ちょんまげラーメン「あえてダサい名前」に改名した狙いは? 「たかがコンビ名」ではない、お笑い界の改名事情

お笑いコンビのインディアンスがTBS系『水曜日のダウンタウン』のドッキリ企画をきっかけに「ちょんまげラーメン」に改名した。すでに中堅クラスで知名度もあっただけに驚きの声が広がっているが、過去にも一定の認知度のあるコンビが改名したケースや、改名を機に本格ブレイクを果たした例などがある。
改名の意図や効果、メリットとデメリットについて、お笑い事情に詳しい芸能ライターの田辺ユウキ氏が解説する。
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さまぁ~ず、くりぃむ、コットン……意外と多い「改名後に本格ブレイク」
18日放送の『水曜日のダウンタウン』では、インディアンスの田渕章裕ときむに「ネイティブアメリカン系のそれっぽい団体から改名を要求される」というドッキリが仕掛けられ、苦悩の末に複数あった新コンビ名の候補から「ちょんまげラーメン」を選んで改名する様子が描かれた。
あくまでドッキリだったのだが、放送後に所属先の吉本興業を通じてちょんまげラーメンへの改名を正式に発表。2021年の『M-1グランプリ』ファイナリストにもなった実力派コンビであるだけに、まさかの「番組企画で本当に改名」という展開に衝撃が広がり、SNS上では「ドッキリでそのまま改名って斬新すぎる」「インディアンスからちょんまげラーメンって振れ幅がすごい」「売れない若手が起爆剤に、というのではなく、M-1の決勝にも行ってるコンビがというのは衝撃的」などと驚きの声が集まった。
ファンにとっては青天の霹靂といえそうだが、同じようにある程度の認知度があるコンビが改名するケースは少なからずある。
もっとも有名なのは「さまぁ~ず」と「くりぃむしちゅー」だろう。前者はバカルディ、後者は海砂利水魚として一定の人気を得ていたが、TBS系『新・ウンナンの気分は上々。』の企画で改名。双方とも当初は期間限定の改名だったのだが、新コンビ名になってから本格ブレイクしたこともあって、そのまま現在に至っている。
また、人気コンビのコットンはもともと「ラフレクラン」というコンビ名だったが、大物司会者らが名前を紹介する時に噛んでしまうことが多く、名前が覚えづらいという声もあり、2021年4月に現在のコンビ名に改名。以降はコンビ名が覚えやすくなったおかげか、大きく認知度が高まっている。
そのほかにも「親不孝」や「銭と拳」といったコンビ名だったサンドウィッチマン、初期に「なめくぢ」と名乗っていたよゐこ、「青空てるお・はるお」などのコンビ名を経てブレイクしたダウンタウンなど、改名を経験して花開いたコンビは数多くいる。
その一方、改名は売れないコンビの“あがき”という側面もあり、改名からほどなく解散してしまうケースも少なくない。
ただインディアンスの改名については、Yahoo!ニュースのエキスパートコメンテーターを務めるかもめんたるの岩崎う大が「すごくいい改名だと思います。経緯も人気番組からの派生という話題になるかたちのもので、波に乗せてくれる改名になるのではないでしょうか」「コンビ名って、自分たちが何者でもないうちに付けるので、全然自分たちの芸風と関係ない名前だったりもするので、ある程度スタイルが決まったら改名しちゃうというのも手かもしれません」と評しており、ファンからも好意的に受け止められているようだ。
ちょんまげラーメンが「あえてダサい名前」にした狙い
インディアンスからちょんまげラーメンへの改名について、芸能ライターの田辺ユウキ氏はこう分析する。
「ある程度、売れている状態でのコンビ名の改名は、本来はメリットになりづらいと思います。たとえば音楽の世界だと、2014年にロックバンドの[Champagne]が[Alexandros]に改名することになりました。ワイン関連の団体からの抗議を受け、改名しなくてはいけない状況でした。[Champagne]は当時でもファンが非常に多く、改名発表も日本武道館でのライブで行われたくらいでした。もちろん音楽ファンの間では、長い間、違和感を持たれていました。ただ、それでも浸透させることができたのは[Alexandros]の音楽性が飛び抜けてすごかったから。実力で、改名の違和感を拭い去ったと言えます。
