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ネタドラマじゃない!? 『子宮恋愛』で光る松井愛莉、自然体女優の実力

『子宮恋愛』松井愛莉、数奇なキャリアで注目度アップの画像1
松井愛莉(写真:Getty Imagesより)

 放送中の日本テレビ系ドラマ『子宮恋愛』がSNSなどで大きな話題になり、主演を務める女優の松井愛莉に注目が集まっている。SNSではネタ的に盛り上がっていた本作だが、徐々にドラマ自体を評価する声が上がり始め、これまでも難しい題材に果敢に挑戦してきた松井の注目度を高めているようだ。

 『子宮恋愛』は、モラハラ気味な夫に感情を抑圧されてきた主人公の苫田まき(松井)が、職場の同僚からキスされたことで「本能的」に恋に落ち、既婚者としての立場との間で心が揺れ動くというストーリー。よくある不倫ドラマの設定ではあるが、刺激的なタイトルや「私の子宮が恋をした」というキャッチコピーが放送前から話題になった。

 本編でも主人公がキュンとした時に「ポチャーン」という効果音と共にお腹のあたりを映し、「子宮が恋をした」様子を表現するなど、バカバカしい演出がSNSでウケて「ネタドラマ」として注目された。そうした演出を楽しんでいる視聴者がいる一方、本気で嫌悪感を抱く人たちや原作コミックとの違いを批判する人もおり、さまざまな意味で問題作として物議を醸している状態だ。

 炎上しつつもドラマの話題性が抜群となったことで、主演の松井に注目する視聴者が増加。もともとは正統派アイドルとして人気だった松井だが、近年は野島伸司氏が脚本を手がけたFODオリジナルドラマ『エロい彼氏が私を魅わす』で主演を務め、フジテレビ系ドラマ『ラブホの上野さん』や性体験がない30歳以上の男女が入学させられる学園を舞台にしたテレビ朝日系ドラマ『オトナ高校』でヒロインを務めるなど、何かと性表現のある作品に出演しており、そういった「クセ強め」のキャリアも話題になった。

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正統派アイドルから「自然体」女優へ

 松井のキャリアについて、業界事情に詳しい芸能記者はこう解説する。

「松井は『引っ込み思案だった性格が変わるきっかけになれば』と父親に勧められ、2009年にティーン向けファッション誌『ニコラ』(新潮社)のモデルオーディションに応募し、1万4076人の中からグランプリを獲得。同誌の専属モデルとしてデビューした。翌年からは、所属事務所のアミューズのキッズタレントが集まった女性アイドルグループ『さくら学院』1期生メンバーとしてアイドル活動を始めた。歌もダンスも未経験だった松井は、持ち前の負けず嫌いな性格で自主練習に励み、着実にパフォーマンス力を向上。三吉彩花が『さくら学院』にいたのも松井にとっては大きく、二人はグループ内ユニットを結成するなど、仲良しであると同時に互いに切磋琢磨していった。当時、中学生離れしたルックスとスタイルを誇っていた二人は公私ともに仲が良く、今も親交が続いているという。

 『さくら学院』を卒業後、2013年に結婚情報誌『ゼクシィ』(リクルート)の6代目CMガールに選出されたことが大きな転機になり、翌年にはリメイク版『GTO』(フジテレビ系)でゴールデン・プライム帯の連続ドラマに初出演。さらに映画初出演となった『想いのこし』の撮影で徹底的にしごかれ、現場で泣いてしまうほどだったというが、やり切ったときの達成感を味わったことで、芝居にやりがいを感じるようになったという」

 本格的に女優業で活躍するようになった彼女は、独自のポジションを築いていく。前出の記者が続ける。

「2015年に配信ドラマ『ラストキス』でドラマ初主演、2018年の『こんなところに運命の人』(CBCテレビ)で地上波連続ドラマ初主演、2020年の『癒しのこころみ〜自分を好きになる方法〜』で映画初主演と着実にステップアップしてきた松井の魅力は、なんと言っても等身大の演技だろう。決して熱演系の演技派ではないが、過剰に作り込まずに、すーっと役に溶け込むことでリアリティを生み出す。自然体なのでどんなキャラクターでも説得力を持たせられるのは他にない強みだ。物議を醸すような内容の作品に出演しても概ね好評で、同世代の女性から共感を呼ぶのも、そういった松井の資質からくるものだろう。

 2021年に主演を務めた『エロい彼氏が私を魅わす』は、数多くのヒット作を世に送り出してきた野島伸司氏が脚本を手掛けたドラマだが、松井を主演に推したのは野島氏。面識はなかったそうだが、それまでの出演作を見て松井に惚れ込み、『主人公の悪気なく周囲を翻弄してしまうキュートな愛らしさと、バカげてるけど、もしかしたら彼女が正しいのかもと思わせる、時折垣間見える芯の強さを感じて、松井愛莉さんにオファーしました』とコメントを寄せている。歴戦の名脚本家をうならせるほど、本人からにじみ出てくる、演技を超越した内面の魅力が松井にある証左だろう」

『子宮恋愛』はネタドラマじゃない? 松井の真摯な役作りに高評価

 放送中の『子宮恋愛』は当初ネタドラマとして消費されていたが、前出の記者は松井の好演ぶりや彼女の今後についてこう評する。

「『子宮恋愛』で松井が演じる苫田まきは、子どもが欲しいのに夫とのレス状態に悩み、会社の同僚の男性に惹かれて子宮を疼かせてしまう女性。松井は周囲に本音をはっきり言えず、過剰に他人の目を気にしてしまうまきの人物像に、昔の自分に近いものを感じて共感したという。だからこそ、まきの感情を巧みに演じることができるのだろう。一歩間違えればコメディになりかねないキャラクターだが、モノローグだけではなく表情で細やかな感情を表現するなど、松井の真摯な役作りが切迫感を生み出している。

 本作は強烈なタイトルや、劇中でまきが子宮を疼かせる描写などで放送前から炎上してしまったが、それによって多くの視聴者が関心を寄せることとなり、第1話のTVer再生数が1週間で100万回を突破するなど注目度が高まった。放送を重ねるごとに、純粋にドラマを楽しんでいる視聴者が増えているのは、松井をはじめとしたメインキャストが役に向き合い、しっかりとした人間ドラマを作り上げているからだろう。

 松井はまだ地上波ゴールデンタイムの連続ドラマで主演を務めたことがないうえに、代表作といえるような映画作品もないため、一般的な知名度はそれほど高くないのが現状。そういう意味では、近年の出演作のような話題先行のクセ強ドラマに出演することによって、多くの人たちに知ってもらう選択は悪くない。ただ、類いまれな演技の才能があるだけに、そろそろクオリティ重視の作品に出演して、女優として一皮むけてほしいところだ」

(文=佐藤勇馬)

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佐藤勇馬

1978年生まれ。新潟県出身。SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。著書に『ケータイ廃人』『新潟あるある』がある。

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最終更新:2025/05/28 09:00