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『あんぱん』第50回 嵩に対してだけエモが発動するなら、のぶさんそれは不倫です

今田美桜(写真:サイゾー)
今田美桜(写真:サイゾー)

 結局のところ人の人に対する本心というのは、誰に対してエモーションが発動するのか、誰と熱量を持って対峙するのかがすべてであって、今日のNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』を見ていますと主人公ののぶ(今田美桜)という人はこの時点でも「夫・次郎(中島歩)のことは思ってない」「嵩(北村匠海)のことは思っている」ということが確定していることになってるんですよね。

『あんぱん』これでいいのかNHK

 この2人が後に夫婦になるドラマであることは承知していますけど、この時点で次郎より嵩への思いが上回るなら、これは不倫というものだと思うわけですよ。戦争という設定があるから何か厳粛なものに見えますけど、のぶという若い女性の「エモーションの発動」という観点からみると、次郎のいない間に行われたNTR(寝取られ)でしかない。

 よく、感動ポルノという言い方をしますよね。なるべくソフトに例えますけれども、のぶは次郎とはほっぺにちゅっちゅしかしてないのに、嵩とはベロチューしちゃってる。そういうイヤらしさを感じた回でした。

 第50回、振り返りましょう。

その前に家族の「呼び方」の話

 登場人物が誰をどう呼ぶか、というのは、その人が相手をどう捉えているかを表現する重要な要素だと思うんです。

 ようやく柳井の家に帰ってきた嵩くん。出迎えた千代子さん(戸田菜穂)はこんなことを言います。

「天国で、寛さんも、嵩さんのお父さんも見守ってくださるゆき」

 嵩さんのお父さんというのは早くに亡くなった柳井清(ニノ)のことですよね。千代子にとっては夫・寛(竹野内豊)の弟、つまり義理の弟です。寛は高知で清は東京で、親戚付き合いはそんなになかったのかもしれないけど、「嵩さんのお父さん」なんて他人行儀な呼び方をする関係性ではないでしょう。普通に「清さん」でいいでしょう。

 脚本家としては単に「清さん」と呼ばせたら視聴者が「清」が誰だかわからなくて混乱すると思ったんでしょうね。ここにきて清という人物をちゃんと描かなかったツケが回ってきたと感じたんです。「嵩さんのお父さん」と呼んだことに、別の意味が生まれてしまっている。千代子が清をあまりよく思ってない、家族の一員だと思ってない、そういう印象を与えることになってしまって、結果、目の前の嵩に対する気持ちにもブレが生じている。

 嵩が寛の遺影に決意を語りかける場面でも、今度は嵩が寛を「おじさん」と呼んでいる。

 寛が死んだとき、嵩は寛を「お父さん」と呼べなかったことを痛く後悔していました。そして“親友”ののぶに促される形で、空に向かって「お父さん」と呼んだりしていた。この瞬間から、嵩の中で寛は「お父さん」になったはずだった。それなのに、いざ出征を迎えるというときになって、また「おじさん」呼びに戻っている。

 この嵩の「お父さん呼び問題」自体が、寛が死んだことで急に出てきたハリボテの設定だったわけですが、それをどうにかこうにか飲み込んだら、またこういう雑なことをやってくる。嵩と寛の関係がリセットされて、結果的にあの「お父さん呼び問題」が尺を埋めるためだけの意味のないやり取りだったことを、脚本家自身が白状してしまっている。

「おじさん、今までありがとう。お国のために、がんばってきます」

 この嵩のセリフね、遺影を見下ろしながら「今まで、ありがとう。お国のために、がんばってきます、お父さん……」だったら、あのシーソーでの2人のやり取りがフラッシュバックして涙来ちゃったかもしれない。実にもったいない。ドラマを作ってる側が人物をコマとしか見てないから、こういうことが起こるんです。

で、不倫じゃないかという話

 のぶが不倫をした回、として振り返れば、冒頭の「おめでとうございます」もよく理解できます。ここでは、のぶは建て前を振りかざしている。ツンデレでいうところの「ツン」の状態ですね。

 で、いざもう嵩という男と二度と会えないかもしれないと実感したタイミングで、仕事を放り出して駆け出す。

『あんぱん』における「のぶが走る」というシーンは、このドラマの原点にして感情の頂点、この人物のもっとも根幹の部分が表現されるときに現れるシーンのはずです。

 次郎のためには一度たりとも走らなかったのぶが、嵩のために走っている。感動ポルノ的に言えば、もうエッチが始まっちゃってる。デレちゃってる。

「死んだら承知せんき!」

 そののぶの叫びはもう、この女の人のどっかから何かがあふれ出た「ぶしゃー!」という音と一緒ですよ。あんなのは音です。言葉ではないんです。眉をしかめて、感じちゃってるんです。そんなのを見て泣けるわけがない。

 結局のところのぶはずっと嵩に対してツンデレをやってただけで、次郎さんはのぶの興奮を極限まで高めるための当て馬でしかなかった。そういうことも明らかになった回でしたね。ああ、イヤらしい。

松嶋菜々子は掛け値なしにセクシー

 とはいえ感動ポルノが嫌いなわけじゃないからね、ポルノを見るからには、こっちだって興奮したいし、あわよくばまぶたの隙間あたりから液体を放出させていただきたい。

 そういう意味で、松嶋菜々子のほうはセクシーだったと思いますよ。銀座から瞬間移動してきたことにも、登場の瞬間に目の前がモーゼの十戒みたいに開けた光景にも笑ってしまったけど、まだこの人のほうが主人公様より一貫してるんだよな。意味不明だけど激情的であるという一点において一貫している。だからちゃんと迫力が出るんだよな。

 のぶはその登美子の迫力に触発されて「ぶしゃー!」したわけだけど、じゃあそもそも何を言いに来たんだこいつ。こういう流れだと、登美子が登場しなかったら、のぶは「死んだら承知せんき!」なんて言えなかったことになるじゃんね。つくづく作劇が弱いというか、失敗してると思っちゃうよね。

 そんなこんなで嵩は軍隊へ。さっそくブン殴られてましたね。妻夫木聡、どんな感じになるのかな。あとは、のぶちゃんが嵩の出征中(次郎も不在中)、御免与の実家で暮らすのか高知の留守を守るのか、そういうところにも注目して見ていこうと思います。はい。今日はなんかすみません。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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どらまっ子AKIちゃん

どらまっ子。1977年3月生、埼玉県出身。

幼少期に姉が見ていた大映ドラマ『不良少女と呼ばれて』の集団リンチシーンに衝撃を受け、以降『スケバン刑事』シリーズや『スクール・ウォーズ』、映画『ビー・バップ・ハイスクール』などで実生活とはかけ離れた暴力にさらされながらドラマの魅力を知る。
その後、『やっぱり猫が好き』をきっかけに日常系コメディというジャンルと出会い、東京サンシャインボーイズと三谷幸喜に傾倒。
『きらきらひかる』で同僚に焼き殺されたと思われていた焼死体が、わきの下に「ジコ(事故)」の文字を刃物で切り付けていたシーンを見てミステリーに興味を抱き、映画『洗濯機は俺にまかせろ』で小林薫がギョウザに酢だけをつけて食べているシーンに魅了されて単館系やサブカル系に守備範囲を広げる。
以降、雑食的にさまざまな映像作品を楽しみながら、「一般視聴者の立場から素直に感想を言う」をモットーに執筆活動中。
好きな『古畑』は部屋のドアを閉めなかった沢口靖子の回。

X:@dorama_child

どらまっ子AKIちゃん
最終更新:2025/06/06 14:00