ちょんまげラーメンも、ジャンルは違えど[Alexandros]と重なる気がします。『M-1グランプリ2021』決勝3位などの実績がありますし、お笑いファンであれば、その存在を知らない人はいません。それは田渕さん、きむさんも、自覚しているところでしょう。そしてちょんまげラーメンへの改名に違和感を持たれることも、織り込み済みなはず。そういった違和感を払拭させられる自信を持っていらっしゃるからこそ、思い切って改名ができた気がします。あと、お二人はちょんまげラーメンというコンビ名を気に入っていたようですが、良くも悪くも間が抜けたコンビ名ですよね。あえてダサい感じにしたのは、まさにバカルディがさまぁ~ずへ、海砂利水魚がくりぃむしちゅーへ改名したときのことを思い出しました」
「あえてダサい名前にした」ことによる効果について、田辺氏はこう指摘する。
「近年、お笑いコンビやトリオのグループ名はオシャレなものが多い。その点でちょんまげラーメンというネーミングセンスは時代と逆行している。ちょんまげラーメンの大きな狙いとしては、コンビ名の時点で『自分たちはお笑い芸人である』とアピールできることではないでしょうか。お笑いにあまり詳しくない高齢者でも名前を聞いたら『この人たちはお笑い芸人だ』と分かるものにしたかったのだと、私は考えます。
インディアンスだと、音楽バンドのように受け取られる可能性もありますよね。でもちょんまげラーメンはそうは思われない。つまり、より幅広い年齢層に自分たちのことを知ってもらいたいという気持ちが、今回の改名には込められているのではないでしょうか。ちなみにこれは余談ですが、大阪には『らーめん チョンマゲ』というラーメン店があり、大阪天六店の美人店長はTikTokでも大人気です。バラエティ番組でも取り上げられるなどしており、今後、ちょんまげラーメンとのコラボレーションがあるのではと期待しています」
改名にはデメリットも……ちょんまげラーメンはどうなる?
ただ物事にはメリットとデメリットの両面があり、先述したように改名したコンビがみんなうまくいっているわけではない。改名による影響について、田辺氏はこう解説する。
「改名によるプラスの影響は、先述したようにちょんまげラーメンというネーミング自体がお笑い要素満載なので、ちびっこや高齢者に受け入れやすいという点です。逆にデメリットとしては、感覚的なオシャレさを求める若年層からは、コンビ名で敬遠される可能性もあるのではないでしょうか。あと気になるのは、『たかがコンビ名』になるのか、『されどコンビ名』になるのかというところ。せっかく人気が上がってきていたのに、コンビ名を変えて失速したコンビは意外と多くいますから。
たとえば大阪で力をつけた、なすなかにし。若手のころから漫才の実力が高く評価され、2008年に東京進出。ただ、松竹芸能の先輩である、ますだおかだの岡田圭右さんから『今のコンビ名だとどっちがどっちか分かりにくい』と指摘され、2010年に『いまぶーむ』に改名。東京進出後、やや苦戦していた焦りもあったのでしょう。ただ、いまぶーむへの改名は悪手となり、その存在が余計に浸透しなくなりました。結局、なすなかにしに戻して、それから大ブレイクを果たしました。コンビ名の『印象』がいかに大切なものであるか、よく分かる実例です」
そうなると、今のところ好評となっているちょんまげラーメンの改名にも不安がよぎるが、田辺氏は好意的な見方を示す。
「それでもちょんまげラーメンの場合、『水曜日のダウンタウン』という非常に人気のある番組で改名を実行したことで、その衝撃度がインディアンスというもともとのコンビ名の印象を上回り、新コンビ名の馴染みを一気に引き寄せた。そういう話題性だけでも、良い影響が生まれているのではないでしょうか。加えて、番組の企画の中で見せた田渕さん、きむさんの改名に対するリアクションがとても好感が持てるものだった。
特に株が上がったのは、きむさん。旧インディアンスが『M-1』で結果を残し、テレビ出演が増えたとき、きむさんはどちらかというと嫌われキャラでした。文句が多く、ひがみっぽいところにスポットライトが当たったからです。でも今回の改名ドッキリでは、きむさんの、抗議してきた相手の言うことにしっかり耳を傾けるなどの物腰の柔らかい態度が目立ち、好感度が上がった気がします。その点でこの企画は、ちょんまげラーメンにとって追い風になったのではないでしょうか」
(文=佐藤勇馬)
協力=田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。