CYZO ONLINE > 芸能の記事一覧 > 『しあわせは食べて寝て待て』隠れたヒットで桜井ユキに脚光

『しあわせは食べて寝て待て』隠れたヒットで桜井ユキに脚光! 遅咲きデビューから業界屈指の実力派に

桜井ユキ 『しあわせは食べて寝て待て』高評価で脚光の画像1
桜井ユキ ファースト写真集『Lis blanc』SDP/Amazonより

 NHKドラマ10で放送された『しあわせは食べて寝て待て』が27日に最終回を迎えた。前評判的にはそれほど注目されていなかった本作だが、穏やかな空気感に癒されたという視聴者が続出し、今期ドラマの中で隠れたヒット作になった。それと同時に、これまで凛としたイメージの役が多かった主演の桜井ユキが「ほっこり系」の本作で新境地を開き、大きく評価を高めたようだ。

多部未華子が「共感女優」として躍進する理由

穏やかな世界観が視聴者の癒しに

 『しあわせは食べて寝て待て』は、水凪トリ氏の同名コミックの実写化。38歳独身でバリキャリだった主人公の麦巻さとこ(桜井)が、膠原病(こうげんびょう)を患ったことをきっかけに退職を余儀なくされて生活が一変。身体に無理のないよう週4日のパート勤務に切り替え、家賃の安い団地で質素な生活をしながら、薬膳料理や近隣住民との交流を通して小さな幸せを見つけていくヒューマンドラマだ。

 さとこは隣室に住む90歳の大家・美山鈴(加賀まりこ)にお節介を焼かれたり、その同居人・羽白司(宮沢氷魚)が作る薬膳料理と出逢ったりしたことで、少しずつ元気を取り戻していく。

 派手な演出や驚くようなストーリー展開はないため、放送前はあまり注目されていなかったが、第1話が放送されるとドラマファンを中心にSNSで高評価の声が続出。第1話が「NHKプラス」の視聴数で、大河ドラマと朝ドラを除くNHKドラマ史上最高の数字を叩き出した。

 本作の大きな魅力は、一般の視聴者、とくに主人公と同年代の女性が共感しやすい設定にある。突然の病気で今の生活が続けられなくなる不安は誰にもあるが、多くのドラマや映画ではそこで劇的な出来事が起こりがち。しかし、本作は特別なことが起きるわけではなく、今の自分にできることをやることで生活を続け、収入が下がっても工夫してどうにか健康的な暮らしを送ろうとする、リアルな主人公の姿が描かれる。

 また、バリキャリだった主人公が通院先の病院でフルタイムの仕事ができなくなることによる生活の不安をこぼした際、担当医から「婚活してみたら」という言葉を浴びせられるのも“女性のリアル”だ。

 そうした現実的な世界観がある一方、団地を中心にした人々との交流は温かく、観ている者を幸せな気持ちにさせる。それがよくあるショッキングな展開やストーリー考察などをウリとするドラマに疲れた視聴者に刺さったようだ。

 本作が注目されたことで大きく評価を上げたのが主演の桜井だ。病気で落ち込んではいるものの、決して自暴自棄になることなく淡々と暮らしを続けていく主人公を繊細に演じ、作品のリアリティを大きく高めた。これまでは凛とした「強い女性」を演じることが多かったため、まったくタイプの異なるヒロインを好演したことは、ドラマファンの間でも反響を呼んでいる。

23歳の遅咲きデビューから業界屈指の演技派女優へ成長

 女優として「遅咲き」だったという桜井の経歴について、業界事情に詳しい芸能記者はこう解説する。

「小学3年生のときに女優になる夢を抱いた桜井は、中学時代に地元・福岡の芸能事務所に応募して書類審査に合格するも、親に反対されて断念。高校時代もミスコンでグランプリに選ばれたときに東京の芸能事務所から声がかかったが、高校を卒業するまで芸能活動はダメだと親に言われたためにチャンスを逃した。そうしたことが高校在学中に何度もあり、結局、高校卒業後は地元で就職した。

