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『あんぱん』第48回 のぶさん、性格が悪すぎます……脚本家の「自信のなさ」が見え隠れ

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『あんぱん』主演の今田美緒(写真:サイゾー)

 三谷幸喜の東京サンシャインボーイズに『彦馬がゆく』という作品があって、幕末の写真館の話なんですね。主人公の彦馬が営む写真館に坂本竜馬や伊藤博文、高杉晋作なんかがやってきて写真を撮ってもらうわけですが、確か近藤勇が「魂が抜かれる~!」って騒いでいたような記憶があるわけです。

『あんぱん』意図的に踏み抜かれる作劇のルール

 今、NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』で描かれているのは昭和16年あたり。西洋文化もすっかり生活に溶け込んでいて、朝田家はパンを焼いています。まぁ焼いてたのはヤムさん(阿部サダヲ)なんだけどそれはいいとして、もう幕末から70年も経っていて、新聞だって流通している。そういう時代に釜じい(吉田鋼太郎)とくらばあ(浅田美代子)よ、「魂抜かれる」じゃないんだよ。あなたのぶの祝言の日は平気な顔して写真に写ってたじゃないの。「あとで少し魂抜けたとか、大変やったがやき」って姑息なエクスキューズもダサいし、せっかく珍しく明るく楽しいコメディーパートなわけですから、もうちょい気軽に楽しませていただけないものですかね。そのカメラが往来でも屋内でも完璧に露出とフォーカスの合うiPhone並の超高性能オーパーツなのはもういいとして、こういうのは作家の倫理にかかわる問題だと思うんだよ。

 昨日も「意図的に設定の踏み抜きが行われてる」って書いたけど、優先順位がおかしいんですよ。老人がカメラを怖がることで笑わせたい、空気を和らげたいのであれば、祝言の日の記念撮影はノイズにしかならないじゃない。あそこで劇中におけるカメラの存在を印象付けたいというエモと、今回の空気の緩和と、その両取りのために釜じいとくらばあが「カメラ平気な人」から「カメラ怖い人」に変換されている。それをスルーすることを、私たちに強要してくる。やり方が横暴なんです。連ドラを見るということは、その記憶を積み重ねていくことです。私たちがドラマを見て積み重ねた記憶は、もう私たちのものなんです。それを作家ごときが勝手に壊すんじゃないよ。

 そういうことです。第48回、振り返りましょう。

のぶ、性格がよくないぞ君は

 今日はのぶさん(今田美桜)の性格の悪さが顕著に見られた回でしたね。せっかく次郎ちゃん(中島歩)が「撮ってみろ」とポーズを決めているのに「このカメラもフィルムも贅沢なもんですよね」などとイイコちゃんぶってためらったかと思ったら、実家ではシャッターを切りまくっている。

 みんなで記念撮影しようと思ったら「ヤムおんちゃんと豪ちゃんもおってほしかったな」などと取り返しのつかないことを言い出す。ヤムおんちゃんはおまえが陸軍から乾パンの仕事を勝手に請けてきて強制労働させようとしたからいなくなったのだし、戦死した妹の旦那に「おってほしかった」ってどういうことなのよ。思ってもおまえは言っちゃダメだし、言うとしたら蘭子(河合優実)だろ。おまえは蘭子に「死んだ豪を立派だと思え」などと言い放っているのだぞ、忘れたのか。

 夫婦そろって仏壇に手を合わせて、次郎ちゃんが「結太郎は家ではどんな人だったか」と尋ねると、ここでは羽多子さん(江口のりこ)が「娘らにはこじゃんと優しい」としか言えないエピソードトークの貧相さには結太郎(加瀬亮)を早々に死なせた弊害が出ているし、のぶが嵩(北村匠海)の描いた絵を持ち出す無神経さには呆れるばかり。

 この場面、のぶがこの絵を持ち出してくることが、次郎の「結太郎がどんな父親だったか?」という質問に対する答えになってないので、単に「別の男」の話を差し込んだようにしか見えないんです。なんか、あんまよく覚えてないけど「のぶは足が速いから夢に向かって走れ」みたいなこと、結太郎は言ってたろ。それと似たようなことを次郎が言ったから、次郎と結婚することにしたんだろ、その話をしてあげなさいよ。

 釜じいと蘭子の言う「のぶは変わった」というのもよくわからない。蘭子は「のぶはこうと思ったらまっしぐらに突っ走りよった」と言いますが、それが「愛国の鑑」になったから、「変わった」のだという。

 のぶが「愛国の鑑」と呼ばれるようになったのは、率先して慰安袋作りや募金活動に勤しんだことがきっかけであって、まさしく「まっしぐらに突っ走った」結果だったはずです。このあたり、先の展開(おそらくは次郎の死後)のために、今語るべき物語の腰が次々に折られていくというストレスフルなシークエンスでした。婦人会の3人衆はチャーミングでよかったよ。

戦争が終わったら

 御免与から高知へ帰る汽車の中、のぶはまた戦争が終わった後の話を始めます。

「こんなこと次郎さんにしか言えんけど、生徒らに楽しい授業をしたい」

 うん、そうだね。次郎さんにはそういう本音が言えるんだよね。だから結婚したんだもんね。だったら航海に送り出すときの態度はなんなのよ。帰ってこられないかもしれないと言っている夫に対して、なんで本音じゃないものを叩きつけるのよ。

 これも先の展開(おそらくは次郎の死後)に向けて「のぶに後悔をさせたい」という作り手の意図が見え見えで気持ち悪いんだよ。航海だけに後悔ってか。朝からしょーもないこと書かせないでよ。

 そんなわけで、どうにも「のぶがこの時期、次郎を心から愛した」という描写から逃げているような気がするんだよな。嵩と再婚するという展開に縛られすぎているというか、別に次郎を本気で愛した人が、嵩を本気で愛することだってあっていいし、その本気に説得力を持たせるのが脚本家の仕事だと思うんだけど、日和ってるというか、自信がないんだろうな。次郎も嵩も本気で愛した人生だった、のぶをそういう人として描く自信がないんでしょう。だったらオリジナル要素なんて入れなきゃいいのにね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/06/04 14:00