『罵倒村』ネトフリ2週連続1位の大ヒット! 「コンプラ解放区」となった配信系バラエティの今後

テレビプロデューサーの佐久間宣行氏が手がける大型バラエティ企画『罵倒村』の新作が5月13日よりNetflixで独占配信され、Netflix週間TOP10で2週連続1位を獲得するなど人気を集めている。
なぜそこまでウケているのか。キャスティングの妙やコンプラから解放された配信系バラエティの今後なども含め、お笑い事情に詳しい芸能ライターが解説する。
「地上波で放送できない面白さ」に視聴者喝采
『罵倒村』は、佐久間氏のYouTubeチャンネルの大型ロケ企画から誕生。一歩足を踏み入れた途端に住人たちから理不尽に罵倒される村に迷い込んだ芸人たちが、激しい罵倒に対していかに怒りを我慢できるかを競い合う企画だ。「怒ったら即脱落」となり、「笑ってはいけない」ならぬ「怒ってはいけない」というルールになっている。
今回の企画に参加したのは、渡部建(アンジャッシュ)、渡辺隆(錦鯉)、屋敷裕政(ニューヨーク)、長谷川忍(シソンヌ)、津田篤宏(ダイアン)、高野正成(きしたかの)、すがちゃん最高No.1(ぱーてぃーちゃん)の7名。
教団の教祖役で西野亮廣(キングコング)、罵倒村の住民役で久保田かずのぶ(とろサーモン)、木本武宏(TKO)、みりちゃむ、加護亜依、古田新太ら多彩なメンバーが出演し、番組MCは東野幸治と森香澄が務めている。
渡部の過去のスキャンダルを徹底的にイジるなど、地上波ではできない「コンプラ解放区」だからこその笑いがウケており、SNS上では以下のような声が上がっている。
「今のテレビでは絶対に放送できないコンプラ無視のバラエティ。めちゃくちゃ面白かった。キンコン西野の場面はここ数年で1番笑ったかも」
「罵倒された芸人さんたちが本当にキレているのか、強めのツッコミなのかという、絶妙なラインのリアクションが面白い」
「ちょっと下品すぎるところもあるけど、渡部さんと西野さんが面白すぎた」
「名斬られ役」がそろったネトフリ版『罵倒村』
なぜこれほど『罵倒村』はウケているのか。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏はこのように分析する。
「フォーマットはまさにダウンタウンの『笑ってはいけない』シリーズ。『笑ってはいけない』もそうですが、我慢や抑制を強いられる芸人の姿はおもしろい。そしてそういう芸人に企画として何をしてもいいから、これまたおもしろい。標的となる芸人と仕掛け人たちのせめぎ合いは、バラエティ的に絶妙なバランスを生むのだと思います」
キャスティングの妙も本作の面白さの大きな要素だ。田辺氏は続ける。
「今回の『罵倒村』のキャストは、今のお笑い界でトップの『斬られ役』がそろった印象です。特にアンジャッシュの渡部さんは、あれだけしつこく多目的トイレ不倫について触れられても、すべて受けに徹していました。村の教祖役だったキングコングの西野さんとの“一戦”は実にすばらしく、斬られて、斬られて、そして最後に地上波にいまだに呼ばれない理由として西野さんから『余罪がないわけがない』とトドメを刺される姿は、名斬られ役と言ってもいいほどです。
渡部さんが受けの斬られ役ならば、ダイアンの津田さんは攻めの斬られ役。芸風に関して罵倒されるたびにいちいち反抗的な態度を取りつつも、なかなか斬られないのですが、どれだけ粘りに粘っても最後にはド派手にやられる。エンターテインメント性に富んだ斬られ役で、まるで時代劇の名斬られ役だった福本清三さんのようです」
渡部や津田以外にも「名斬られ役」がそろった。田辺氏は言う。
「錦鯉の渡辺さんは斬られて喜ぶタイプ。本編の中で『ドM-1チャンピオン』という異名がつきましたが、そうやって性癖を絡めることで、新しい斬られ役のスタイルを確立しました。渡辺さんは漫才のときはツッコミで、相方の長谷川雅紀さんの頭を叩くなどしています。そんな人が実はズタズタに斬られることで快楽を得るタイプだという“ねじれ”がおもしろいですよね。
ネタバレになってしまいますが、序盤、きしたかのの高野さんがすぐに脱落します。高野さんはどちらかというと正統派な斬られ役。うまく散ることができる。『罵倒村』のルールを説明するのにちょうどいいモデルケースだった気がします。それから残った人たちはクセのある斬られ役ばかり。キャスティングはもちろんのこと、斬られ役としての立ち位置も盛り上がりに生かされているのではないでしょうか」
コンプラでガチガチの地上波より、視聴者は配信系バラエティに期待か
佐久間氏のセンスが炸裂した企画ともいえるが、その点について田辺氏はこのように語る。
「佐久間宣行プロデューサーは、映画監督の三池崇史さんやクエンティン・タランティーノさんみたいな精神性の持ち主だと私は思っています。規模感が大きい企画であればしっかりメジャーなことをやり、制約が少ない企画であれば思う存分に実験性とインディーズ精神を込める。
『罵倒村』は、内容的には佐久間プロデューサーのインディーズ精神を根底としている一方、村のセット、物語を成立させるためのシミュレーション、村人役のキャストたちの芝居の段取りなども含めて非常に大がかりな体制で製作されています。そういったところもまた、三池崇史監督やクエンティン・タランティーノ監督の映画みたいです」
視聴者の反応で目立っているのが「コンプラでガチガチの地上波より、配信系バラエティのほうが面白い」という声だ。実際、本作における大きな笑いどころは地上波だとNGになると思われるものが多く見受けられた。地上波を凌駕しそうな配信系バラエティの今後について、田辺氏はこのように見る。
「配信系バラエティは今作のように、大きい枠組みの中、作り手が自分の個性を発揮できるフィールドになっています。モノづくりとして健康的でいい気がします。もちろん配信プラットホームごとにさまざまな制約はありますし、なんでもアリというものではないですが、しかし作り手のやりたいことが尊重され、『自分』を押し殺すようなことをしなくていい。そういった土壌は若手が育ちやすく、未来への期待感もふくらみます。
その背景にはやはり、配信番組は『視聴者が見たいものを自分で選択できる』というシステムだからという点がある。配信系はレイティングが設定されていますから、地上波のように全世代に向けて製作しなくていい。レイティングに沿っていればいいので『自由度』は広がり、その分、視聴者としてもおもしろさへの期待感が地上波より大きくなる気がします」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。