『あんぱん』第17回 薄ぼんやりなのにエモい嵩、物語の中心に「絵を描く」がなくなった

幼少期の2週はやりたいことがよくわかったので、いろいろ思うところはあるけど見やすくていいなと感じていたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、先週から本役パートが始まって、どうにも主人公の2人に共感しづらい毎日が続いております。
今日も冒頭から、参考書を抱えて家族のみんなに「行ってきます」を言っているのぶちゃん(今田美桜)を見ていて、「そうか今日も元気に登校か」と思っていたら柳井の家に来たので「あ、そういえば夏休みで嵩(北村匠海)と勉強してるんだった」となり、そうなるとあの元気な挨拶がのぶの日常を描いたものなのか、嵩と勉強できる楽しさにテンションが上がっているのか、どっちかよくわからなくなる。
そんな小さな「よくわからない」を受け流そうとしていたら、嵩は線路を歩いている。
おお、線路を歩いているぞ。なんだなんだ。
思春期の少年が線路を歩く風景はとっても画になるし、どうやらモデルとなったやなせ先生も線路を歩いたことがあるという史実があるらしい。でも、直感的に何をしたいのかわからんのよね。画がエモいので何か思考を巡らせてしまいたくなるのだけれど、何を思えばいいかがわからない。
これが令和の朝8時台の山手線駒込田端間だったら「あっぶね」ってすぐわかるんだけど、たぶん汽車が来るとしても数時間に1本でしょう、汽車が来ない時間にセンチメンタルな散歩をしているだけにも見えるし、絶望しているようにも見える。嵩にとって「線路を歩く」ということの意味を、例えば子どものころにママ(松嶋菜々子)に「親戚の子」と呼ばれた帰り道なんかで表現していたら、また見え方も変わってきていたと思うんです。
嵩のこのトンチキな行動の動機を示す回想が入っても、まだよくわからない。寛先生(竹野内豊)が千尋に「嵩のために身を引いたのではないか」と尋ねている。千尋は
「どうして?」と答える。寛「近頃の千尋を見ていたら、そう思う」と答える。
おもむろに線路に耳を当てて、そのまま嵩は自害するつもりだったようです。そうか、弟へのコンプレックスで死にたくなっていたのか。
通りがかったヤムおじ(阿部サダヲ)になんとか助けられて、嵩は叫びます。
「こんな情けねえ俺、もう嫌だよ、ヤダヤダ、うわーん!」
うわーん! じゃねえよ。さすがに北村匠海をしても、このセリフはちょっと無理でしたねえ。アンパンマンマーチの「そんなのはいやだ!」からのアレなんでしょうけど、これは無理だわ。
なんでこの嵩の悲しみが伝わってこないかというと、この子は絵を描く子だったからなんです。幼少期の嵩にとって絵を描くという行為は生きるためのよすがであり、逃げ道であり、心のド真ん中にあるものだった。それが思春期になって、定まらなくなってきているんですよね。あのチビ嵩の未来を見るなら、のぶのことが好きになったら一晩中のぶの似顔絵とか描いてそうだし、なんだったら全裸とか想像して描きかけてしまって自己嫌悪に陥ってそうだし、子どものころに魂が乗りまくっていた絵ばかり描いていた嵩という人が、思春期を迎えてその絵への情熱が冷めているように見える。
一方でマンガ賞で入選したり、どうやら吊るされている絵を見ると絵具を使った風景画も描いているようだ。どうやら絵を描くことを忘れてはいない。
医者になるとかどうとか、そういうのは別にいいとして、この嵩という人と「絵を描く」という行為が今、どういう形でつながっているのかが見えない。だからチビ嵩と今の嵩が同一人物に見えないし、今の嵩が何を考えているのかよくわからない。
例えばさ、ママが帰ってきた日にですよ、「千尋も素っ気ないし」って言ってたあの物憂げな横顔を鮮やかな水彩で描いていて、吊るされたそのママの絵をのぶが見て「ああ……」ってなって、千尋もそれを見て「あの人は兄貴を利用しているだけなのに!」とブチ切れるとか、そういう感じで嵩の物語の中心に「絵を描く」という行為が屹立していてくれると、だいぶ見やすいんですけど。
のぶも同じで、パンに対する情熱がなくなってるので、いまいち何を考えているのかわからない。
というわけで第17回、振り返りましょう。
「ビンタ」を置いておく作業
千尋はのぶに、嵩はヤムおじに、子どものころに兄弟で川を泳いで渡った話を聞かせました。あのころの兄弟の関係性が、正反対になってしまったと感じているのが嵩、何も変わっていないと思っているのが千尋でした。
そんな行き違いから兄弟は取っ組み合いのケンカを始めるわけですが、ここで嵩のセリフから答え合わせがありましたね。千尋という子は柳井の家に来たときパパ(二宮和也)とママのことは忘れていたという設定で、後に「実は覚えていたのでは?」と示唆されていましたが、明確に「おじさんとおばさんの顔色ずっと窺って、優等生になって」と言ってました。要するにシーンとしては描かれていないけれど、嵩は千尋が「気を使っていた」ことを知っていたことがわかる。これにより兄弟を手塩にかけて育ててきた千代子さん(戸田菜穂)はだいぶ不憫なことになりましたが、まあ構図は見やすくなったかなと思います。
このケンカについては、それ以外はなんだかなぁという感じでしたね。変に強引な展開だったと思います。コンプレックスが生まれてから爆発するまでが早いんです。嵩の鬱憤がたまり切ってない。このときの嵩が「絵描きになりたいのに医者にならされる」ことに納得いってないのか、それとも「バカなのに医者になれと言われた」ことに怒っているのか、前述した「絵を描く行為が物語の中心にない」ことで伝わってこない。
結果、なんかここらへんで「のぶが嵩をビンタする」というシーンを伏線として置いておきたかったのかなと邪推してしまう次第です。
とはいえ、蘭子と豪ちゃんや登美子と千代子など、まだまだ楽しみな物語は残っています。とりあえずのぶ&嵩を薄目で眺めつつ追いかけていきましょう。
あと、令和のお友だちは、川遊びにはライフジャケットな!
(文=どらまっ子AKIちゃん)