多部未華子が「共感女優」として躍進する理由 『対岸の家事』でママ女優に進化

女優の多部未華子が主演するTBS系火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』が好評だ。女性視聴者を中心に共感の声などが寄せられ、多部の新たな代表作の一つになる気配が漂っている。
多部は以前から同性の共感を集める傾向が強かったが、今作では私生活を反映した「ママ」としての立場が際立ち、既婚者からの反響が大きい。多部の「ママ女優」への進化と、なぜ彼女は女性たちから支持されるのかについて、業界事情に詳しい芸能記者が解説する。
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女性視聴者が共感の嵐
同ドラマは、家族のために「家事をすること」を仕事にするため専業主婦になった主人公・村上詩穂(多部)が、さまざまな家事にまつわる問題を抱えた働くママ(ワーママ)や育休中のエリート官僚などの「対岸」にいる人たちと出会い、交流していく姿を描く。
4月1日に放送された第1話では、詩穂とワーママの礼子(江口のりこ)の出会いを軸に、他人からはうかがい知れない互いの苦しさが描かれた。専業主婦の詩穂は1日中ずっと子どもとしか関わらず、夫にも話を聞いてもらえないことから「大人と話がしたい!」と孤独に悩む。仕事とワンオペ育児を両立する礼子は自分の生き方を肯定したいが、あまりの忙しさにパンクしてしまい、思わず子どもを怒鳴りつけてしまう。
どちらがいい、どちらが楽ということはなく、双方とも苦しさを抱えている。これに対して、視聴者から「主婦にとって、あるある過ぎて共感しかない」「私は完全に江口さん側。爆発するシーンに共感しすぎて泣いた」「対岸の家事、どちらの立場もリアルが詰め込まれててすごく共感できる」などと共感の声が相次いだ。
今作が初回から大きな反響を呼んだのは、主演の多部を目当てに多くの女性たちが番組を視聴していたことが大きな要因だ。それがSNSの盛り上がりにつながったといえる。
多部といえば、もともとはアイドル女優的なイメージだったが、徐々に女性支持のほうが高くなっていった。女性視聴者が自身を投影しやすい「好感度女優」として恋愛モノなどで活躍していたが、近年は2019年に写真家の熊田貴樹氏と結婚、2021年に第一子出産と、プライベートで大きな変化があった。それに合わせ、今作では「既婚者」「ママ」のイメージを強く打ち出し、同じライフステージの同年代女性らの共感を集めることに成功したといえる。
多部未華子の業界評価
そもそも多部は業界内でどのように評価されていたのか。業界事情に詳しい芸能記者はこう語る。
「2002年にスカウトで芸能界入りした多部は、CGをふんだんに取り入れた『HINOKIO』(2005)と、中学生の青春を瑞々しく描いた『青空のゆくえ』(2005)というタイプの違う2本の映画で印象的な演技を見せ、第48回ブルーリボン賞の新人賞を受賞。早くから非凡な演技力が業界でも評判だったが、彼女の名を一躍高めたのは、連続ドラマ初出演でヒロインを演じた人気コミック原作のTBS系ドラマ『山田太郎ものがたり』(2007)。二宮和也と櫻井翔がW主演という話題性もあって高視聴率を記録した本作で、コメディセンスを垣間見せた多部は、たちまち売れっ子となった。
2009年にはオーディションで1593人の中から選ばれたNHK朝の連続テレビ小説『つばさ』のヒロインを務め、国民的女優の階段を上り始めた。昭和のホームドラマにオマージュを捧げた本作はドタバタコメディでせわしないという批判もあり、賛否両論で視聴率も振るわなかったものの、熱心な朝ドラファンには人気が高く、多部のコメディンエンヌぶりが冴えわたり、同作の演技などで2010年のエランドール賞新人賞を受賞。シリアスからコメディまでオールマイティーに演じることのできる実力派女優でありながら、三浦春馬とW主演を務めたキラキラ系恋愛映画『君に届け』(2010)では原作コミックの世界観を壊さない再現ぶりを見せ、同世代の女性からも高い支持を集めた。同じく三浦春馬と共演した映画『アイネクライネナハトムジーク』(2019)では、ナチュラルな演技で大人の恋を描き出し、さらなる成長を感じさせた。
どんな役でもストイックに向き合うことから、多部をリスペクトするスタッフや共演者は多い。多忙な中で休学しつつも6年間かけて東京女子大学現代文化学部コミュニケーション学科を卒業したところからも実直さがうかがえる。2024年に長年所属していた大手事務所から独立したが、事務所にいたころからプライベートを大切にして仕事をセーブするなど、自分の意思を最優先しているからこそ作品選びも慎重という印象。自分のイメージや、その年齢に合った役柄を演じていることが同性からも愛される理由だろう」
女性たちに支持されるワケ
多部は女性たちがあこがれるようなかわいらしさがある一方、仕事でもプライベートでも芯が通った印象があり、それが共感性や支持の高さにつながっているのだろう。今作で「ママ女優」への転身を見せたことで、今後も女性人気が高騰しそうだ。多部の女性支持の高さについて、前出の記者はこのように分析する。
「旧ジャニーズ事務所のタレントとの共演が多かった多部だが、共演した女優を叩きがちな『ジャニヲタ』からの好感度も高かった。これは変に媚びたところがなく、さっぱりしたキャラクターと、女性が親しみを持ちやすいルックスによるところが大きい。“女”を武器にせず、それでいて恋愛映画でも説得力を生み出せるのは、演技力があるからに他ならない。
しっかりとした実力があったうえで、苦手だというバラエティで感じさせる飾らなさや、さりげない共演者への気遣いなどが見えるのが老若男女問わず愛される理由。仕事とプライベートは完全に分けて、家には仕事を持ち込まずに常に家族ファーストだったり、芸能人同士のプライベートな付き合いを控えたりと、いい意味で庶民感覚を失わないところも主婦を中心にした女性層からの共感に結び付いているのかもしれない」
「ママ女優」に進化した多部はどんな演技で視聴者を魅了していくのか、今後の同ドラマの展開に期待したい。
(文=佐藤勇馬)