CYZO ONLINE > 芸能の記事一覧 > 『あんぱん』主人公2人の夢が疎かに

『あんぱん』第24回 「何をして生きるのか」と言いながら、主人公2人の「夢」が疎かに

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 そもそものぶちゃん(今田美桜)が「先生になりたい!」という夢を抱いた経緯にさえ納得していないわけですが、そう思ったなら思ったなりに進学先の師範学校での経験によってその夢が具体性を帯びてきたり、「やっぱ違うわ」と思い直すような出来事が起こったり、そういうことを期待していたわけですが、特に何も起こらず1年が過ぎてしまいました。

『あんぱん』蘭子が変な男に嫁いじゃう!

 昨日、うさ子(志田彩良)に「一緒に強うならん?」と言われて「同じこと考えちょった」と答えたのぶちゃん、それから一緒に強くなろうと切磋琢磨してきたのかと思いきや、なぎなたのシーンでは「秋となり」というナレーションが挟まり、「うさ子ちゃん、いつの間にそんなに腕上げたがね」とか、まるで久しぶりの対戦のようなことを言う。さらにうさ子が先生に感化されて(こいついつも感化されてんな)洗脳完了となった姿を見てポカーン。

 この1年ののぶの師範学校での生活として描かれたのは、最初にちょっと厳しい規則があって、なぎなたして、うさ子が「強うならん?」という言葉通りに「強う」なって、ポカーン。のぶ自身が何を感じて、この子にどんな変化が訪れたのかがまるで描かれていない。なぎなたはちょっとは上手くなったみたいだけど、初心者から始めて授業でやってたらそりゃそれなりに上手くはなるわいな。

 そんで今日は事あるごとにしょっちゅう御免与町に帰っているという、最初に提示された「厳しい全寮制」という設定と矛盾めいた状況の中で、何かやっている。

 たぶん今週、師範学校パートでやりたかったことは「日本が戦争に向かっている」という時代描写であって、その象徴としてうさ子への洗脳があったのだと思うんだけど、結果として「主人公の夢」が軽んじられることになってるんだよな。のぶの「先生になりたい!」という思いがどこにもぶつかっていない。作り手が「主人公の夢」を信じていないし、信じているフリすらしようとしていない。もう一回書くけど「主人公の夢」ですよ。物語のド真ん中にあるべきものでしょう。

 なんか今日の回で性根が見えた気がするね、NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第24回、振り返りましょう。

のぶ、おまえは知りすぎた

「蘭子は? 岩男と縁談進んじゅうってホンマ?」じゃないんだよ。誰がどう伝えたのよ。無理やり考えたら羽多子ママ(江口のりこ)が手紙で「ご機嫌いかがでしょう、蘭子は岩男さんと縁談が進んでおりまして」とか書いたと解釈するのが自然なんだろうけど、だとすればのぶを出迎えた婆ママメイコのリアクションが変だし、もとよりその縁談をのぶが「断固として阻止すべきである」と考えている理由もわからなすぎる。のぶのいない平日に蘭子と岩男の間で交流があったかもしれないし、ママの手紙(手紙ならね)にも「蘭子が嫌がってるから止めに来てくれ」とは書いてなかったよな。書いてあったら「なんで急に帰ってきた?」とはならんよな。何これ、何が起こってるの?

 そんでハイカラな喫茶店で岩男に返事をしようとしているところに現れて「蘭子はうちの家を助けるために結婚しようとしゆう」とか言ってる。この言葉を額面通りに受け取るなら、朝田家は蘭子が金持ちに嫁がなければ立ち行かない経済状況にあるということになる。朝田家はパン屋と石屋のダブルワークで、パンのほうは売り切れるくらい売れているわけだから、主に不況は石屋のほうだ。釜じい(吉田鋼太郎)が腰を痛めて仕事ができないから貧乏になって、蘭子はそれを察して岩男と結婚することにした、とのぶは思っているということ? なんでそんな詳細に知ってるのよ。釜じいはそんな蘭子の決断をどう思ってるのよ。岩男の両親はどうなのよ。豪商の長男の縁談でしょ、本人同士で話をつけるようなものでもないでしょう。眉毛整えろ。あと、朝田家はそんだけ生活苦しいなら娘を売り飛ばすような真似するより前にラジオ売れ。

 あとさ、この麗しい蘭子さんが陰で「食パンの角に頭ぶつけて死んでまえ」とか言ってたと知ったら、もっと好きになっちゃうと思うんですけど、それはそんなことない?

嵩、マンガの才能にあふれすぎ

 そんなドタバタの一方、嵩はまたマンガを雑誌に投稿して掲載されていました。何この人、出したら全部載るの? 「竜王は生きていた」なの? こんだけ掲載率が高かったら学校なんて行かなくても、1年くらい投稿しまくったら東京の編集者に目を付けられてマンガ家としてスカウトされそうなもんですけど。

 ここでも「嵩の夢」というものが軽んじられてる感じがするんですよね。絵を描いて生きていきたいという夢を抱いた人が、マンガを投稿して雑誌に掲載されるなんてすごいことじゃん。「おまえに言われて送ってみたんだ」じゃないんだよ。狂喜乱舞せえよ。美術学校の入試よりよっぽど倍率高いでしょう。

 こんなふうに「何をして生きるのか」なんて大げさなことを言っておいて、主人公2人の「何をして生きるのか」という決意を雑に扱い、ごちゃついた展開を優先するあたり、けっこうマジでこのドラマを信用できなくなってきたなと感じます。

 とはいえ、蘭子さんの「うちそんなええ子やない」のところ、『東京物語』の「私、ずるいんです」を思い起こさせるくらい良かったっす。こういう単体のシーンの魅力に抗えない。だからまだ見てられるんだけれども。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん朝ドラ『あんぱん』全話レビュー

『おむすび』最終回もダメダメ

どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/05/01 14:00