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『あんぱん』第37回 主人公周辺の消化試合感と「河合優実が泣くぞ」という不健全な期待

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 えっと、結太郎(加瀬亮)が生前、親交があったという機関長の妻がやってきて、その機関長は船の上でよくのぶ(今田美桜)の話を聞いていたのだと言います。機関長には3人の息子がいて、その誰かひとりでも船乗りになったら、結太郎の娘を嫁にほしいと考えていたと。

『あんぱん』朝ドラヒロインは軍国主義に染まれない?

 それを聞いて、羽多子ママ(江口のりこ)の「たまるか~!」が発動。その話をなぜかゴリ押ししてくる釜じい(吉田鋼太郎)に、のぶも「たまるか~!」で応答。その息子・次郎さん、たぶん次男なんだろうな、船の上で結太郎にも会ったことがあるらしく、のぶは見合いに行く決意を固めました。

 えっと、なんで? 全部なんで? このくだり、何もかもがわからなすぎて3回見直してしまいました。

 結太郎は貿易商だったそうで、支那やら京城やらにしょっちゅう行ってたという話はありました。貿易商と機関長が仲良くなることだってあると思うけど、「船の上でよくのぶの話をしていた」というからには結太郎は支那にも京城にも、いつも同じ船に乗って行ってたということなのか。どっかの港町の酒場で出会って、それから連絡を取り合ってたまに食事をしていたとか、そういう関係ならまだわかるんだけど、船の上で何度も語り合ったという設定は、ちょっとこじつけが過ぎるでしょう。のぶを見合いの場に引っ張り出すために、結太郎という死人のカードを切る作劇がいかにも安易といいますか、適当にやりすぎてる。

 で、「結婚する気はないが結太郎の話を聞きたい」という理由で見合いの席に着いたのぶでしたが、前提を適当にやってるので、次郎から聞き出したかったはずの「結太郎の話」もソフト帽くらいしかない。しかも次郎は次郎で「1年のほとんどは海の上なので結婚の必要性を感じたことがない」と言い出す。必要性は「産めよ育てよ」でしょう。戦時下なんでしょ、この人は武器弾薬や兵士の遺骨も運んでいるわけでしょう。何をぼんやりしたことを言っているの。

 しかも「機関士は航海の間、ほとんど機関室にいますが」とか言い出す。じゃあおまえのパパと結太郎はなんで自分の娘を嫁に出すとか、あんたの娘を嫁にほしいとか、そんな深い話までできるほど仲良くなってるわけ? たまに甲板に出るタイミングを結太郎が待ち構えてたということ? そのわずかな時間の中で子ども同士の縁談を成立させたの?

 慰問袋が役に立っていることを聞いたのぶが驚くのも変です。この人は学生時代に慰問袋を作りまくって現地の兵隊さんから大量のお礼の手紙を受け取って、「愛国の鑑」とはやし立てられてウキウキしていた人だったよね。子どもたちにそれを作らせるなら「役に立っている」という確信はあるはずだし、子どもたちにもそのお礼の手紙の話をしていて然るべきでしょう。

 もうなんだか、結太郎とか慰問袋とかのパーツを適当につなぎ合わせてそれっぽくやってるだけで、消化試合感がすごいんだよな。後に嵩(北村匠海)と結婚することはわかってるのに、のぶの中に嵩への思いを蓄積させることが全然できてない。嵩とケンカ別れしてから1年半だか2年だか経ってる間まったくアクションを起こしていないのに、帰りの電車でアンニュイな雰囲気を出したりして、何を考えているのか全然わかんない。すげえ泣いてたよな。泣いて、泣き止んで、それで終わりなの? 「伝えてないのは思ってないのと同じ」とかなんとか、偉そうに妹・蘭子(河合優実)に説教してたよな、おまえ。

 嵩に対してどう思ってるかわからないから、せめて仕事についてどう思ってるかくらいは固めといてほしいのに、「この戦争が終わったら何をしたいですか?」と尋ねられて「考えたこともないがです」と答えている。いや、子どもたちに体操を教えたいんじゃなかったのかよ。子どもたちと触れ合うのが大好きだってついさっき言ったじゃんかよ。

 これ、なんで「考えたこともない」かといえば「子どもを立派な兵隊にすることばかり考えている」からってことなんだろうけど、朝ドラヒロインをそこまで軍国主義に狂わせる描写ができないから何もかもが中途半端になって、のぶという人の人物像がまったく見えてこないんです。あと次郎くんも立派なカメラ提げてんだったら1枚くらいなんか撮ったら? 鳥とか一斉に飛び立ったSEとか入ってましたけど、シャッターチャンスじゃないですか。

 というわけで、なんかもうむちゃくちゃになってきたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第37回、振り返りましょう。

タイムトリッパー嵩

 嵩は東京で、あいかわらずのぶに手紙を書くか書かないかしかない。前述の通り、ケンカ別れから1年半なり2年なりが経ってるわけですが、2週間前くらいの感じなんですよね。あんたずっとそれやってたの? 東京では時間が止まっているの?

 これ、やなせたかしがモデルなんだよねえ。戦争にも芸術にもまるで感心のない呆け者になってますけど、大丈夫ですか。

と思ったら豪戦死

 そんな感じでヌルいことやっといて、最後に豪ちゃん(細田佳央太)の戦死報告を放り込んでくる。明らかに、視聴者にショックを与えてやろうという意図を持った作劇であって、こういうのはシンプルに不快なんですよね。スタート4日目に結太郎が死んだときも思ったんだけど、人の死をラフに扱いすぎなんだよな。物語よりインパクトが優先されている感じ。

 結果、「河合優実が極上の泣き芝居を見せてくれそうだぞ」という、実に不健全な期待を持って明日を待つことになりました。極上なんだろうな、今からニヤニヤしちゃうな。ニヤニヤさせんなよ、人が死んでんだぞ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/05/20 14:00