 それでも女優の夢をあきらめきれず、高校時代に連絡をくれた芸能事務所に再度連絡を取り、23歳で上京。2011年より舞台演出家の石丸さち子が主宰する『俳優私塾POLYPHONIC』に通い、本格的に芝居を学ぶという、遅咲きのスタートだった。同年から舞台で女優デビューを果たし、2012年に映画デビュー。以降、映画を活動の中心として、鶴田法男監督の『トーク・トゥ・ザ・デッド』(13)、山崎貴監督の『寄生獣』(14)、石井岳龍監督の『ソレダケ / that’s it』(15)、三池崇史監督の『極道大戦争』(15)など、世界的にも評価の高い監督の話題作に次々と出演した」

 その後、桜井はターニングポイントとなる作品に出合う。前出の記者が続ける。

「2016年に『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)で連続ドラマ初出演。翌年には『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY-リミット・オブ・スリーピング ビューティ-』(17)で、30歳にして映画初主演を果たした。同作で演じたのは女優を夢見て上京し、小さなサーカス団でマジシャンの助手をしている、30歳を目前に生きる目標を見失った主人公。マジシャンの催眠術によって妄想と現実の境界を彷徨うという作品で、自身の置かれている境遇と近かったのもあってか、迫真の演技を披露した。

 桜井自身、本作をターニングポイントに挙げており、そのときの自分が持てるすべてを出し切って、身軽になり、撮影を終えた30歳ぐらいから役を客観視できるようになったと語っている。また本作で濃密な濡れ場を繰り広げたが、翌年の出演映画『娼年』(18)でも官能的なシーンを体当たりで演じて、存在感を放った。

 以降、桜井はフジテレビ系ドラマ『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』で演じた、両親を死に追いやった男に復讐するために虎視眈々とチャンスを伺う俳優のマネージャー、日本テレビ系ドラマ『真犯人フラグ』での常軌を逸した行動をするシングルマザーなど、見た目の印象もあって気の強い女性を演じることが多かった。しかし、等身大の女性を演じるときのリアリティも抜群で、3児の母で東京地方裁判所第3支部第1刑事部(通称:イチケイ)の書記官を演じた『イチケイのカラス』(フジテレビ系)や、生徒思いの高校の養護教諭を演じた映画『君は放課後インソムニア』(23)などでの演技は秀逸。そうした自然体の演技には、女優になる前の社会人経験が活かされているのかもしれない」

早くも続編希望が続出、本格ブレイクに期待する声も

 『しあわせは食べて寝て待て』での主人公役の意外なハマりっぷりや、同作の評価について、前出の記者はこう語る。

「年々、役の幅が広がっている桜井だが、最近は等身大の女性を演じることが増えている。『しあわせは食べて寝て待て』で演じたのも、膠原病を患ったことでマンションを買う夢をあきらめ、週4日のパート勤めで築45年、家賃5万円の団地に移住する独身女性の麦巻さとこ。加賀まりこ演じる大家と、宮沢氷魚演じる大家の同居人の影響で薬膳料理に目覚めた彼女が、団地やパートの職場の人たちの温かな人柄に触れて癒されていくというストーリーで、大きな事件が起きるでもなく、日常の些事が穏やかに描かれた。

 一見すると地味なドラマだが、エピソードごとのゲストも含めて芸達者な俳優たちとの情感豊かなやり取りは、静かな感動を呼び、日常生活の中にある“きらめき”を浮かび上がらせた。加賀や宮沢と3人で薬膳料理を食べるシーンは本作の大きな見どころだが、そこで交わされる会話や、心からおいしそうに料理を食べるしぐさは癒しを与えてくれる。2022年に俳優の黒羽麻璃央と結婚し、心に余裕が持てるようになったと語っている桜井だが、そうした私生活での心境の変化が、芝居にも良い影響を与えているのだろう」

 本作は早くも続編希望の声が多く上がっており、もしシリーズ化すれば桜井にとって間違いなく代表作になるだろう。本作で評価を高めた桜井の本格ブレイクを予測する業界人も多く、今後も目の離せない存在となりそうだ。

(文=佐藤勇馬)

グラビア出身のネクストブレイク女優

河合優実『あんぱん』の“3姉妹対決”で一歩リードの理由 若手らしからぬ演技力の秘密は

佐藤勇馬

1978年生まれ。新潟県出身。SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。著書に『ケータイ廃人』『新潟あるある』がある。

X:@rollingcradle

最終更新:2025/05/31 09:00