『あんぱん』第26回 凛々しい今田美桜、そのシーンの強さが物語の中で機能していない

演出部として今回もっとも力が入っていたのはおそらく、夕刻、棒切れでなぎなたの練習をするのぶ(今田美桜)の姿だったと思うんですよね。照明もバチっと決まってるし、今田さんの顔面もまぁ凛々しいのなんの。私が主役よ、という主張に満ちたシーンだったと思います。
シーン単体としては強いんだけれども、どうしても何が言いたいのかが伝わってこない。ただ強いシーンに感情が動かされるだけで、その動かされた感情の隙間に入ってくるものが何もない。
この直前、のぶは上京する嵩に短い手紙を書いていて、その手紙には「嵩、東京行っても頑張りよ! うちも頑張るき!」と書かれている。額面通りに受け取るなら、夢への第一歩を踏み出した嵩に思いを伝えることで自らの決意を新たにしたということなんだろうけど、のぶがこの時点で何を「頑張るき!」なのかがわからない。うさ子になぎなた勝負で負けたから、勝てるように「頑張るき!」なのか、思想教育に後れを取っているので他のみんなに追いつけるように「頑張るき!」なのか、現時点でののぶの抱える悩みや不満が具体的に描かれていないので、せっかく強いシーンなのに、画面が映えるだけで物語の中で機能してこない。
加えて、のぶがヤムおじ(阿部サダヲ)に手紙を託すという行間のシーンがどうしても思い浮かばないんです。
「ヤムさん、この手紙を嵩に届けて! 私はここで棒を振っているわ」と言ったということ?
あの手紙、ヤムが嵩に手渡したときに私は100パー「合格パン」の請求書だと思ったし、そういう視聴者の予断に対する裏切り、ハズしとしてのぶの手紙としたなら、あまりにも主人公の思いを雑に扱いすぎでしょう。
思えば、パン食い競争に参加するあたりまでは、どうにかこうにかのぶという人物を理解できていたのだけれど、ラジオ体操して「先生になりたい!」と言い出した時点から追いつけなくなってるんだよな。そう考えると、あのラジオ体操だと思っていた音声は人を狂わせる怪電波だったのかもしれない。
別にすげえつまんないわけじゃないし、不快でもないけど、何がやりたいのかいまいちわからない回が続いているNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第26回、振り返りましょう。
うさ子、おまえもだ
師範学校かと思ったら思想強めのなぎなた道場だった施設に通い始めて2年目。のぶとうさ子にも後輩ができて、うさ子は室長になりました。
ここでうさ子は寮のしきたりを後輩に叩き込もうとするわけですが、すごくたどたどしくてうまく説明できない姿が描かれます。
確かにこれは私たちが知っている頼りないうさ子なんだけど、この子は洗脳が完了して黒井先生も認める優等生になり果てたはずだよね。先週、そういう変化をエキセントリックに描いておいて、簡単にキャラを戻してくるのもまた乱暴だと感じる次第です。
意図としては、授業や黒井先生の前ではオフィシャルなのでピシっとしている、プライベートでは相変わらずふにゃついているということなんでしょうけど、寮生活における室長の役割はこの施設においてプライベートではなくオフィシャルでしょう。そうじゃなければ先代の室長はプライベートでも夜中の便所に年下の子を連れ出すサイコパスということになってしまう。
ほかにも、みんながスラスラ言える標語みたいなのをのぶだけ全然言えなかったり、師範学校に入ってから今日まで、あらゆる場面に納得感がないんですよね。体操の評価が抜群で入学したのぶがなぎなたで、半年かそこらでうさ子に負けるのも「抜群とは?」と思ってしまうし。
嵩パートはそれなりにワクワク感ある
一方で東京のデザイン学校に進んだ嵩。まず制服がオシャレでいいですね。座間先生(山寺宏一)のキャラもいい感じだし、健ちゃん(高橋文哉)も変だけど人がよさそうでいいですね。美人を数えるという奇行もわけわかんなくてステキです
のぶの師範学校への進学には決して感じられなかった「若者の世界が広がっていく」という感触が確かにありました。
でもさ、それをもって「東京には自由がある」として、「自由とは程遠く、もがくのぶでした」というナレーションで締めるのはちょっとご都合に過ぎやしませんかね。この子めちゃくちゃ自由じゃんね。「先生になりたい」という進路だって家族も視聴者もろくに説得しないまま突き進んでるし、厳しい全寮制のわりにすげえ家帰ってるし、町の有力者の長男の縁談を暴言を吐いて破談にさせてるし、標語とか覚えなくても退学にさせられたり懲罰を受けたりしてないし、不自由とは程遠い生活にしか見えないんです。
何度も言うけど、のぶの「先生になりたい」という思いにこっちが納得してれば「頑張れ」と思うんですよ。その納得がないから「不自由だと思ってるなら辞めれば?」としか思えないんです。
あと、嵩子の手紙にイラストが描かれていましたけど、またまた初めて見るタッチでしたね。これ、幼少期と新聞や雑誌のマンガと、部屋に吊るされていた水彩っぽい風景画と、今回のイラストと、同じイラストレーターが描いてるのかな。なんか筆致に統一感がなくて、「おおっ」ってなりにくいなと思いました。
今日はそんなところです。
(文=どらまっ子AKIちゃん)