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『おむすび』第122回 最終週で主人公が邪魔になる 作劇と人物のノンデリカシー

橋本環奈(写真:GettyImagesより)
橋本環奈(写真:GettyImagesより)

 NHK朝の連続テレビ小説『おむすび』も第122回、残すところあと4回なわけですが、今日は過去イチで苦手な回だった気がしますな。何かこう、吐き気をもよおすと言いますか、それも極度の不快感を表す比喩としての「吐き気をもよおす」ではなく、あくまでナチュラルに「うっ……」てなる感じ。

『おむすび』とことん感性が合わなかった

 昨日は、結局このドラマとは「感性が合わなかった」という話をしましたが、今日はどちらかというと人間のもう少し社会的な部分と言いますか、人と人とのコミュニケーション、いわゆるデリカシーの面で「合わないわぁ~」と思いました。

 身寄りのないマキちゃん似の少女が押しかけてくる。まぁ、この「震災で亡くなった親友に顔が似ている」「身寄りがない」という人物設定の時点で「デリカシーがないなぁ」と感じていたわけですが、その子に対する米田家のみなさんの対応が、ねえ。私が詩ちゃんの立場だったらゲロ出ちゃう、というシーンの連発だったように思いますよ。

 第122回、振り返りましょう。

アユと話がしたかったんだ

 せっかくなので、詩ちゃんの立場から話を進めてみます。それは令和6年の出来事でした。

 私の名前は詩、田原詩。いろいろあって大阪の自立援助ホームで暮らしていました。私には家族はいないし、ここで暮らしながら仕事を探すしかありません。でも、どうしても居場所がなくなって飛び出してしまいました。

 私の手元には1枚の名刺があります。その名刺の主はアユ、あのKOGのアユです。実は少し前まで大阪の病院に入院していたんですけど、そのとき担当になった栄養士のお姉さんがアユだったんです。その栄養士が連れてきてくれたアユは、なぜか私にすごく優しかった。鏡も修理してくれたし、KOGの服もたくさんくれた。私が退院する日はクリスマスだったんですけど、また何かプレゼントを持ってきてくれていて、「メリクリ~!」って、いつも動画で見るカリスマギャルそのものだった。

 そのアユが「困ったことがあったら頼っていい」と言ってくれたから、私はアユを訪ねることにしたんです。だってほかに、行き場所なんてないから。もともと大阪には先輩を頼って来たけど、いつの間にか消滅してしまったから。

 KOGの呼び鈴を押すと、アユは一心不乱にパソコンに向かってメールを打っていました。やっぱりちょっと迷惑だったかな、そう思ったけど、勇気を絞り出して声をかけたんです。

「私のこと、覚えていますか?」

 そしたらアユ、「妹の病院に入院してた詩ちゃんだよね」って答えたんです。

 もう私、このときには、ここに来たことを後悔し始めていました。そんなわけないって思ってたけど、どこかで私は、アユとは友だちみたいな関係になれていたと思い込んでいたんです。たくさん服をくれたし、それがうれしくて、私はあの栄養士の出してきたブドウを食べることができて、それからごはんも食べられるようになった。アユのおかげで少し元気になったし、その感謝の気持ちはアユにも伝わっていたと思っていたから。だって「すみません」じゃなくて、ちゃんと「ありがとう」って言えたから。

 本音を言えば、「詩ちゃん! 会いたかった!」って、笑ってほしかった。抱きしめてほしかったなんて言ったら、それは贅沢かな。でもアユにとってはしょせん、私は「妹の病院に入院してた人」で、別に「また会いたい人」じゃなかったんだって、はっきりわかったんです。

 でも私は行くところがないから、「しばらく泊めてもらえませんか」って言ってみたんです。このアユという人は私の願いを断れない、なぜだかそういう確信だけはあったんですよね。

 思惑通り、アユは大阪の事務所から神戸の自宅に私を連れて帰ってくれました。アユの家は1階が理容店で、部屋がすごくたくさんありました。5~6人くらい、平気で泊まれる部屋数です。ここで一人暮らししているの、アユ? 無駄じゃない? 事務所の近くにマンション借りたら?

