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『あんぱん』第10話 子役たちの芝居に打たれた幼少期の終わり 嵩が「泣かなかった」ことを覚えておきたい

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 千尋でか! というわけでNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第2週「フシアワセさん今日は」が終わりました。ラストにはヒロイン・今田美桜登場、幼少期はここまでですね。永瀬ゆずなさん、木村優来くんのお2人には心よりおつかれさまでしたと伝えたい。よきでした。

『あんぱん』物語のアラがあぶり出された

 第10回、振り返りましょう。

「歩く嵩」を描かなかった意味

 昨日は、御免与町から高知まで約10km(たぶん)を歩く嵩の疲労困憊ぶりを描かなかったことに不満を書き連ねたわけですが、今日の展開を見ると仕方なかったのかなという気がしましたね。

 母親の登美子(松嶋菜々子)が後妻に入った高知の家にやってきた嵩くん、久しぶりに会った母親はあいかわらずお美しい限りですが、冴えない顔をしています。

「何しに来たの?」

 会いに来たに決まっとろうが。そんな顔するならハガキに住所書くんじゃないよ。さらに「ずっと会いたかった」と切々と告げる嵩くんを横目に、帰ってきた旦那に嵩を「親戚の子」と告げるのでした。

「嵩、いい? ここに来ちゃ、もういけないの」

 そう言って、少しのお金を渡して息子を突き返そうとする登美子。ここで、嵩が元気である必要があったわけですね。この人にも人の心があるでしょうから、遠路はるばるやってきてズタボロになった嵩だったら、むげに嵩を突き放すことができなかったはずです。嵩は激怒してそのお金を払いのけなければならなかったし、その場から駆け出さなければならなかった。

 激怒できるのは元気な人だけですからね。エモと作劇の間でトレードオフが行われていたということで、昨日の不満については納得いたしました。登美子が再婚にいたった心情について描かれていないので、この人が実の息子にけっこうひどいことをしていることには納得してませんけど、まあ嵩目線で「母の言い草に納得できずヘイトだけをためていった」という描写でしょうから、これでいいのでしょう。それにしてもスケッチブックの母の絵を破くのはやりすぎだと思うけど。

「泣く嵩」も描かれず

 そしていよいよ「歩く嵩」の登場です。昨日ついGoogleMapsを調べてしまった弊害で、嵩が海辺を歩くシーンで「めたくそ遠回りだぞ」とか「そもそも方向逆だぞ」という無粋なツッコミを入れたくなってしまうところでしたが、波の音とキラキラ光る海面というのは、やっぱそれだけで画になるものですね。嵩の寂寞がよく伝わってきます。

 それにしても、泣かないんだな、と思ったんですよね。

 結太郎が死んだとき、のぶは泣けなかった。それはあまりにもショックが大きすぎて整理がついていなかったということでしたが、このときの嵩はどちらかというと理不尽に対する憤りが勝っているように見える。安易にそれを「寂しさ」と単純化して、泣いて消化するということをしない子であるという描写なのかもしれない。

 だとすれば、そこにやっぱり柳井嵩という人の作家性につながる萌芽を見るわけです。創作のエネルギーはえてして憤りから生まれたりするものでしょう。なんらかの悲しみや憤りを心で受け止めたとき、それを涙ではなく作品として放出する人なのかもしれない。

 そういう意図があったかどうか現段階ではわからないけれども、『あんぱん』というドラマを見ていく上で、このとき嵩が泣かなかったことは覚えておく必要があると感じました。

「美味しいものを食べ以下略」

 長い旅路を経て御免与近辺までたどり着いた嵩、いよいよ座り込んでしまいますが、そこに体よくパン売りに出ていた羽多子(江口のりこ)とのぶちゃんが登場。人っ子ひとりいない畦道でパン売りも何もないだろうと思うし、またぞろ「美味しいものを食べると悲しいこと少しは忘れられるけん」が発動するのかと辟易してしまうところですが、ここは芝居とカメラで押し切っちゃった。

 パンを食べ始めた嵩に水筒を差し出すのぶちゃん。しゃがみこんだときに下駄履きのせいでちょっと態勢を崩しかけてしまったり、水筒のキャップを外すのに手間取ってしまったり、そういう不器用な所作がいちいちいじらしいんだよな。あんぱんと水筒という、手持ちの武器を総動員して目の前の嵩を元気にしたいという本気度が伝わってくる。

 そしてあんぱんを食い終わると、すっくと立ちあがってひとりで去っていく嵩。一緒に帰ればいいのにとも思うけど、それより夕陽の逆光だよフレアだよ、という撮影に意識が持っていかれてしまう。別に逆光のフレアを演出に使うことなんて珍しくないけど、少なくとも朝ドラにおいてこういう光源と構図の計算された撮影が見られたのはホントに久しぶりなんだ。久しぶりなんだよ~!

そして本役登場

 あっという間に7年がたって昭和9年。いつもの通学路を成長した嵩(北村匠海)と千尋(中沢元紀)が歩いています。あの小さくてか弱かった千尋が兄の身長を追い越し、口ぶりもずいぶんしっかりした様子。一方の嵩はマンガに夢中です。

 そこに現れた高等女学校4年生ののぶちゃん(今田美桜)。あいかわらず「走る人」のようで、「ボケェ」とか言ってるのでハチキンぶりも変わっていません。なんか変顔してたけど、これは覚えておく必要はないかな。

 来週からはミドルティーンからハイティーンになったのぶ&嵩が描かれることになります。全然、どんな話をやるのか予想がつかないけど、楽しみですよ。

(どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん朝ドラ『あんぱん』全話レビュー

『おむすび』最終回もダメダメ

 

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/04/11 14:00