『しゃべくり007』はつまらなくなったのか? “打ち切り説”報道の背景を分析

くりぃむしちゅー、ネプチューン、チュートリアルの3組がレギュラー出演する日本テレビ系トークバラエティ『しゃべくり007』が、今秋での“打ち切り説”を報じられた。マンネリ化が大きな理由だと指摘され、2022年から始まったクイズ企画が視聴者に不評との見方もある。その一方で視聴率が落ち込んでいるわけではないので「終了するとは思えない」との意見もあり、情報が錯綜しているようだ。
ただネット上では「21時台に放送時間が変更されてからあまり観なくなった」「昔ほど毎週観る番組ではなくなった」との声があり、近年の同番組に不満を持っている視聴者は少なくないようだ。番組のマンネリ化やコーナーの不評は事実なのか。そして、今だからこそ見直すべき番組の魅力はあるのか。お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が解説する。
マンネリ化? クイズ企画の不評? 打ち切り説が浮上した背景
放送開始から約17年が経過した『しゃべくり007』の打ち切り説は、3日発売の「週刊女性」(主婦と生活社)が報道。記事では日本テレビ関係者が「この秋で『しゃべくり』が終了すると囁かれている」「すでに新番組の企画の募集も始まっていると聞いている」と証言し、打ち切りの理由としてマンネリ化を挙げている。
同誌によると、日本テレビでは『行列のできる相談所』などが終了した流れで、マンネリ化した長寿番組の整理を進める動きがあり、『しゃべくり007』は今秋、お昼の情報バラエティ『ヒルナンデス!』は来春をめどに、打ち切りの有力候補となっているという。
ただ『しゃべくり007』の視聴率は決して悪くなく、MCとして番組の中心となっているくりぃむしちゅーの上田晋也は日テレとベッタリの深い関係にあり、昨年に続いて今夏の『24時間テレビ』の総合司会を務めることも決定している。
そうした事情から「秋に打ち切りになることはないのでは」との見方もあるが、一部メディアでは2022年春の放送枠移動(月曜22時から21時に変更)によるリニューアルを機にスタートしたコーナー「クイズ!私のこと覚えてますか?」が視聴者に不評で、マンネリ化からの脱却に苦戦しているとも指摘されている。
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「刺激ゼロ」の無難なクイズ企画…マンネリ化が加速か
「クイズ!私のこと覚えてますか?」は、ゲストにゆかりのある人を集め、いつどこで会ったのかを思い出すクイズ企画。たとえば、3月に女優の広瀬すずが出演した際には、中学時代のバスケ部の顧問やNHK朝ドラ出演時に通っていた居酒屋の店長らが登場した。マンネリ化を改善する秘策のはずだったが、評判はどうなのか。
お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏はこのように評する。
「視聴者にとって『知らない人や関心がない人』が登場する『クイズ!私のこと覚えてますか?』が不評なのは、たしかに理解できます。共感性が薄いですから。あと、登場する人物も、ゲストにとってリスクがまったくない人が多い。刺激ゼロのエピソードトークに終始することが目に見えているので、視聴者的にはサプライズ感がありません。なにより登場するのが一般の方ばかりで、タレントのようにおもしろいエピソードトークができるわけではない。司会の上田さんらがなんとかおもしろおかしく転がそうとしますが、無理矢理盛り上げている感は否めない印象です。
登場する一般の方も、部活の恩師だとか、初恋の人だとか、ありきたりな立場ばかり。コーナー的にそうならざるを得ないですが、初恋の人が登場しても、視聴者からしたら驚きようがないですよね。つまり、番組を観る者としてどう反応していいか分からないのです。こうなってしまった理由は、制作者がゲストの方ばかりを見て、どうしたら視聴者がおもしろがるのかをイメージできていないことに尽きます。やるにしても特番向きの企画で、レギュラー放送には不向きでしょう」
「しゃべくり」が有名無実化…お笑いファンにとって「必見番組」でなくなった
やはりお笑い通から見ても上手くいっている企画にはみえないようだ。となると、番組のマンネリ化は認めざるを得ないのだろうか。田辺氏は続ける。
「『しゃべくり007』はレギュラー出演者である、くりぃむしちゅー、ネプチューン、チュートリアルのトーク力が一番の見どころでした。実際に番組立ち上げ当初は、3組がゲストをどのようにトークでもてなすかが中心になっていました。時には3組でノリを作って爆笑で落とすなど、アドリブコントみたいな流れでウケていました。しかし文字通りの『しゃべくり』だけでは内容の起伏が少ないと踏んだのか、番組タイトルに反し、時間枠移動後は前述したクイズ系企画などに頼るようになりました。その結果、レギュラー出演者たちの『しゃべくり』があまり機能しなくなったように思えます。
これには、放送時間が2022年3月までの22時台から21時台に変わったことも間違いなく影響しているでしょう。それまで以上の幅広い視聴者層を見込んだのか、キャッチーな内容を目指して番組をモデルチェンジさせました。しかしそれがうまくいかなかったのではないでしょうか。番組の軸が徐々にブレはじめ、『しゃべくり』の要素も薄らいでいったことで、お笑いファンにとって『必見番組』ではなくなったような気がします」
お笑いファンにとって、くりぃむしちゅー、ネプチューン、チュートリアルの3組の掛け合いを見ることが番組視聴の最大の理由だった。それがブレてしまったことで離れていった視聴者たちから、前述した「最近はあまり観なくなった」といった声が上がっているのだろう。
今だからこそ見直したい『しゃべくり007』の本当のおもしろさ
ただ決して番組の勢いが完全に落ちてしまったわけではない。実際に秋に打ち切りなるのかどうかはともかく、まだまだ見どころはあるはずだ。田辺氏は同番組の「本来のおもしろさ」をこう指摘する。
「先ほどお話ししたように、くりぃむしちゅー、ネプチューン、チュートリアルが、ゲストを巻き込みながら自分たちでノリを作って落とすのが『しゃべくり007』のおもしろさだと思います。私が特に大笑いしたのが、2021年1月18日に平手友梨奈さんがゲスト出演した回。平手さんにしゃべくりメンバーが『彼氏として見れるかどうか』と質問し、最初に『ゼロ』と言われたチュートリアルの福田充徳さんが真顔で『てち…』と平手さんの愛称をつぶやきました。
そのあとメンバーたちが次々と振られるたびに『てち…』と言っていく展開は、バラエティのノリの一つのお手本を見た気がしました。全員の表情、『てち…』の言い方、すべて完璧でした。なによりチュートリアルの福田さんが笑いの起点を作るのは、ほかの番組ではなかなか見ることができない。福田さんがそれをできたのも、やはり『しゃべくり007』特有のノリがあってこそではないでしょうか。
あと、マツコ・デラックスさんが同番組に出演すると、必ずしゃべくりメンバーと相撲のぶつかり稽古をするノリも最高におもしろい。そういったノリを、マツコさんの出演回のたびに何度も行い、そして元横綱・花田虎上さんとの共演時にマツコさんが相撲勝負で勝ったところは、しゃべくりメンバー全員でもぎとった金星のように思えました。悪ノリみたいだけど、ちゃんと計算されていてオチがつく。『しゃべくり007』にはそういうおもしろさがあると思います」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。