 そんなことを考えていたら、家に着いてすぐ、あの栄養士が来たんです。やっぱりアユ、私と2人じゃ気まずいのかな。

 栄養士は私の隣に座って、根掘り葉掘り聞いてきました。大人たちにはアユが連絡してくれたみたいだけど、栄養士の口ぶりは事情聴取みたいで怖かった。アユは「2、3日うちに泊める」って言ってくれたけど、栄養士は「泊めるって、2、3日も?」とか言ってる。どういう意味? 世帯主はアユだよね、おまえに関係ある? そもそも私はアユに会いにきたのであって、おまえ関係ないんだけど。

 アユは「自由に使っていい」と言って、自分の部屋に私を通してくれました。それはありがたいんだけどさ、なんかすごく空き部屋がたくさんあった気がするし、客人用の布団もたくさんあるような気がするけど、なんでわざわざ自分の部屋に通すのか意味がわかりません。もっと意味がわからないのは、栄養士です。部屋までついてきて「おなか空いとろう?」とか言ってくる。それ、どこの方言なん? わざとらしいんだよ。

 私はアユにだけお礼を言って、その日はゆっくり眠ることができました。なんか台所の方から「うちも泊まる」という栄養士の声が聞こえたけど、なんのつもりだろう。目が覚めたら大量の作り置きがあって引きました。でもまぁ、これだけ作り置きを作っていったということは、しばらくあの栄養士はこの家に来るつもりはなさそうで安心です。アユと2人なら、この人になら、私の話を聞いてもらえそうな気がする。そんなのはアユに対する、なんの理由もない甘えだってわかってるけど、どうしても私を見るアユの目は優しいんだ。なぜだかわからないけど、アユは私を、愛してくれているような気がするんだ。

 次の日の夜、アユと話そうと思って部屋から出てみると、台所にあの栄養士と病院で会ったバカに明るい中学生、それに知らない中年男性がいました。なんですか、これ? 当てつけですか?

 この花という子、すげえ距離感バグってて苦手なんだよな。栄養士も「花、詩ちゃんのことずっと気にしとったんよ」とか言ってるけど、だから何? こっちはおまえにも花にも会いたいなんて一言も言ってないんですけど。

 何度も言うけど、私はアユに会いたかっただけで、知らねえおっさんが直箸突っ込んでるスキヤキなんかまったく食べたくないんだけど。汚いし。あと入院中から気になってたけど、この栄養士の「食べり」ってのは何なん? 「かわいそうな詩ちゃん、家族の温かみを少しでも感じてね」とでも言いたいのか? うぜえんだよ、殺すぞ。私は生ぬるい家族団欒の雰囲気に耐えられなくなって、部屋にこもることにしました。栄養士がひとり分だけスキヤキを取り分けてきたけど、こいつと話すことなんか何もないんだよ。

 で、寝ようと思ったら今度は花が部屋に入ってきて勝手に布団を敷き始めた。しかももう寝たいのに、やたらと話しかけてくる。

 こういうやつはシカトすると余計に面倒になるんです。頭の中のスイッチを切って、こいつが思うような対応をしてやればいい。適当に話を合わせることはできる。それは私が生きる上で身に着けた技術だ。施設でもそうやって、うまくやってきたんだ。中学では友だちもたくさん作った。みんな、いなくなっちゃったけど。

「何話す? なんでもええよ?」

 話そうっておまえから言ってきて、「何話す?」ってなんだよ。話すことないなら寝かせろよ。あと安室ちゃんと浜崎あゆみが好きだって言ってるけど、「さんざんお母さんとアユおばちゃんに聞かされて」っていうのはウソだな。なんかそんな気がするわ。ウソつきとはまともに話さないほうがいいからな、適当に合わせて寝とこ。

みたいな感じかな

 要するにアユのマキちゃんへの思いを詩ちゃんという存在を利用して清算させようという作劇であって、それ自体にもデリカシーがないなと感じるわけですが、それをやるにしても結さんという存在がめちゃくちゃ邪魔になっちゃってるのです。それをやりたければ徹底的にアユと詩ちゃんを対峙させたほうがいいに決まってるのに、結さんをからませることで焦点がボケボケになってる。

 誰がどう見ても、もはやこのアユと詩の物語において結さんは「関係ねーだろ」という立場です。結さんがこの2人の間に割り込むことがノイズでしかない。花ちゃんと翔也はそのノイズの上乗せであって、特に激しくキャラ変している花ちゃんにはもはやなんの説得力もない。これは8歳時代の花ちゃんに友だちをひとりも作ってやらなかった脚本の手落ちです。人物の軸に何を置くかという話で、8歳の花ちゃんはサッカーだった、中学生の花ちゃんからはサッカーが完全に抜け落ち、その豊かな社交性が軸になっている。端的に、これは別人にしか見えない。

 最終章に来て、次々に新キャラが投入される。これまでいたキャラクターも別人に変貌している。むしろこのドラマは、急に昨日今日の回を見たほうが自然に入り込めるかもしれません。ここまで見てきた『おむすび』というドラマの記憶、人物についての情報、そのすべてがこの最終週を見届ける上でのノイズになっている。

 あと、もうどうでもいいけどNSTの話ね、ナースが6年前の飲み会での発言を根拠に薬剤師を詰めるあたり、これは極度の不快感を表す比喩として「吐き気をもよおす」シーンでしたね。なんでもかんでも険悪にしときゃいいってもんじゃないだろ。シナセンからやり直せ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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第1話~第56話
第57話~

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/03/25 14:00