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『あんぱん』第28回 「印象的なフレーズを置く」という作劇の借り物感が説得力を削いでいく

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 ヤムおじ(阿部サダヲ)についてずっと気になっているシーンがあって、朝田家にラジオが来た次の朝かな、のぶちゃん(今田美桜)がみんなを外に集めて体操の音頭を取っているとき、何か物憂げな顔をして自転車を押して去っていったんですよね。釜じい(吉田鋼太郎)なんかも腰を痛めつつ一生懸命ついていこうとしてて、ヤムなんて参加しててもいいし映さなくてもいいと思うんだけど、なんか意味深な描写だったんだよな。

『あんぱん』「創作だから薄い」ではダメ

 あのときのヤムが、今日の感じにつながってるのかな、と感じましたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、今回はヤムの深掘りと豪ちゃん(細田佳央太)&蘭子(河合優実)のセンチメンタル、あとはガールズトークでした。

 それにしてもヤム、まだ朝田の2階で寝泊まりしてたんだな。一緒に暮らしてるのにいつも外食してるんだこの人。なんで?

 第28回、振り返りましょう。

それはいいとする

 それはいいとして、寝っ転がってiPad miniくらいの大きさの何かを眺めているヤムさん。豪ちゃんが部屋に帰ってくると、おもむろに起き上がってこんなことを言い出します。

「行くな、戦争なんてろくなもんじゃねえよ」

 ちょっと茶化してからのシリアスモード。阿部サダヲという俳優の真骨頂なんだよな。こういう芝居の切り替えのコントラスト、もういろんな作品で何度も見てきていますが、ホントにこの人のすごい武器だと思う。トンって声質を変えて、重いセリフを置きにくる。

 昨日は豪ちゃんが招集されたことを知った蘭子のリアクションの芝居が素晴らしかったのでそれだけで満足感がありましたが、今日はこの阿部サダヲの「行くな」だけで見た価値はあったと思いました。『不適切にもほどがある!』(TBS系)、全体としては全然好きじゃなかったけど、6~7話あたりの阿部サダヲと河合優実はめちゃんこ良かったもんね。

 ヤムが豪ちゃんを釣りに誘って蘭子への思いを聞き出すシーンも、この「行くな」が効いてるから「戦争なんて、いいやつから死んでくんだからな」というフレーズの借り物っぽさも辛うじて薄らいでいる感じがしました。

 このフレーズの借り物感、寛先生(竹野内豊)がアンパンマンややなせ氏の著作からの引用を連発するのもそうなんですが、明確に『あんぱん』というドラマの弱点になってる気がするんですよね。視聴者を刺すことよりも、フレーズを置くことの話題性が優先されているというか、作り手側の商魂というか下心が見えてしまっている。せっかく演出と役者がいい仕事をしていて、そっちに没頭したくなっているところで、水を差されるんです。

 ヤムにはヤムの戦争体験があって、あのiPadにはきっと、そのときの手紙やら日記やらが保存されているのでしょう。例えば『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』で数々の戦地を潜り抜けてきた傭兵・ガランは「戦場ではまともなやつから死んでいく」というようなことを言いましたが、それは経験豊富な軍人だから、もっといえばたくさん人を殺した経験があるからこそ説得力のあるセリフなんです。ヤムには戦地に行った経験はあっても、ガランほどの覚悟を持って人を殺した経験があるようには思えないんだよな。印象的なフレーズを置くことで、逆に人物像がボヤけてしまっている。

 同様に、寛先生も「何をして生きるのか」的なことを死ぬほど悩んだことがある人には見えないから、フレーズが登場するたびに「誰こいつ」となってしまう。そういうことが起こっているように感じます。

ガールズトークは楽しいね

 豪ちゃんが釣りに行っている間の4人トーク、寝る前の親子トークとも、ガールたちが恋愛の話をしているのは楽しいものです。

 その楽しさの中に、やっぱりのぶという主人公のキャラクターの弱さが垣間見えていたように思うんですよね。メイコは子どもなのでいいとして、くらばあ(浅田美代子)は釜じいを、羽多子さん(江口のりこ)は結太郎(加瀬亮)をお慕いした経験があるわけです。蘭子もどうやら、本気で豪ちゃんをお慕いしているようだ。

 のぶさん、あんた、人を愛したことがあるのかい?

 嵩がのぶを思って足をバタバタしていたシーンはありましたが、のぶが嵩をどう思っているのかがほとんど描かれていないので、一挙手一投足にやっぱり説得力がない。おまえ恋愛したことねーだろ、と思ってしまう。

 結局、人の言葉のオリジナリティなんてその人の経験からしか出てこないものですから、のぶが上から目線で蘭子に何か言おうとするなら、やっぱりのぶの恋愛観を先に示しておく必要があったと思いました。

 その点、羽多子さんが蘭子に何か言いかけて「もう寝なさい」と締めたところは、その直前のラブレターのくだりも効いていて、この人のオリジナルの言葉だなという感触がありました。

 なんか日増しに主人公のぶ以外のサイドストーリーに実が詰まってきている気がして、期待と不安が入り混じる感じです。ほいたら、明日はどうなることやら。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/05/07 14:00