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『あんぱん』第44回 状況設定も人物描写もすべての矛盾が爆発したサイテー回

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 何年経ってんだっけ? ヤム(阿部サダヲ)が朝田の家でパンを焼き始めて、もう10年以上経ってますよね。そもそも結太郎(加瀬亮)が死んで、羽多子(江口のりこ)は家計の足しにしたいと決意してパン屋をやることにしたんだよね? そのとき、羽多子はヤムにパンの焼き方を教わりたいと言ってたはずなんです。その後、ヤムは自由人だからしょっちゅうフラリと旅に出てしまうから不在のときもあるけれど、朝田パンはささやかに営業を続けていましたという話になってた。

『あんぱん』継ぎはぎの「感情らしきもの」

 それが今日になって、陸軍から乾パンの大量発注を請けることになると、朝田パンはささやかどころか近所でも評判の、高知でイチバンのパン屋になってる。しかも実際のパン作りはヤムの専売特許で、羽多子たちはヤムからなぁーんにも教わってなかったという。ヤムが焼かなきゃ朝田はパンを売れない。そのヤムには食事も与えず、寝床だけをあてがって、朝田家のためにパンを焼かせ続けてきた。

「ヤムさん、明日も早いき」

 羽多子のこのセリフには寒気がしましたね。ヤム、ひとりで早起きして、のぶ(今田美桜)や羽多子が寝ている時間からパンを焼き始めてんだ。どんだけ傲慢なんだよ、この家族は。

 ヤムもヤムで、千尋(中沢元紀)に「バカだ」とか「適当に生きる」とか偉そうに思想を語ってるけど、実際には朝田に隷属して健気にパンを焼き続けてきたじゃないか。その言葉通り、そしてかつてナレーションにあった通り頻繁にフラリ旅に出るような男だったら、朝田パンは長期休業を繰り返す不定期営業のパン屋ということになり、当然、そんなパン屋が評判になるようなことはないはずです。だってヤム以外にパンを焼けるヤツは1人もいないんだろ? もう矛盾が爆発してしまっている。

 弁護士になるのをやめて医者を目指す千尋の決意を軽々しく扱うのもよろしくない。寛(竹野内豊)が急死して無医村になった御免与には1日も早く医者が必要だし、千尋は授かったその人生を自分を育ててくれた御免与という町のために使いたいと考えている。しかも、血が苦手だけどそんなことを言ってる場合じゃない、この町には医者になれるような優秀な人間はひとりもいないし、兄貴もバカだし、自分しかいないんだという悲壮な決意じゃないですか。自分の優秀さを自覚した上で使命感を宿して、改めて御免与のために医者を目指すなんて、立派なことじゃないの。簡単にバカとか言ってんなよ。人の人生を気安く値踏みしてんじゃないよ。

 そしてのぶです。あんたはいったい誰なんだ。

 NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第44回、振り返りましょう。

嫌なことも笑ってやる女・のぶ

 まず、新婚ののぶさんは夫の次郎(中島歩)が航海に出ている間、実家に戻ってるんだそうです。確か次郎は1年のほとんどを海の上で過ごすと言ってましたね。だから結婚の必要性を感じないと。そうであれば、結婚した当初からのぶは1年の大半を実家で過ごすことが決まってたわけだ。

 じゃあ嫁入り前夜の蘭子(河合優実)の「これからは(メイコと)2人で広々寝られるね」みたいなセリフはなんだったのよ。涙、涙のラジオ体操をどういう気持ちでやってたのよ。

 その実家から通勤している尋常小学校には陸軍中佐がやってきて、何やら訓示を述べています。従順な子どもたちを見渡して、のぶさんにっこり。

 にっこり。

 こいつ、次郎に「もう軍国教育したくない」みたいなこと言ってたよね。この日の笑顔と矛盾してるよね。これだと、普段家にいなくて金だけ運んでくる次郎という男前をオトすために嘘をついていたことになりますよ。「あなただけには本当のことが言えるの」「あなたの前だけでは素直になれるの」というポーズは、これは太客に対するキャバ嬢の仕草ですからね。

 そして、こののぶの「もう軍国教育したくない」がポーズではなく本心だとすれば、もっとひどいことになる。のぶ自身が心底嫌なことでも笑って受け入れるという生き方を選択していることになり、そのクソみたいな生き方をヤムや蘭子にも強要していることになるんです。

 蘭子は豪ちゃん(細田佳央太)を亡くしてるんだぜ。ヤムがゴリゴリの反戦主義者だってことも知ってるよな。それをわかった上で「わたしだって我慢してるんだからあんたたちも我慢しなさいよ」「今は笑って戦争に協力しなさいよ」と言ってることになる。釜じい(吉田鋼太郎)もうるせえよ、おまえ豪ちゃんの墓はもう彫ったのかよ。

 今日の『あんぱん』は、これまで蓄積されてきた若松(旧姓朝田)のぶという人物の薄情さ、無神経さ、そういう嫌な部分が全部出た回だったと思います。この人の立ち居振る舞いによって誰も幸せになってない。自分だけ首尾よくイケメンを捕獲して、ほかのみんながみんな嫌な思いをしている。こいつだけが自己矛盾と向き合うことがなく、周囲が尻拭いに奔走している。

 おそらく天下のNHKもあちらには受信料を取りに行けないだろうから、天国ではNHKは見られないでしょう。モデルとなった夫妻が『あんぱん』というドラマを見ていないであろうことだけが唯一の救いだよ。私は仕事だからがんばって見るよ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/05/29 14:00