が決まってないのに「急に泊めてもらいに来る」という、さらなる荒業を繰り出してくる。

 児相とか警察とか捜索願とか全部スルーなのはもういいとしても、やっぱり「身寄りのない少女を引き取る」という行為にどこか美徳を感じているキモさだけは隠せてないよな、と思うんです。愛子を引き取った聖人もそうだけど、これって個人的な感想を言わせていただけば、マジでキモキモキーモのキモキーモなんですけど、ノの字はそうは思ってないんだろうな、こういう願望があるんだろうな。うーん、感性が合いません。

 それと、チャンミカの結婚を祝うのはいいとして、「アユは結婚せえへんの?」と問われたアユさんの返事もヤベーと思ったんだよな。

「しないよ、仕事しとうほうが楽しいし」

 ああー、対比しちゃったな、仕事と結婚を対比しちゃった。チャンミカだって仕事続けるだろ別に。結婚するしないと仕事するしないは関係ないだろ。最終週に来て、こういう思想が漏れ出ちゃう迂闊さ、なんかもうおっさん臭がダダ漏れで合わないわー。同じおっさんとして、反面教師にしていきたいところです。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/03/24 14:00